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夢の汽車に乗って 星を渡る想い  ~ 2015七夕ストーリー ~ 後編

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yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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それは見たこともない風景だった。
荒涼とした岩肌と砂に覆われた大地。
<俺達>はバギーのような二人乗りの車に乗って小高い丘陵地に出た。
二人共、宇宙服を着ていた。

後ろを振り返るとどれくらい離れているだろう?
眼下には巨大な透明のドームが見えた。
多分、俺達はそこから来たのだろう。
ドームの中には煌めくばかりの光を灯した巨大な高層ビル群がそびえていた。
絵葉書でしか見たことはないが
その景色はやや俯瞰で見たニューヨークの夜景の何個か分はあるのだと思う。



「やっぱり、ここが一番キレイね。ドームの中から見るのとは大違い」

君はそう言うとバギーを降りて近くの小岩に腰をおろした。

「あぁ、そうだね。シティのドームは紫外線対策とやらでフィルターがかけられているし。
 そのフィルターも昼間は青空で夜は星空とはいえ投影された映像だから実物とは違うしね」

そう言いながら俺も並んで腰をおろした。

見上げた空には蒼く輝く地球とその少し上には天の川が長い帯のように見えていた。
ここに来ると星々の煌めきが本当に良く分る。
この場所は二人のお気に入りの場所だった。
とはいえ、規則が厳しくてここに来られるのは一ケ月に一度。しかも二時間だけだ。
それ以上はいくら宇宙服を着ていても強烈な紫外線が人間には非常な害になるらしかった。


「ねぇ、知ってる?」

君が訊いた。

「えっ? 何を?」

「小さい頃に本で読んだんだけど人類が大昔に地球に住んでいた頃ね。
 今日、七月七日は七夕だったんだって」

「<たなばた>? 何だいそれは?」

「<七夕伝説>といって昔の地球の神話なのか童話なのかは分らないけどこんな話よ」
 

織姫は天帝の娘で機織の上手な働き者の娘であった。
彦星もまた働き者であり、天帝は二人の結婚を認めた。
ところが、めでたく夫婦となった二人は夫婦生活が楽しくて
やがて織姫は機を織らなくなり、彦星は牛を追わなくなった。
このため天帝は怒り、二人を天の川を隔てて引き離したが
悲しみに暮れる織姫を不憫に思った天帝は年に一度、七月七日の夜だけ会うことを許した。
天の川に何処からかやってきたカササギという鳥が橋を架けてくれ二人は会うことができた。
しかし七月七日に雨が降ると天の川の水かさが増し
織姫は渡ることができず彦星も又、織姫に会うことができない。
星の逢引であることから七夕には星合いという別名がある。
また、この日に降る雨は催涙雨とも呼ばれる。
催涙雨は織姫と彦星が流す涙といわれている。


「どう? ロマンチックな話だと思わない?」

「そうだね。何だか教訓めいてる気もするけど」

「もう! あなたってホント、クールっていうか夢がないのよね」

君は宇宙服のヘルメット越しでも良く分るくらい口を尖らせた。

「あはは、ごめんごめん。いや、大変ロマンチックでございます」

「もう良いわ、知らない!」

「ごめんごめん」

俺は苦笑いをしながらヘルメットの後ろを掻いた。

「でも・・・そんな話を聴いてから改めて天の川を見ると何か違って見えるよね」

「でしょ、でしょ?」

君はヘルメット越しからでも良く分るくらいとびっきりの笑顔を見せた。
立ち直りの速さで君に敵う者はいないんだと思う。

「ねぇ?」

マジマジと俺を見ると君は訊いた。

「なんだい?」

「もし・・・もしよ。私達が無理やり引き離されたらどうする?」

「どうするって・・・そんなことは有り得ないよ。
 俺達はシティの人口管理コンピューターで何百万もの相性の中から選ばれたんだぜ。
 相性が合わないなんてことはないからケンカもしないだろ?
 だから途中で別れるなんてことは絶対にないし
 第一、そんなことはコンピューターは許さないよ。
 病気だってもう何百年も昔に淘汰されたから病気にもならない」

「それはそうだけど・・・」

期待していた回答ではなかったのか君は不満そうに呟いた。

「まぁ、確かに人類はまだ寿命だけは克服してはいないけどね」

「だから、もしよ」

「そうは言ってもなぁー あっ!?」

俺は突然、明け方に見た夢を思い出すと
その時見た夢の映像が一瞬脳裏にフラッシュバックをした。

「いや・・・あれは・・・」

「えっ? どうしたの?」

怪訝そうな顔で君が訊き返した。

「あっ・・・い、いや、なんでもない」

「もう変な人ね。何かあるならちゃんと言ってよ」

「いや、ホント・・なんでもないんだ。大丈夫、うん・・・大丈夫」

「ねぇ? そう言えばあなた、今朝も変だったわよ。
 起きて来るなり突然抱きついて来たりして。
 『良かった』とか何とか言ってたけど何だったの?
 あの時もあなたは『なんでもない』って教えてくれなかったけど・・・
 何? 悪い夢でも見た?
 変ねぇ、そんなプログラムはされていないはずなんだけど」


