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夢の汽車に乗って メリークリスマス (クリスマスストーリー中編)

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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「ここでしたか。東海林司さん、探しましたよ」

男が振り向くとそこには全身黒ずくめの男がにこやかに立っていた。
かなり物持ちの良い性格なんだろう。
その黒いスーツはかなりくたびれているように見えた。

「八ちゃん、フルネームで呼ぶなよ」

「決まりですから。
 あなたこそ、『八ちゃん』なんて気安く呼ばないでください。
 友達じゃないんですから。
 もっともターゲットと親しくなる事も禁じられてますけどね」

「探すも何もあんたが美人に見とれていたせいだろ?
 てっきり、一緒に歩いていると思ってたのにさ。
 気が付いたらあんたはいなくなってた」

「そ、そんな。見とれていた訳じゃありませんよ。
 ただ昔の知り合いに似ていたもんで・・・」

「あはは。八ちゃんも隅におけないね。
 いったい何人の女を泣かせたんだい?」

「失礼な! 私がそんな事をする訳ないじゃありませんか」

「どうだか?」

東海林司は黒ずくめの男を見るとニヤリと笑った。

「誰? はぐれた人?」

女の子は黒ずくめの男と東海林司と呼ばれた男を見比べると訊いた。

「あぁ、こいつ八ちゃんっていうんだ」

「だから気安く・・・」

「まぁまぁ」

東海林司は黒ずくめの男の言葉を遮って続けた。

「なぁ、八ちゃん。
 判ってるよ。ちゃんと付いて行くよ。
 だが、それは今じゃない。
 ほら、この子。
 この子をちゃんと帰してやらないとさ」

「ん? その子・・・」

そういうと黒ずくめの男は脇に抱えていたバインダーを開いた。
そしてバインダーと女の子を見比べると女の子に声をかけた。

「お嬢ちゃん、田村・・・みゆきちゃんかい?」

女の子は驚いて黒ずくめの男を見た。

「オジサン、どうして私の名前を知っているの?」

「あー、やっぱりね。ちょっと待って。
 今、連絡をするから」

「おい、どういう事だ?」

東海林司の言葉を手で遮ると男は誰かに電話をかけた。

「あっ、君が探していた子を見つけたよ。
 そう、田村みゆきちゃんだ。
 うん、<無事>だよ。
 私のターゲットと一緒にいたんだ。
 そう、駅前の・・・うん、その先にケーキ屋があるだろ?
 ・・・うん。そうしてくれ」

それから黒ずくめの男は
田村みゆきと呼ばれた女の子に向くと言った。

「田村みゆきちゃん。もうすぐ迎えが来る。
 ここで待っていてくれるかい?
 さぁ、東海林司さんは私と一緒に行きましょう」

田村みゆきは答えなかった。

「・・・」

「そんな! こんな子を一人でここには置いて行けないだろ?
 第一、どんな奴が迎えに来るのか判らないのに放ってはおけない。
 そいつが来るまで俺は絶対ここを動かないぞ!」

「でも、そろそろ時間が」

「そんなもんはお前らだったらどうにでもなるだろ?」

「いや、そうは言われましても規則を破る訳には」

「じゃ、腕尽くで俺を連れて行くかい?
 こう見えても俺は学生時代はアマレスの全日本5位だったんだぜ」

「それは判ってます。調査済みですからね。
 困りましたな・・・
 出来ればこんな所で<チカラ>は使いたくないんです」

「だろ? 俺だって何も事を荒立てようと言ってるんじゃない。
 ただ、迎えが来るまではみゆきちゃんに付いていてやりたいんだ。
 俺はおせっかいオジサンだからな」

「良いよ、オジサン。ありがとう。
 ちょっとの間だったけど、けっこう楽しかった」

田村みゆきは初めて東海林司に笑みを向けて軽く会釈をした。

「いや、ダメだ!
 俺は見てみないフリをするのは止めたんだ!」

「困りましたね・・・おっと、そう言ってるうちに来たようですよ」

振り返ると黒ずくめの女がそこに立っていた。
<八ちゃん>が昭和の時代の
冴えないスーツスタイルのサラリーマン然としているのに比べると
目の前に現れた女は切れ長の瞳が涼やかで
ストレートに伸ばした黒髪がいっそうそのスタイルを神秘的に見せていた。

「死神752号、遅いですよ。
 私はもう少しでこの東海林司さんと
 レスリングをしなきゃならないとこだったんですよ」

「死神83号、すいません。
 田村みゆきちゃんの資料を見ながら歩いている内に
 つい、見失ってしまって・・・
 あのぉ・・・この事はぜひ内緒で」

意外にもその神秘的なスタイルとは裏腹に死神752号は
ちょっと困ったような申し訳なさそうな<人間的>な面持ち
つまりは極めて<普通>の女の子のような表情を見せた。

