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夢の汽車に乗って 迷い星  <中編>  ~七夕ストーリー~

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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「なぁ、どうせ毎日朝から晩まで就活をしてる訳じゃないんだろ?
 きっと気分転換にもなると思うし、何より人助けだと思ってさ。
 週に二~三日で良いから、ちょっと手伝ってくれないか?」

もう三十一、二年前の事だ。
卒業前に就職が決まらなかった俺は
地元に戻って一年間就職浪人をしていた時に
晃の誘いでとあるボランティアの手伝いをする事になった。


そんな或る日、その日の仕事が終わって帰ろうとしていた時だった。

「山崎さん? 山崎さんって高梨さんの友達でしたよね?」

そう言って声を掛けてきたのが菅原美奈子だった。

「えっ? あぁ、そうだけど」

菅原美奈子の第一印象はセミロングの髪が似合う明るい子だった。
実際、笑うと目尻が下がってクシャクシャな笑顔になるんだけど
それが又、嘘なくらい可愛かった。
人伝に聞いた話だと歳は俺より二つ下で地元の信用金庫に勤めているらしい。
ボランティアでは同じ班になる事はなくて
あまり話した事も無かったけど俺はしっかりチェックだけはしていたのだ。

その美奈子から俺に話しかけてきたのだ。
俺はちょっとドキドキしながらも努めて平静さを装って聞き返した。

「何?」

聞き返す俺に美奈子は少しためらいながら口を開いた。
いつも遠くから見ていた笑顔ではなくむしろ神妙な面持ちだったが
そんな顔も又、素敵だと思った。

「すみません。いきなりな話なんですけど・・・
 あのぉ、私の友達の有希が高梨さんの事を好きらしくて。
 で、私『いつも傍にいるんだからチャンスはあるでしょ?
 思い切ってアタックしたら?』って言ってたんですけど。
 でも、いざとなるとなかなか高梨さんに言えなかったみたいで。
 で、私。なんとかしてあげたいなって・・・
 で、その・・・高梨さんに・・・訊いてもらえませんか?
 有希はシッカリ者だし、料理なんかも得意で・・・えーっと・・・
 そう! でも、他人の面倒見は良いくせに自分の事になるとからっきしで
 とにかく良い子なんです! だから、その・・・」

「晃?」

俺は内心ちょっとガッカリしたけど、まぁ現実はそういうもんだろう。

「有希さんって・・・あぁ、晃と同じ班のショートカットの子だっけ?」

「はい、傍で見ていても二人は良い感じに見えるんですけど
 でも、何だか高梨さんの方が、何て言うのか・・・
 あのぉ、高梨さんって彼女とかいるんですか?」

「んー、今はいないと思うけどね」

「ホントですか! じゃ、ぜひお願いします!
 高梨さんに有希の事をどう思っているのか訊いてもらえませんか?
 ダメならダメでも良いんです。
 でも、ハッキリしないと有希もケジメが付かないと思うし」

「オーケー。解った。訊いてみるよ」

「ありがとうございます!」

そう言うと美奈子はペコリと頭を下げた。

『さてさて、引き受けはしたものの、どうやって晃に話そうか?
 こりゃ、責任重大だぞ!』

俺の話し方ひとつで、もしかしたら上手くいくかもしれないし
もしかしたら全てがオジャンになるかもしれない。
上手くいけば美奈子に感謝をされるだろうけど
万が一、上手くいかなければ美奈子に頼りない男だと思われてしまうだろう。

『さて、どうやって・・・』

俺はしばし腕を組んであれやこれやと作戦を考えていた。


ところが実はこれは晃と有希が考えた計略だったのだ。

もちろん、これは後で解った事ではあるんだけど
その時には二人はもう既に付き合っていて
なんと晃と有希は俺と美奈子を近づけようとしていたのだ。

それを知らない俺はその夜、晃に電話をした。

『おぉ、どうした?』

考えあぐねた末に出した結論。
それは単刀直入だった。
なんとも我ながら情けない結論だと思った。
だが、下手な小細工はむしろ上手くいく事さえダメにするような気がしていた。

