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夢の汽車に乗って 星を渡る想い  ~ 2015七夕ストーリー <前編> ~

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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世の中には理不尽なことっていくつもあって
正直者が得をするなんてことの方がほとんど稀で
優しい人がいつも報われる訳でもなくて
正義がいつも勝つなんてのはドラマの中くらいだろう。

それは分かっている。

今までも何度も他人のそんな場面を見て来たし
自分自身だって何度もそんな目に遭ってきたんだから。



「アナタハ神ヲ信ジマスカ?」

街を歩いていると、時々そんな風に声をかけられる。

「じゃ、あなたは本気で神様を信じているの?」

俺はいつもそう訊き返す。

「モチロンデス。神ハイツモ私達ノスグ傍ニイテ
 私達ヲ見守リ、導イテクレルノデス」

「見守っているって?
 何処に導いてくれるって?
 天国にか?
 だから神様は何度も戦争を起こし
 飢饉を起こして
 時には大災害を起こして
 何百人、何千人もの命を天国に導いているのか?
 じゃ、愛する人を失い残された人は
 神様に見守られていない人ってことになるのか?」

そう、それじゃ残された俺はいったいどうすれば良いんだ?



殺風景な病室の白い壁と白いカーテンに囲まれた小さな空間。
白いパイプに白いシーツのかかったベッド。
無機質な画面に幾つかの波形が流れ数字が上下を繰り返す機械と由美を繋ぐ命の線。
吊るされた点滴のパックとビニール管の中を頼りなさげに伝う透明の液体。
その中でひと際華やかだったのが
由美のお母さんが用意をしてくれたパステルカラーの花柄のタオルケットだった。

「可愛い色だね」

「でしょ?」

「うん、良いね」

「せっかく春になったんだから、せめてこれくらいはね。
 今年もこんな花柄のワンピースなんて着て歩けそうもないし」

笑顔を見せた後で由美はちょっと寂しそうにそう言った。

「そんなことはないさ。
 元気になれば又、いつだって着て歩けるよ。
 そういや、由美のワンピース姿なんて見たことがなかったよね?
 出し惜しみしてた?(笑)
 いっつもTシャツかトレーナーにジーンズだったじゃん」

「そんなことはないんだけどさぁ~
 なんか、私って可愛げが無いじゃん?」

「あはは、そんなことないって」

「髪もこんなだしなぁ~」

少しくせ毛の強いショートカットの髪の端を両手で引っ張りながら由美は言った。

「きれいなストレートヘアだったらロングも似合うんだよね」

由美は大きく溜め息をついた。

「そんなことないって。そのままで十分に可愛いさ」

「じゃ、私に花柄のワンピースなんて似合うと思う?」

「あぁ、もちろんだよ。馬子にも衣装って言うじゃん?」

「あー、ひどい! それって、そうやって使う言葉だっけ?」

「あれっ、何か違うっけ?」

「もう!」



難しい名前の病気が由美を蝕んだのは半年前。
俺達が付き合い始めて二度目の秋のことだった。


入院生活が始まったのは秋も深まった頃でそれから二度の大手術を受けた。
由美の症状は幾度も一進一退を繰り返していた。
薬がうまく効いていればいつもの朗らかな由美がそこに居た。
でも、副作用のきつい時は酷い鬱になったり
そうでなければやたら神経過敏とでも言うのか
凡そ、俺の知っている由美とは違う由美になっていた。

お母さんは由美の前では気丈に振る舞って
いつも笑顔を絶やさないではいたけど
時々、そっと病室を抜け出ては病室から離れた物陰で顔を覆って泣いていた。
嗚咽を漏らさないように、由美に気取られないようにしながら
そして、いつも愛する娘を不憫の思い
そんな娘を産んだことを、自分を責め続けていた。

何度もそんな場面を見ていながら
俺はお母さんにかける気の利いた言葉さえ持ってはいなかった。


みんな解っていた。
それは誰のせいでもないと。
お母さんのせいでもなく、もちろん由美のせいでもない。

十万分の一の確率で誰かに起きる病気。
誰がその「一」になるのか?
それは公平に決められているのか?

誰がそれを決めているのか?