「死神752号。あなたは私の研修生だった人ですからね。
 あなたの評価は私の評価・・・仕方ないですねぇ。
 でも、今回だけですよ。
 私だって上司に睨まれたくはないんですから」

「はい。ありがとうございます」

死神752号は笑顔になると死神83号に深々と頭を下げた。
それを見ていた田村みゆきは東海林司に耳打ちをした。

「ねぇ? 83号だから『八ちゃん』?」

「あぁ、ピッタリだろ?」

二人は顔を見合わせて笑った。
そこへ死神83号が言った。

「何をこそこそ話しているんです?
 逃げようたって無駄ですよ」

「判ってるよ、八ちゃん」

「だから、それは止めてください」

「八ちゃんって?」

死神752号が面白そうに話に割って入ってきた。

「何でもありませんよ!」

それをたしなめるように死神83号は言った。
そして、東海林司に向かって続けた。

「さぁ、東海林司さん。行きましょうか?」

「ちょっと待ってくれ」

「まだ何か?」

「そもそも、何でこんな幼い子が死んだんだ?
 病気だったのかい?
 それとも、事故とか事件とか」

「えーっとですね・・・」

死神752号がバインダーを開いて説明しようとした時
死神83号がストップをかけた。

「ダメですよ! ターゲットの身上は他の人に漏らしちゃ。
 今の時代、個人情報の取り扱いはうるさいんですから」

「す、すみません」

死神752号は慌ててバインダーを閉じた。
それを見た東海林司は死神83号に向かって言った。

「八ちゃん。まぁ、堅い事は言うなよ。
 どうせ、向こうに付いたら全部忘れちゃうんだろ?
 なら、良いじゃないか少しくらい。
 じゃなきゃ俺はいつまでも成仏出来そうもないな」

「オホン! あなたって人は死神を脅す気ですか?」

「そんなめっそうもない! ただ、知りたいだけさ」

「どうしましょうか?」

死神752号が困ったように死神83号に伺いを立てた。
死神8号は田村みゆきをチラッと見た。

「私なら別にかまわないよ。ホントの事だもん」

田村みゆきは答えた。

「そうですねー 例外中の例外ですよ。
 そして、何処で誰に何を訊かれても絶対他言無用でお願いしますよ」

「もちろんさ!」

「じゃ、亡くなった原因だけ教えてあげてください。
 でも、余計な事は一切言わないようにしてくださいよ」

「はい。田村みゆきちゃんはですね・・・」

再びバインダーを開くと死神752号は
ページを指でなぞりながら読み上げた。

「エーッと・・・はい、病気ですね。
 生まれつき心臓が弱かったんです。
 今年の春に小学校に入学したものの
 すぐに入院・・・で、二度手術をしましたが
 残念ながら・・・二日前にお亡くなりになりました」

そう言うと死神752号は持っていたバインダーを閉じた。

「そっか・・・こんなにちっちゃいのに。
 可哀想にな・・・」

「別に・・・」

田村みゆきは街の遠くを眺めながらそっけなく答えた。

「なぁ?」

東海林司は死神83号を見ると言った。

「八ちゃん、もうひとつだけおせっかいがしたいんだけど」

「ダメですよ! これ以上規則は破れません!」

用件を察知してか死神83号はすかさず言った。

「いや、そんな難しい事じゃないんだ。
 みゆきちゃんはあんな風に言っているけど
 両親の事が気になってない訳がないと思わないか?」

「さて、私には判りかねますが」

「八ちゃんは仕事だからな。それで良いだろう。
 だが、俺は人間だ・・・まぁ<元>が付くかもしれないけどさ。
 だから、どうしても気になるんだよ。
 例え、少しでも何とかなるならしてやりたいだろう?
 死神にだって親子の情ってもんくらい判るだろ?」

