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夢の汽車に乗って メリークリスマス  (クリスマスストーリー前編)

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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一人の男が街を歩いていた。
懐かしくてなのか?
それとも他に何か理由があるからなのか?
男は時折、立ち止まっては辺りを見回し
或いは、後ろを振り返りと
そんな事を何度か繰り返していた。
そしてひとつ白い息を吐くと又、歩き出した。


何時間歩いていただろう。
それでも、その間に男に振り向いた者は誰もいなかった。
いや、男がそこを歩いていた事にさえ
気がついた者はいなかっただろう。

折しもクリスマスイヴの夜だ。
街路樹には煌びやかな電飾が施され
ショーウインドウにはクリスマスカラーの飾り付けが
これでもかと見る者を引きつけようとしている。
それらを横目で見ながら帰宅を急ぐ人達
それらには目もくれず待ち合わせに急ぐ人達や
笑顔で談笑をしながら目的地へ急ぐ人達などが
様々な流れを作りながらみんな一様に足早に行き交っていた。
誰も他の人の事など目には入ってはいない。
そこにどんな男がいようが気にする人はいない。
今夜はそんな夜だ。

足早な群衆の流れはまるで
次から次とやって来る都会の電車が
幾重もの列を成しているように途切れる事は無い。
明らかに早さが違う男の足取りは
普段なら罵声の連射を浴びるのだろうが
幸か不幸か今夜は誰も罵声を浴びせる者などはいない。
むしろみんなそんな時間さえ惜しいのだろう。

「おっとっと!」

ぶつかりそうになるのを何度も避けながら男は呟いた。

「やれやれ、いったい何だっていうんだ」

男は歩くのを止めて道路脇のガードレールに腰を掛けると
右へ左へと絶え間なく行き交う人の流れを眺めていた。

「そういや、今夜はクリスマスイヴだっけ?
 まぁ、俺にはもう関係ないけど」

自嘲気味にそう呟くと男はコートのポケットをまさぐった。
そこに入っているはずのタバコを探していたのだ。

「やっぱり入ってないか。
 こんな事なら早くに禁煙をしておくんだったかな」

男は夜空に向かって白い息をフッと吐き出した。


何気なく通りの向かい側を見ると
ケーキ屋のショーケースの前でしゃがみ込んでいる女の子が目に入った。
真っ赤なニット帽に真っ赤なケープをまとって
同じく真っ赤なブーツを履いていた。
しゃがんでいて良く判らなかったが
幼稚園か小学校の低学年くらいだろうか?
男はしばらくその様子を見ていたが一向に女の子は動こうとはしなかった。

「ふふっ」

男は笑みを浮かべると思った。
きっと、女の子はあそこのケーキを買って欲しかったのだろうが
親はわざと意地悪にサッサと行ったフリをしているのだろう。

「で、すねてあそこにしゃがみ込んでいるって訳だ。
 でも、ご安心を!」

男は舞台俳優のように大仰に両手を広げると<台詞>を続けた。

「ふてった女の子が両親と一緒に家に帰ってみると
 何とそこには!
 女の子が買って欲しかったケーキよりも何倍も豪華なケーキが!
 たちまち女の子に満面の笑みが広がってハッピーエンドでございー!」


しかし、30分経っても女の子はそこを動こうとはしなかった。
それどころか親さえ一向に戻って来る気配はなかった。

男は車が途切れるのを待って車道を向こう側へと小走りに駆けた。
そして、女の子の前に立つと優しく声を掛けた。

「可愛いサンタさん、いったいどうしたんだい?
 トナカイさんとはぐれたのかい?」

女の子は男を一瞥すると又、俯いてしまった。
困った男は女の子の隣に同じように並んでしゃがみ込んだ。


それでなくてもクリスマスイヴの夜だ。
ケーキ屋のショーケースの前に
大の大人と小さな女の子が並んでしゃがみ込んでいるなんて
店からしたら営業妨害以外の何物でもなかったろう。
それでも、二人を邪魔者扱いする者は一人としていなかった。
都会はいつでもそんなものだ。
他人の事なんて気にする人はいない。
繰り返すが、ましてや今夜はクリスマスイヴだ。
みんな自分達の事で忙しい夜なのだ。
街行く人達やケーキ屋に買いに来た人達だって
他人の事にかまっているヒマなんてないのだ。


男は女の子の方を見るでもなく独り言のように呟いた。

「オジサンもね、人とはぐれちゃったんだ。
 全く、あいつったら何処に行ったんだか・・・」

「・・・」

女の子はやはり何も答えなかった。

「お父さんやお母さんは? きっと心配してるぞ」

「・・・」

「まぁ、良いさ。オジサンには関係ないもんな」

「別にはぐれてないもん」

女の子が始めて口を開いた。

「そっか。判った!
 お嬢ちゃんはこのお店の子なんだろう?
 仕事が終わるのを待ってるって訳だ?
 でも、寒いのに大丈夫かい?
 どうせなら店の中で待ってた方が・・・」