それは悪魔なのか?
それでも、それは神様の仕事のひとつなんだと
いったい誰がそれを弁護するのだろう?



「織姫と彦星が羨ましいわ
 離れ離れになっても一年に一度は逢えるんだもの」

その日、珍しく体調の良かった由美はベッドから身体を起こすと窓辺に立ち
中庭でワイワイ言いながら
七夕の飾り付けをしている子供達の様子を見おろしながらそう呟いた。

「急に何だい?
 俺達なんか二日に一遍は会えてるじゃないか?」

「そうね・・・」


病院には小児病棟もあって
そこでは何十人もの幼い子供達が病気と闘っていた。

そんな子供達がそれぞれの願いを込めて一枚づつ短冊を吊るしていた。
どの子供の顔も病気など感じさせないくらい活き活きとしている。
それが逆に見る者を辛くさせていた。


「願い事、叶うと良いな」

俺は由美に並んで窓辺に立つと独り言のように呟いた。
由美はそれには応えずに黙って小さく頷いた。

「それじゃ、俺も後で短冊を書いて吊るして来ようかな。
 ナースステーションに置いてあるかな?」

「いい大人が恥ずかしいよ」

「関係ないよ。大人にだって願い事はあるんだしさ。
 そうだ! ねぇ? 一緒に書く?」

「嫌!」

「どうして? 良いじゃん」

「だって、私・・・」

「ん?」

「きっと悪い子になってしまう」

「どうして?」

「世界一、ワガママな女になるわ」

「なれよ」

「えっ?」

「良いじゃん。世界一の、いや・・・宇宙一のワガママになれよ。
 俺が受け止めてやるよ」

「だから書けないのよ」

由美はそう言うとベッドに身体を寝かせ
タオルケットの端を掴んで引き寄せるとそのまま顔を覆い隠した。
そのタオルケットは小刻みに震えていた。



今年の七夕は今度の日曜日だ。

医者の余命宣告期限が過ぎてからもうすぐ三か月が経つ。
由美は辛い治療にも負けずに頑張っていた。

そう、頑張っていた。

もしも、神様が居て何処かで由美を見守ってくれているなら
きっと奇跡を起こしてくれるに違いない。

その時の俺はまだ神様のことを信じていたんだ。



目覚ましよりも早く俺を起こすかのように携帯が鳴ったのは金曜の明け方だった。

「もしもし・・・」

半分寝惚けながら電話を取った俺に聴こえてきたのは
切羽詰まった由美のお母さんの声だった。

「あっ、健二さん? 由美が・・由美が危篤なんです。
 あなたの名前をうわ言のように呼んでいて・・・」

後は言葉になっていなかった。

「わ、分りました。すぐに行きます!」

俺は動揺を鎮めるべく勢いよく流した冷たい水で顔を洗うと
急いで着替えを済ませて車を走らせた。
時々、当たる赤信号がこんなにももどかしいと思ったことはなかった。

「早く、早く!」

イライラするのを抑えられずにハンドルを指で叩きながら俺は念じていた。
そして、隣の信号が黄色になるや
俺は前の信号が青に変わる瞬間も待てずにアクセルを踏んだ。
対向車線にパトカーがいたとしてもその時の俺には見えていなかっただろう。
そのくらい俺は焦っていたし、すべての時間がもどかしかった。
それでも、早朝のせいもあってか
いつもの三分の二くらいの時間で病院の駐車場に滑り込んだ。