「そう言われましても私には親はいませんし」

「そんな事はどうでも良いんだよ。
 俺が言いたいのは、みゆきちゃんに心残りをさせたくないんだ」

「そうですか?」

死神83号は田村みゆきに訊いた。

「別に・・・」

「ほらっ、本人もこう言ってる事ですし問題はないのでは?」

「八ちゃん、お前さんってホント、人の心の機微って奴が判ってないね」

「<きび>? なんですか? 私は人間じゃありませんからね。
 って、言うか・・・その八ちゃんは止めてください。
 何度も言ってるじゃありませんか」

「判った、判った! もう八ちゃんには聞かないよ」

東海林司はやれやれと言った体で死神83号を見ると
今度は死神752号に視線を移した。
東海林司と目が合った死神752号は慌てて目を逸らせた。

「君・・・エーッと752号さん?」

「えっ? あっ、はい?」

名前を呼ばれて再び東海林司と目が合った瞬間
死神752号はしまったと思った。
だが、どうやら遅かった。

「みゆきちゃんの両親の事なんだけど」

「はっ、はい?」

「大丈夫なのかな? 立ち直れるかい?
 口では言わないけどさ。
 みゆきちゃんが気にしているのはそこだと思うんだ。
 でも、会いにはいけないし
 行ったところで両親と話が出来る訳でもない。
 だよな?
 逆に、もしかしてだけど、みゆきちゃんの気配を感じたら
 きっとお母さんも余計に思い出して辛くなっちゃうだろうな。
 それは何よりみゆきちゃんにとっても辛い事なんだよ」

東海林司は真剣な面持ちで死神752号に訴えかけた。

「で、どうなんだい?
 あんたらなら、その人の運命みたいな奴も判るんだろ?」

「まぁ・・・」

死神752号は歯切れ悪く答えながら死神83号の方をチラッと見た。
死神83号も東海林司がこのままでは引き下がらない事を感じていた。
死神83号は目で<OK>の合図を送った。

ひとつ深呼吸をすると死神752号は東海林司に向かって笑顔を作って言った。

「田村みゆきちゃんのご両親なら大丈夫です。
 多少、時間は必要ですけどね。
 それで又、お子さんが産まれる事になっています」

「そしたらママもパパも私の事を忘れちゃうの?」

田村みゆきは初めて感情をむき出しにして叫んだ。

<ママとパパがみゆきの事を忘れる>
それは望んでいた事であり、望んでいなかった事でもあった。
田村みゆきの嗚咽が東海林司の胸を締め付けた。

『何とかしてやらなきゃ! 俺が何とかしてやる!』

東海林司が口を挟んだ。

「なぁ? 子供が産まれるって
 それじゃ、みゆきちゃんは又、両親の元に生まれ変われるのか?
 なぁ、そういう事なんだろう?」

死神752号は申し訳なさそうに答えた。

「可能性は確かにあります。
 田村みゆきちゃんは又、生まれ変われる事になっていますから。
 もし、田村みゆきちゃんがそう望むのであればですけど
 元の両親の子供としてもう一度生まれる事は出来るでしょう。
 ただ・・・」

「ただ? ただ、何だい?」

「ただ、もしそうなると
 その子は又、同じ運命をたどる可能性も高くなるんです。
 つまり、この悲しみや辛さが又、繰り返される事に。
 なので・・・お勧めは出来ません・・・」

「そんな・・・」

東海林司は絶句した。

「そうだ! なら、他の親の元に生まれ変わったら
 今度は健康な子供として産まれて
 もっと長い人生を全う出来るって事なのか?」

死神752号は答えなかった。
いや、東海林司の真剣な表情に気圧されて答えられなかった。
死神83号が口を開いた。

「あくまで可能性の問題ですが、その可能性は高いです」

「そうか、そうなんだな?
 みゆきちゃん、どうする? どうしたい?
 みゆきちゃんの良い方にオジサンが頼んでやるから!」

田村みゆきは嗚咽を繰り返すばかりで答えられなかった。

「東海林司さん」

死神83号は優しく微笑むと言った。

「無理ですよ。そんな小さな子にそんな辛い選択は」

「うるさい! 八ちゃんは黙っててくれ!
 なぁ、みゆきちゃん? どうしたいんだい?」

「私・・・」

「うん?」

「又、ママを泣かせるのは嫌だ・・・
 ねぇ、オジサン。どうしたら良い? どうしたら良いの?」

泣きながらすがるように
東海林司のコートの裾をつまんだ小さな指が何度も揺れて震えた。
東海林司は思わず田村みゆきを抱きしめた。

「オジサン・・・どうしたら良いの?」

東海林司には答える言葉は見つけられなかった。
ただ、強く抱きしめるしか出来なかった。
死神752号はもらい泣きを隠すように二人に背を向けた。

「東海林司さん。運命は決まっているんです。
 この子がいつ死んで、次はいつ何処に生まれ変わるのか。
 私には判りませんが、運命は決まってるんです。
 どうしようもないのなら、それに従ってみませんか?」

