Neko

夢の汽車に乗って メリークリスマス (クリスマスストーリー後編)

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


カレンダー

03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

最近の記事


カテゴリー


最近のコメント


フォト・ポエム


クリックお願いします。


月別アーカイブ


しんしんと雪が降るクリスマスの夜
街中のイルミネーションも降る雪に霞んでいた。

病院の駐車場に車を停めると
男は小走りに病院の玄関に向かって走り出した。

「おっと!」

二~三度転びそうになりながらも何とかこらえて
男は無事に玄関に駆け込んだ。

エレベーターの前でゆっくりと上がっていく
オレンジ色の点滅をもどかしげに見ていた男は
ふと見た先に階段を見つけると階段に向かって駆けだした。

そのまま一気に三階まで駆け上がると
丁度そこは妻の入院をしている病室のすぐ前だった。

男は病室のドアを開けるとすぐさま妻の元に駆け寄った。

「まぁ、司さん! 早かったのね」

「司君、お帰り」

「あー、お義父さん! あっ、お義母さんも」

ベッドの傍らには満面の笑みを浮かべた妻の両親が立っていた。
病室に駆け入って来た娘婿を義父がねぎらった。

「ご苦労さんだったね。この雪じゃ大変だったろ?」

「あっ、いえ」

「そうそう。司さん、ごめんなさいね。
 私達の方がパパより先に赤ちゃんに対面させてもらったのよ」

申し訳なさそうに義母が言った。

「いえ、全然」

司は笑顔で答えた。

「もう仕事は良いの?」

出産という大仕事をやってのけた充足感からか
いつも以上に清々しい笑顔で妻は尋ねた。

「クリスマスの夜に残業をさせるほど
 うちの会社はブラックじゃないよ。
 それより赤ちゃんは?」

妻のベッドの横には小さなベッドが並べて置いてあったがそこは空だった。

「今、看護師さんがオムツを替えてくれているの。
 もうすぐ戻って来るわ」

「そっか」

産まれたばかりの赤ちゃんとの感激の初対面を期待していた男は
あからさまにガッカリした風で
それでも寸でのところで妻に大事な事を言い忘れていた事に気が付いた。

「縁(ゆかり)。お疲れ様。そして、ありがとう!」

そう言って男は妻の手を握った。

「すっかり赤ちゃんに夢中で私の事なんか忘れているのかと思ったわ」

縁はそう言ってわざと大袈裟に口を尖らせた。

「いや、そんな事なんかあるもんか!」

「ふふ。どうだか」

そう言いながらも縁は嬉しそうだった。


「ねぇ? 名前はどうしようか?
 いくつか候補は考えてあったけど
 いざ、赤ちゃんの顔を見たらどれが良いのか迷ってしまうわ。
 だって、これから一生付き合っていく名前だもの。
 こんな子に育って欲しいとか、幸せになって欲しいとか
 つい、アレもコレもって欲張っちゃうわ」

「あはは。そんなもんだよ」

義父が笑顔で言った。

「私の時もそうだった?」

「そりゃもう大変だったわ」

義母が嬉しそうに笑った。
そして、ふと間を空けると思い出してでもいるように呟いた。

「あの子が亡くなって程なくしてあなたを身ごもったのが判ったの。
 嬉しかったわ。あの子が戻って来てくれたって。
 もちろん、あなたはあの子じゃないわ。
 あなたはあなたよ。
 でもね、あの時は心の支えを無くしていたから」

「うん」

神妙な顔で縁は話に頷いた。

「みゆきか・・・可哀想な事をしたよ」

義父がしんみりと言った。

司も幼くして亡くなった縁の姉の事は聞いていた。
司はそっと縁の手を握った。

「あなたが産まれるまでも大変だったのよ。
 お父さんったら、アレもするな、コレもするなって。
 ねぇ? どこかのお姫様じゃあるまいし
 妊娠したぐらいで家事も放っておけないじゃない?
 そうそう! 名前なんて、もう何十個考えたかしら。
 お父さんなんてね、いちいち半紙に書き出して
 画数がどうのとか、この字はダメだとか。
 そりゃもう大騒ぎだったわ」

「お父さんらしいね」

「オホン。だって、お前・・・仕方ないじゃないか。
 どうしても縁には幸せになって欲しかったんだよ。
 みゆきの分も、いやそれ以上にね。真剣にもなるさ」

「そうね」

「あぁ、そうさ」

「でね。人間って幸せになる為には
 たくさんの人に縁をもらって生きなきゃいけないの。
 お父さんとお母さんとの縁、みゆきとの縁もそう。
 そして、友達やら・・・今は司さんとの縁もそうよね。
 その縁を繋ぐ事で幸せになれるのよ。
 そんな縁をたくさんもらえますようにって願ったの」