俺はエレベーターホールより近い階段を選んで三階まで駆け上がった。
そのまま病室まで駆けると息を切らしたまま病室のドアを開けた。

そこにはもう医者も看護師もいなく
由美の命を繋いでいたあの無機質な機械の電源も消されていた。

白い布を顔にかけられた由美の身体にすがるようにお母さんは泣き崩れていて
お父さんは明けかけた蒼い空を見るともなく見るように窓の外を見ていた。


「由美・・・」

何もかもが信じたくはない光景だった。
俺に気づいたお母さんが涙を拭きながらそっと立ち上がると言った。

「さっきまで頑張ってたのよ。
 最期に『健二さん、ごめんなさい』って・・・それっきり・・・
 あんなに待ってたのにね・・・」

顔にかけられた白い布をめくるとお母さんは由美に話しかけた。

「由美、健二さんが来てくれたよ・・・」


由美はまるでただ眠っているだけのような本当に安らかな顔をしていた。



土曜日の通夜と翌日曜日午前の葬儀、そして午後からの繰り上げ法要を終えて
由美を実家に連れて帰ったのはもう夕方になっていた。

仮祭壇に祀られた由美の遺影は去年の夏に二人で沖縄に旅行をした時のものだ。
初めて見たコバルトブルーの海と白い砂浜。
喧騒を忘れてゆったりと流れる時間の中に溺れるように過ごした忘れられない三日間。
とびっきりの笑顔ではしゃいでいた由美は今はもう黒い縁取りの額の中にしかいない。

「由美・・・」

俺は由美のお父さんやお母さんの少し後ろに座り
遺影を眺めながら走馬灯のように巡る由美との想い出に浸っていた。

時折り、由美のお母さんが鼻を啜りハンカチで涙を拭う以外はみな物音ひとつ立てずに項垂れていた。
そうして時が止まったかのような沈黙の時間がしばらく続いていた。
誰もが悲しみを堪えながら受け止めなければならない現実と闘っていたのだ。


「健二さん・・・」

どれだけ時間が経っただろうか。
俺の方を向き直るとお母さんは俺に頭を下げて言った。

「健二さん、ありがとうございます。
 健二さんがいつも傍にいてくれたから由美はきっと最期まで幸せだったわ」

「いえ、俺なんか何も・・・」

「ううん。本当にありがとうね」

お母さんは涙を拭うと又、深々と頭を下げた。

「そんな・・・お母さん、頭を上げて下さい」

俺はきちんと座り直すとお母さんに言った。

「こちらこそありがとうございました。
 結婚どころか婚約すらまだしていないのに家族同然に扱っていただいて
 本当なら水入らずで想い出に浸りたいであろうところを・・・
 こんな席にまで俺に居させてくれて・・・」

「いや、本当に君がいてくれて助かったよ。感謝しているよ。
 母さんと二人だったら、こんなに立派に由美を送り出してやれんかっただろう」

お父さんは笑顔を作って俺に言った。

「・・・」

「いろいろな段取りやら連絡やら本当に助かった。
 うちはとうとう一人娘のままだったけど
 息子がいるってこんなに心強いことだったんだなぁ~ なぁ、母さん?」

「はい」

頷くとお母さんは笑顔を作って言った。

「でもね。健二さんはまだ若いんだから何も縛られることはないのよ。
 うちにも遠慮しないで、早く幸せを見つけてね。
 その方が由美もきっと喜ぶから。あの子ならそうよね?」

お母さんはお父さんの方を向くと言った。

「そうだな。
 まぁ、昨日の今日で健二君もまだ気持ちの整理がついてないだろうけど何も気にしなくて良い。
 亡くなった者も大事だけど、それより残った者の方がずっと大事なんだ。
 私達もそう思うようにするよ。
 もちろん、娘を忘れるという意味ではないけどね。
 そう、忘れるもんか・・・忘れるはずがない・・・」

お父さんの言葉に頷きながら涙をひとしきり拭うとお母さんは微笑みながら言った。

「さぁさ。キリがないわね。健二さんも帰って少し休んでちょうだい。
 ここ二~三日全然寝てないでしょ?
 あなたまで倒れちゃったら私が由美に怒られるから」

「はい、ありがとうございます」

それから俺は改めて遺影の前で手を合わせ線香を点けるともう一度お参りをしてから
後ろ髪を引かれる想いを断ち切りながら由美の家を後にした。


十分に悲しみに浸る間もなく
むしろ現実感が感じられないまま葬儀までの時間がただ慌ただしく過ぎて
今日が何曜日だったのかも忘れていた。
本当の意味の悲しみはおそらくこれからジワジワと湧いてくるのだろう。
だが、今はそこに頭が至る間もないほどクタクタに疲れ果てていた。
家に戻るとそのまま着替えもせずにベッドに倒れ込むように俺は眠りについていた。

その夜、俺は夢を見た。





          *明日の後編に続く*




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