死神83号は静かに言った。
だが、それでも東海林司は諦めきれなかった。

「なぁ?」

田村みゆきを抱きしめながら振り向くと死神83号に言った。

「俺は又、生まれ変われるのか?
 なら、俺は生まれ変われなくても良い。
 地獄に落ちても良い。虫けらに生まれ変わっても良い。
 いや、一生浮かばれないで彷徨ったって良い。
 だから、みゆきちゃんを元の両親の元に生まれ変わらせてくれないか?
 もちろん、今度は元気な身体で」

「それは出来ません。決まっている事を変える事は出来ないのです」

「そんな事は判ってるよ! 何かい? 俺の命じゃ不服だってのかい?」

「落ち着いてください。私だって同じ想いなんです。
 出来るなら叶えてあげたい。死神だって悪魔じゃありませんからね。
 人間の<キビ>とやらは判りませんが私にだって感情はあるんです」

「・・・」

死神83号は懐から懐中時計を取り出して時間を確認すると
努めて事務的に口を開いた。

「東海林司さん、時間です」

「待ってくれ! なぁ、待ってくれよ。もう少しで良い・・・待って・・・」

東海林司は田村みゆきを抱きしめたまま泣き崩れた。
死神83号は東海林司の肩を優しく叩くと耳元で囁いた。

「東海林司さん、あなたの気持ちは無駄にはしませんから」

それから死神752号を呼ぶと言った。

「さぁ、田村みゆきちゃんを連れていくんだ」


東海林司はうなだれたまま死神83号と連れだって歩き出した。
田村みゆきは死神752号に肩を抱かれたままその後ろ姿を見送っていた。
と、それを振り解き走り出すと田村みゆきが叫んだ。

「ねぇ? オジサンはどうして死んじゃったの?」

東海林司は振り返ると努めて笑顔を作って答えた。

「あー、オジサンかい?
 歩道を歩いてたらさ、急に子犬が道路に飛び出してね。
 助けようとして、このざまだよ。
 でも、安心してくれ。
 子犬は無事だったからさ」

「オジサンってバッカじゃないの?
 ホントにおせっかいだね」

田村みゆきは涙を浮かべながらもせいいっぱいの笑顔で言った。

「自分でもそう思うよ。
 でも、見てみないフリはもうしないって自分と約束したからね」

東海林司はそう言うとウインクをして
それから死神83号に促されて又、歩き出した。
その背中に田村みゆきは大声で叫んだ。

「オジサン、ありがとう! きっと又、会おうね!
 約束だよ! きっと、きっと会おうね!」


二人の姿は宙に浮いたかと思うと間もなく
街中に煌めくイヴの夜のイルミネーションに紛れて消えた。


「さぁ、田村みゆきちゃん。私達も行きましょう」

死神752号は田村みゆきを促して歩き出した。

「ねぇ?」

田村みゆきが言った。

「なぁに?」

「死神ってさ。ずっと怖いって思ってた」

「そうなんだ? それはちょっとショックかも」

「でも、八ちゃんもお姉さんも良い人だね」

「死神83号って、ホントはすっごく怖いんだよ」

「えー? ホント? 映画みたいに人を殺すの?」

「殺したりはしないけど・・・でも、人間からしたら同じかもね」

「ふぅーん。
 ねぇ? 83号が八ちゃんならお姉さんはナナさんだね」

「ナナ?」

「うん。752号だからナナさん。どう良いでしょ?」

「うん。判らないけど、何か良いね」

「でしょ? 番号よりも親しみが沸くわ」

「そっか、東海林司さんが八ちゃんって言ってたのもそれだったのかな?」

「そうだよ!」

「そっか、良いね」

「で、ナナさん。私はこれから何処に行くの?」

「あー、そうだった! ちょっと待ってて。見るから」

そういうと死神752号はバインダーを開いてページをめくり始めた。

「えーっと・・・あった。これね?
 ふうーん・・・あー、そうなんだ!」

そう言って微笑んだ。

「何? 何?」

「ううん、何でもなーい」

「あっ、ずるーい! ナナさん、一人でニヤニヤしてる!」

「あはっ。そんな事はないですよー」

「ねぇ、教えて!」

「ダーメ! 決まりなの。
 それにね、本人に教えちゃったら書いてある事が変わっちゃうの。
 だから、ダーメ。でも、心配はしなくて良いわ。
 私が保証する! ちょっと頼りないけどね。
 じゃ、行こうか?」

「ナナさん、優しくしてくれてありがとう」

「まぁ! うれしいわ」

死神752号は微笑むと田村みゆきの肩を抱いた、
そして、さっき見たのと同じようにフワッと宙に浮くと
二人の周りは眩い光に包まれて、やがて消えていった。



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