「いや、実は今日。菅原美奈子が来てさ」

『菅原? あぁ、お前が前に可愛いって言ってた子な? それで?』

「うん、それでね。有希さんってお前の班にいるだろ?
 その子がお前の事を好きだって言うんだ。
 で、今彼女がいないのなら付き合ってくれないか訊いてくれって言われてさ」

『有希? あぁ、有希ね・・・』

「どう?」

『どうって・・・まぁ、可愛い子だと思うよ』

「じゃ、付き合ってみたら?」

『そうだな、考えておくよ』

何だか、いつもの晃らしくなく妙に素っ気ない返事だった。

「何だよ? 気に入らないのか?」

『いや、そういう訳じゃ・・・
 そうだ! そしたらさ。今度の日曜日に四人で会わないか?
 いきなり二人でって言われても、何か照れくさいしさ。
 良いだろ? 付き合えよ。お前にも責任はあるんだからさ』

「責任? 責任って何だよ?」

『お前、菅原美奈子が可愛いって言ってたろ?』

「まぁ・・・」

『なら、ここで親しくなっておくのってお前にとってもチャンスじゃない?』


次の日曜日。祐二さんの喫茶店で四人で会った。
他愛もない話やお互いの小さかった頃の話とかで盛り上がって
気が付けば四時間以上が経って時間は夕方の六時を過ぎていた。

「おっ、もうこんな時間か? 有希、この後どうする?
 時間があるなら何処かで食事でもしてく?」

晃が有希に訊いた。

「はい、喜んで!」

有希は笑顔で答えた。

「お前らも行くだろ?」

晃が俺に訊いた。

「いや、これ以上お邪魔虫はしないよ。お二人で仲良くどうぞ」

「そっか。そしたら和也。お前、ちゃんと美奈子さんを送って行けよ」

「えっ? 俺?」

「何を言ってんだよ。当たり前だろ?」

「でも、美奈子さんだって都合とか・・・ねぇ?」

「いやでも、山崎さんに迷惑だし・・・」

俺と晃を見比べながら戸惑いの表情を見せる美奈子。

「そんな事はないよ。なぁ?」

晃が俺の背中を押した。

「もちろん」

「じゃ、美奈子さんを頼んだぞ」

そう言って晃は俺の肩をポンと叩くと有希と連れだって店を出て行った。


<美奈子さんを頼んだぞ>の意味がどういう意味だったのかはともかく
今、思うとしらじらしいくらいの晃と有希の小芝居に乗せられたかっこうで
店を出た後、俺は美奈子を送る事になった。