「だから<縁(ゆかり)>なんだね。
 初めて聞いた」

縁は司の手を取ると腕に抱きついて幸せを感じていた。


「お待たせしました。あらっ、パパも到着ね?
 はい、お父さんですよー」

恰幅の良い、いかにも人の良さそうな看護師が
そう言うと、赤ちゃんを司の元に連れて来た。

看護師に抱っこされたままスヤスヤ眠っている娘を
初めて見た時、司は頷いた。

「うん、良い寝顔だね。この子は幸せになるよ。
 だって、みんなから素敵な縁をたくさんもらった縁が産んだ子だもの」

「そうだね」

縁も頷いた。

「よし、決めた!」

「えっ、何?」

「名前さ。この子の顔を見て決めた」

「何? 今まで考えてた名前?」

「いや、今思いついたんだけどね。
 でも、この子は絶対に気に入ってくれるよ」

「ねぇ、何?」

縁、義父、義母、
そして赤ちゃんをベッドに寝かせ付けていた看護師の視線が司に集まった。
司はみんなの視線に気が付いて少し赤面をした。

「やだなぁ-、そんなにじろじろ見ないでくださいよ」

「良いからもう、早く教えてよ!」

戸惑う司を縁がせき立てた。

「あの・・・クリスマスの雪の夜に産まれた子だからさ。
 聖夜の<聖>に降る<雪>と書いて<みゆき>と言うのはどうかな?」

思わぬ名前に義父と義母は顔を見合わせた。

「ダ・・メ・・・かな?」

司は恐る恐るみんなを見渡した。

「でも、司君・・・」

義父の言いかけた言葉を縁が遮った。

「うん。キレイな名前! 良い、絶対良いよ!」

そう言うと縁は半身を起こすと傍らのベッドを覗き込み
髪を優しく撫でながら赤ちゃんに語りかけた。

「聖雪ちゃん、良かったね。素敵な名前を付けてもらって」

「そういや、みゆきの産まれた時に似ているかな?」

「いいえ、お父さん。私が産まれた時の顔にソックリですよ」

「おいおい、それじゃ司君が嫌がるぞ」

「まぁ! そうなの、司さん?」

義父の言葉に憮然として義母が訊いた。

「あっ、いえ。そ、そんな」

「冗談よ」

そう言って義母は声を上げて笑った。
みんなもそれに釣られて声を上げて笑った。

「おや、賑やかそうだね」

そう言って病室に入って来たのは主治医の八代医師だった。
何年も着古しているようなヨレヨレの白衣姿は
パッと見は冴えない印象だが、この地域では名医として知られていた。

「縁さん、調子はどうだい?」

「はい、お陰様で幸せです」

「そうかい、そりゃ何よりだ」

その言葉に微笑むと八代医師は赤ちゃんの寝顔を覗き込み話しかけた。

「うん、良い寝顔だ。
 これだけ賑やかなのにスヤスヤ眠っているなんて
 この子は元気な子になるな。
 早く良い名前を付けてもらうんだぞ」

「あら、先生。名前ならもう付けてもらったんですよ。
 ねぇ-、素敵な名前よね?」

聖雪に話しかけながら看護師が楽しそうに答えた。

「ほう! で、何ちゃんかな?」

「はい。聖夜の<聖>に降る<雪>と書いて<みゆき>です」

「<みゆき>ちゃんか。まさに今夜は聖雪ちゃんの為の夜だね。
 そうそう!」

思い出したように言うと八代医師は小脇に抱えていた小さな箱を縁に手渡した。

「何ですか?」

「開けてごらん。サンタさんからのプレゼントだよ」

そう言って八代医師はニヤリと笑った。
縁が箱を開けると中には高さが15cm程のクリスマスツリーが入っていた。

「まぁ!」

「少しは病室も賑やかになるかと思って持って来たんだが
 その必要はなかったかな。もう十分に賑やかだしね」

「いえ、そんな。ありがとうございます。
 聖雪には何よりのプレゼントです」

「いや、一番のプレゼントは名前だよ」

「はい!」

縁は最高の笑顔で答えた。

「そうそう、加藤君?」

八代医師は看護師に話しかけた。

「そういえば、さっき婦長が探していたぞ」

「あっ、いけない! つい長居しちゃったわ。
 縁さん、何かあったらすぐにコールしてね。
 今夜は私が夜勤だから」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃね。又、後で様子を見に来るわ」