広い空間が確保されているとはいっても所詮はドームに囲まれた中だ。
いくら昼と夜の空の映像が<それらしく>流されていたとしても
いくら街中の公園に緑がたくさんあったとしても
いくら郊外の林に鳥や小動物がいて人々の癒しになっていたとしても
その半分は人工的に造られた<モノ>だし
いわゆる閉鎖的な空間には違いないので
どうしても人間は感情に変化をきたしやすくなってしまう。
そこでコンピューターは人間の夢をコントロールする<システム>を創り上げた。
その<システム>のおかげで悪い夢などを見ることもなくなり
逆に寝ている時間は脳を休め穏やかな状態を保てるようになった。
これを<リセット>と呼んでいる。
もちろん、夢をリクエストすることも出来た。
見たい夢の入ったカードをシステムに挿入すると
どんな楽しいことでもバーチャルで体験が出来るのだ。
夢なのでもちろん疲れることはないし
それどころか爽快な気分で目覚めることができるのだ。


『夢・・・そうなんだよ。そんな訳がない。
 それじゃ、どうしてあんな夢を?』

俺はよほど切羽詰まった顔をしていたのだろうか?
君は俺の顔を覗き込むようにしてマジマジと見つめると言った。

「やっぱり変よ、あなた。体調が悪いのかしら?」

「あっ、いや。大丈夫だよ。変な夢を見ただけ」

「夢を? どんな? だって、悪い夢なんて見るはずがないわ」

「あはは。コンピューターだってたまにはバグるよ。
 なんかね、地球ライブラリーにあった映画のゾンビに追っかけられてる夢?
 そんな訳はないよね、バカバカしい」

「もう! でも、帰ったら安静器で休みましょ。
 昨日、一ケ月ぶりに<仕事>だったから疲れているのかもね」


ドームではみんなが平等な生活を送っている。
<仕事>はコンピューターで割り与えられていて月に一度。
それもバーチャルマスクを着用して流れてくる映像をただ見ているだけ。
何の意味があるのかは誰も知らないし
中には<仕事をすると洗脳される>と噂をする者も稀にいたが
大概は誰も疑問には思わないし文句も言わない。
それで楽な生活が出来ているのだから。
そんな<仕事>で疲れるはずもなかった。

でも、君がそれで納得をしてくれたならそれで良い。

本当に見た夢はそんなのではなかった。
しかも、その夢の話など君に出来るはずもなかった。
君が死んだ夢だったなんて。


「あー、本当にキレイ!
 ねぇ、もう織姫と彦星は再会できているかしら?」

無邪気に君はそう言った。
俺も笑いながら答えた。

「あっ、ほらあそこ! 光ってるでしょ? あそこじゃない?」

俺が指差す方向を見ると君は目を輝かせて呟いた。

「どこ? あっ、ホントだ。そうね。きっとそうだわ」

君はウットリとするかのように地球の向こうに見える天の川を眺めていた。



君の死んだ夢がどうしても引っ掛かっていた。

あれは何処だったんだろう?
地球史の教科書で見た<病院>の部屋に似ていた気がしていた。
ただ白いだけの殺風景な部屋の真ん中にベッドがあって
君はそのベッドで白いシーツのような物に全身を覆われて横たわっていた。
顔は見えなかったけど俺はその瞬間確かに君だと確信をしたのだ。
そして誰か解らないけど数人の人達がそのベッドを囲みながら泣いていた。
とてもとても深く悲しい想いがその部屋全体を包んでいた。

その悲しみがやけに重たく今でも俺の心に残っている。
まるで、それが俺自身の体験だったかのように。



「ほらー、又、考えごとをしている。
 ゾンビなんか何処にもいないわよ。意外と怖がりだったりして?」

君の言葉に我に返った。

「あはは。そうだねー 君より怖いゾンビなんていないよね?」

「まぁ、ひどい! 今夜はチューブの宇宙食にしちゃうぞ!」

「ごめんごめん。チューブならせめて地球食にしてくれないか?
 でも、地球食って言えば久し振りにカレーライスが食べたいな。
 チューブじゃないやつでさ」

「もう。けっこう面倒なのよ」

「由美殿の作ったカレーライスが所望したいでござる」

俺はいつか見た地球史の<時代劇>口調でおどけて言った。

「はいはい、健二殿。分ったでござるよ」

君もおどけて答えた。

「でも、『ござる』は女性は言わないはずなんだけど?」

「あれー? なんか変だと思ったわ」

俺達は顔を見合わせて笑った。

『夢で本当に良かった』

俺は心からそう思った。


「おっと、そろそろ帰らなきゃ。酸素が無くなっちゃうよ」

「あっ、ホントだ。大変!
 でも、不便よね。こんな宇宙服なんか着ないで散歩が出来たら良いのに」

「仕方ないよ。たまにだけどこうして一緒に出掛けて来られて
 そして二人で同じ風景を見て一緒の時間を過ごせるだけで幸せさ」

「そうね。織姫さん、彦星さん、お幸せに。
 そしていつか又、一緒に暮らせるようになると良いね」

由美は天の川に向かって大きく両手を振った。
それを聞きながら俺は呟いた。

「あぁ、きっと一緒に暮らせるようになるさ。時間はかかってもね、必ず」

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