「あの二人、かなり良い感じでしたよね。きっと上手くいきますね」

歩きながら美奈子は本当に嬉しそうに言った。

「そうだね。上手くいくんじゃない?
 何だか、あの二人はもう何年も付き合ってるみたいに自然に話が合っていたしさ」

「ですね。良かったぁ」

まるで自分の事のように美奈子は心からの笑顔を見せた。
その笑顔は俺の心臓を射貫くには十分過ぎるくらいの威力があった。


キッカケはともかく。
その件があったお陰で俺達も自然に付き合うようになっていった。

幸せな時間だった。

愛し合うという事は決して時間の長さではなくて
その期間にどれだけお互いの想いを尽くせるのか?
その深さなのだと実感できた日々だった。


それから夏が来て秋になり年が明けて
やがて冬が盛りを過ぎた頃、ようやく俺の就職が決まった。


「ホント!? 良かったね。うん、良かった!」

祐二さんの店のいつものカウンターではなく
その日は窓際のボックスの席に美奈子を座らせて就職の報告をした。
先ずは誰よりも先に美奈子に聞いて欲しかったのだ。

「ありがとう。何だかね。ようやくスタートラインに立てた気分だよ」

「そうね。大変なのは働き始めてからだものね。
 何でも相談して。こう見えて私の方が社会人としては先輩だから」

「はいはい。お願いします! 頼りにしてます、先輩!」

「オッケー、任せといて! って、言いたいとこだけど。
 でも、和也の方がずっと大人だもんね。
 私なんか、頼りになるかしら?」

「あはは、頼りになるよ。さすがに信金勤めだけあってシッカリしてるしさ。
 美奈子になら結婚をしても安心して給料を全部預けられるよ」

「えっ?」

驚いた顔で美奈子が俺を見た。

「オホン!」

ひとつ咳払いをすると席に座り直して俺は美奈子の目を見て言葉を続けた。

「あのさ。実はもうひとつ報告があるんだ」

「・・・」

「実は勤務先なんだけどね。S市に配属される事になったんだ」

「S市? そっか、けっこう遠いね・・・」

俺の視線を外して窓の外を見ながら美奈子はポツンと言った。
S市はここからだとJRでも五時間はかかるし車だと六時間近くはかかる距離にある。

「それでさ。あの・・・そんなに頻繁には戻って来れないと思う。
 入社したら一ヶ月はビッシリ研修もあるし・・・
 だから、その・・・一緒に来て欲しいんだ。
 もちろん、美奈子も仕事の事だってあるだろうからすぐにとは言わないけど。
 でも、なるべく早く来て欲しい。 美奈子、結婚しよう!」

「・・・」

目の前には戸惑った顔の美奈子がいた。

取らぬ狸の皮算用とはまさにさっきまで自惚れていた俺だ。
結婚の時期はともかく、すぐに良い返事がもらえるものだとばかり思っていたし
その<答え>しか想定してはいなかったのだ。

取り繕うように俺は続けた。

「いや、だから・・・すぐじゃなくて良いんだ。
 美奈子の仕事が・・・」

そう言いかけた時に美奈子が呟いた。

「ありがとう。とても嬉しい・・・
 でも、すぐに返事は出来ない・・・ごめんね」

「いや、良いよ。そんな急に言われたってね」

自嘲気味に俺は言った。

「そんなんじゃないの。ただ・・・すぐには決められない・・・」

「うん、判った。良く考えてくれないか?
 俺は美奈子に一緒に行って欲しい。いや、美奈子と一緒に行きたいんだ」

「うん・・・ごめんね」


美奈子の結論が貰えないまま俺はS市に赴任した。

もちろん、それまでも変わらずに美奈子とは会っていたし
俺が赴任してからも二日に一度は電話をし他愛もない会話に笑い合っていた。
月に一度は極力帰って美奈子との時間を作っていた。

会っている時の美奈子は<何事>も無かったかのように
それまでと何ら変わらずに俺を愛してくれた。
俺も美奈子を愛した。


俺はいつも美奈子の結論・・・もちろん、良い意味での結論を待っていた。
でも、訊けなかった。訊くのが怖かったのだ。
俺が急げば急ぐほど出る結論は悪いものになるんじゃないか?
そんな思いがいつも俺の頭の中にあった。

そしてそれは現実になった。


美奈子の家庭は母子家庭でまだ高校生の妹と中学生の弟がいた。
母親が女手ひとつで美奈子達を育ててくれていたのだが
長年の無理がたたり、その頃母親は入退院を繰り返すようになっていた。
フルタイムで働けない母親の代わりに
高校を卒業すると就職をした美奈子は妹弟の学費を面倒見ていたのだ。


今にして思えば俺にも美奈子にも違った選択肢はいくつも有ったのだろう。
だが、あの時の二人は目の前の事しか考えられずにいたように思う。
<白か黒か?> <イエスかノーか?>
答えはどちらしかないと思っていたのだ。


別れて五年ほど経った時、晃から美奈子が結婚をしたと聞いた。
そして、それから三十年が経とうとしていた。


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