ドタドタと加藤看護師が病室を出たと思った途端
又、病室のドアがゆっくりと開いた。

「メリークリスマス!」

そう言って入って覗き込むように来たのは
縁が出産の時に立ち会った日勤の看護師の七瀬だった。

「あらっ、七瀬さん! 先ほどはありがとうございました」

縁はそう言うと笑顔で頭を下げた。

「あっ、とんでないですよ。
 どうですか? まだ間もないんだから無理はダメですよ」

「はい。大丈夫です。
 こうしてみんなでこの子を囲んでいると不思議なくらい元気をもらえます」

「ホント、赤ちゃんってすごいパワーを持っているんですよねー」

そう言いながら七瀬は聖雪の頭を二度、三度と優しく撫でた。
それから縁に向かって訊いた。

「そう言えば名前はもう決まりました?
 まだなら詰所に何故か名付けの本がたくさんあるんですけど
 何冊か持ってきましょうか?」

「決まったんですよ」

「あらっ、ホントですか? 何て名前なんですか?」

縁は名前を教えた。
司が説明をしたのと同じ言い方で。

「あら、素敵! 誰が考えたんですか? 縁さん?」

「いえ、パパが」

縁はそう言うと嬉しそうに司を見た。

「まぁ、パパさんてロマンチストなんですね」

「普段はそんな所は見せないんですけどね」

「おいおい、それは余計だろ?」

「そうだよ。縁を選んでくれた時点で良い婿さんだと思ったよ」

義父が司をかばった。

「もう! 冗談に決まってるでしょ!」

「あはは、もう良いよ」

司は苦笑した。

「そうだ! 忘れるところだったわ。ちょっと待ってて」

そう言うと七瀬は病室を出て行ったが、すぐに戻って来た。
後ろ手には何か箱のようなモノを隠していた。

「じゃーん! はい、聖雪ちゃんにプレゼント!」

そう言うと七瀬は縁に箱を手渡した。
駅前の有名なケーキ屋の箱だ。

「どうしたの?」

「クリスマスですからねー、ケーキです!
 部屋に帰って独りで食べるのも寂しかったんで一緒にどうかなって」

「嬉しいわ!」

「そうだ、肝心のクリスマスケーキを忘れてた」

司はそう言うと頭を掻いた。

「出産騒ぎでそれどころじゃなかったろうさ」

「騒ぎって?」

縁は父親をきっと睨んだ。
義父としては婿をフォローをしたつもりだったが
またしても少し的が外れたようだった。

「いや、それはその・・・」

「聖雪のバースデーケーキでもあるね」

今度は司が話題をそらそうと義父をフォローした。

「仲の良いお義父さんとお婿さんですね。
 私もそんなお婿さんが欲しいなぁ-」

「七瀬さんなら大丈夫よ」

苦笑しながら縁は言った。

「えー? ホントですか?
 じゃ、ダメだったら縁さんが責任を取ってくださいね」

「それじゃ、司さんの同僚でも紹介しようか?
 ねぇ、司さん?」

「えっ? あっ、あぁ・・・」

「おいおい、いったい何の話になってるんだい?
 ここは結婚相談所じゃなくて病室だったはずだが?」

八代医師がもっともな事を言ってみんなを笑わせた。


「じゃ、とりあえず私達はここで失礼するよ」

「明日又、来るからね。そうそう、何か必要な物はある?」

「ううん、とりあえずは大丈夫。
 お父さん、お母さん、ありがとうね」

「何を言ってるの。ありがとうはこっちの台詞よ。
 ねぇ、お父さん?」

「あぁ、その通りだ。良い子を産んでくれてありがとう」



みんなが帰って三人きりになった病室は静かだった。
初めて迎える家族三人の夜。
そして初めてのクリスマス。
司と縁は聖雪の寝顔を黙って見つめながら充実した幸せを感じていた。


「あー、まだ雪が降ってるんだね」

立ち上がって窓に向かい病室のカーテンを少し開けると司は言った。
縁は傍らの聖雪を黙って見ていた。
それから司に向かって頭を下げながら言った。

「司さん、ありがとう。
 みゆき姉さんもきっと喜んでくれているわ」

司は又、ベッドの傍らに歩み寄ると聖雪の寝顔を見ながら呟いた。

「これも君がくれた素敵な縁さ。
 お義父さんもお義母さんも八代先生も七瀬さんも加藤さんもみんな素敵な人だね」

「うん」

「みんなで幸せにならなきゃね」

「そうね」

縁も頷いた。
司はベッドの傍らに腰を下ろすと縁の肩を抱いて言った。

「縁と聖雪との初めての素敵な夜にメリークリスマス」

その言葉にベッドでスヤスヤ眠っていた聖雪が微かに微笑んだように見えた。



     ~おしまい~



スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する


Powered by FC2 Blog