言いかけた言葉を女の子が遮った。

「違うよ。ここの子じゃない」

「じゃ、誰かを待っているのかい?」

「・・・」

「おやおや又、黙っちゃったね。さて、困ったぞ」

「良いから放っておいて!」

そう言った女の子の目には涙が浮かんでいた。
だが、それっきり又、男が何を話しかけても女の子は答えなかった。
男は口を閉じるとそのまま女の子と並んでしゃがみ込んでいた。


街はクリスマスイルミネーションとネオンで
昼間のように明るかったが冬は冬だ。
黙ってしゃがんでいた男は両手を擦り合わせると女の子に話しかけた。

「ねぇ? 寒くないのかい?
 早く帰らないとお父さんやお母さんが心配するぞ。
 いや、もう心配して捜索願を出しているかも。
 とすると・・・俺の立場は何だ?
 おいおい、よせよ誘拐犯じゃないってば!」

独り言のようにブツブツ話しかける男に
やっと女の子は俯いたままで口を開いた。

「帰りたくない・・・」

「えっ?」

「逃げて来たの・・・・」

「えっ? えっ? そいつは穏やかじゃないな。
 って・・・ちょっと待てよ!
 俺は完全に誘拐犯扱いじゃないかよ!?」

「バッカじゃないの?」

女の子は冷めた目で男を一瞥して言った。

「捕まる訳ないじゃん」

男はしゃがみ直すと女の子の方を向いて諭すように言った。

「そうかもしれないけどさ。
 でも、逃げて来たってのは穏やかじゃないぞ。
 いったいどうしたっていうんだい?」

「オジサンには関係ないでしょ」

「そりゃ俺には関係ないさ。
 でも、オジサンは・・・ほら、おせっかいオジサンだから」

子供相手に何を言ってるんだかと思いながら
男は何とかこの場を取り繕わなきゃと思った。
こんなきれいな身なりの子が
まさかとは思いながら男は神妙な顔で訊いた。

「虐待されてたのかい?」

「別に・・・」

「じゃ、勉強しろとかうるさかった?」

「別に・・・」

「そうか判った!
 お兄ちゃんと比べられて面白くなかったとか?」

「別に・・・兄弟いないし」

「お母さんとケンカをした?
 それで家出のマネをかい?
 なら、もう帰って仲直りをしなよ。
 今夜はクリスマスイヴだぜ。
 ご両親はプレゼントを用意して待っているよ」

「・・・」

「そこは又、だんまりかい?
 やれやれ、参ったぞ」

「もう! いい加減にして!
 放っておいてよ!
 あなたははぐれた人でも探しに行けば?」

「そうなんだけどさ。
 でも、そんなに急いで探さなくても良いんだ。
 その内、ひょこっと現れる・・・そんな奴だから」

「その人と仲が良いの?」

涙を浮かべた瞳で女の子が訊いた。

「別に・・・おっと、これは君の台詞をパクった訳じゃないぜ」

「どうでもいい・・・」

「そうだったな。そっかそっか・・・」

「ママ・・・」

「ん?」

「毎日泣いてばかりいるの。
 それを見ているのが辛いの・・・だから帰らない」

「お父さんは? まさか死んじゃったとか?」

「ううん。でも、パパは何も喋らない。
 毎日、ママが泣いているから・・・
 パパも家に帰ってからもずっと黙ったままだった」

「そっか、それは子供にしたら耐えられないよな?」

「原因は私だから・・・」

「そっか・・・」

「・・・」

「でも、本当は帰りたいんだろう?
 そりゃそうだよな」

男は独り言のように呟いた。

「もう帰らないって決めたの。
 じゃなきゃ、ママはずっと泣いてる」

「・・・」

今度は男が黙る番だった。

「オジサンこそ、どうして帰らないの?」

「帰っても誰もいないんだ」

「どうして? リコンしたの?」

「あはは、そうじゃないんだけどね。
 何年になるかなぁー
 男の子がいたんだけどね。
 学校で虐められていたらしいんだ。
 でも、その頃オジサンは仕事が忙しくってさ。
 子供が悩んでいる事に気付いてやれなかった・・・
 いや、後で気が付いてはいたんだけどさ。
 疲れていてね。
 で、今度の休みにゆっくりと話を聞いてやろうと思ってたんだ。
 いや・・・言い分けだな・・・」

「・・・」

「そしたら次の日、自殺しちゃったんだ」

驚いた顔で女の子は男を見た。

「可哀想・・・」

それが、<どっち>に対しての言葉だったのか
男には知る由もなかった。

「で、子供の一周忌・・・
 あっ、亡くなって一年経った時にお参りをしたんだけど
 その後で、妻は子供と同じ場所で死んだんだ。
 さすがにショックだった。
 それからかな・・・
 気が付いた事には無関心でいるのは止めようと思ったのは。
 見て見ないフリをするのは止めようと決めたんだ。
 で、おせっかいオジサンがここにいるって訳さ」

「大人も辛いね」

「辛いのに大人も子供もないさ」

「・・・」

「ねぇ?
 おせっかいオジサンと知り合ったのも何かの縁だ。
 オジサンが家について行ってやるよ。
 だから、帰ろう?」

女の子は黙って首を横に振った。

「そっか・・・余計に辛くなっちゃうかな」

女の子は黙って頷いた。




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