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夢の汽車に乗って プレゼント  ~クリスマスストーリー 中編(3-2)~

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yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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北の街もいつしか根雪になって
あちらこちらでイルミネーションが
華やかに街を飾る季節になった。

そしてクリスマスイブの夜。
子供達にとっても恋人達にとっても特別な夜だ。
だからと言って俺には何も関係がないただの夜だ。


「おーい!」

会社を出ようとすると同僚の遠藤が声をかけてきた。

「あぁ、遠藤。どうした?」

「いや、すまんけどさ。
 何も言わずにこれもらってくれないかな?」

そう言うと遠藤は俺の手に紙のようなモノを握らせた。

「何?」

「ケーキの引換券だ。
 駅前の『モン・サン・ミッシェル』だぜ。知ってるか?」

「あぁ、地元の超有名店だろ? みんな知ってるさ」

「そこのクリスマスケーキの引き換え券だ。
 ありがたく思え。お前にやる。
 しかもタダだ。金はもう払ってある」

「何だよ? 子供に持って帰るんじゃないのか?」

「子供に食わすのにこんな高いケーキは買わないよ」

「じゃ、どうしたんだよ?」

「フラれた・・・」

「えっ?」

「せっかくホテルを予約してさ。
 高級フレンチのディナーも予約して
 こんな高いケーキも買ったっていうのにさ」

「フラれたって、お前・・・浮気してたのか?」

「してたっていうか・・・する予定だったんだ。
 行きつけのスナックのチーママなんだけどさ。
 何年も通って口説いてきたのにさぁー
 いざその時となったら何てことはない。
 イブは本命の男と過ごすんだってよ。
 なら早く言ってくれよな、本当にさ」

遠藤はブツブツと呟いた。

「そりゃ、自業自得ってやつだろ?
 でも、それならそれで家に持って帰れば良いじゃん。
 きっと、奥さんだって子供さんだって喜ぶぜ」

「いや、家ではうちの奴が盛大なケーキを作ってる。
 見た目は悪いけど・・・まぁ、美味いんだけどな。
 でもさ、それを解っていて
 こんなケーキを買って帰ったらどうなると思う?
 『あんた、ケンカを売ってるの?』ってさ。
 うん、間違いない。
 だから、頼む! 遠慮なくもらってくれ!」

「でも、俺だって一人なんだから食べきれないよ」

「なんだ、今夜も一人なのか?」

「悪かったな。余計なお世話だよ」

「あはは、すまんすまん!
 でも、頼むよ。人助けだと思ってさ」



普段はケーキ店には全く無縁な俺にとって
『モン・サン・ミッシェル』は
店の中に入るのもはばかるほど混み合っていた。

ましてや今夜は夜が夜だ。
明らかに恋人同士と見える多くの若いカップルに交じって
居心地が悪そうに並んでいる中年サラリーマンの姿もあった。
多分、帰りを心待ちにしている家族のために
恥ずかしいのを我慢して頑張って並んでいるんだろうな。

そんなことを考えながら
俺は何度も店の前を行ったり来たりしながら
店の中が空くタイミングを見計らっていた。

何度となく<このまま帰ろうか>
そんな気持ちが心を過った。

それほど今夜は場違い感を増幅させられている気がした。

『どうしようかな・・・でも、遠藤に悪いか。
 明日、ケーキの感想を訊かれても答えられないのはマズイしなぁ』

特別な夜だからか店の中はいっこうに空く気配がなかった。

何度目かに店の前に立った後で
俺は意を決して店の中に入っていった。



ケーキを引き取った後で
何とはなく帰路を歩いていたらデパートの前を通りかかった。

柴田みゆきが勤めているデパートだ。
時間は八時を随分過ぎていた。
もうデパートは閉店している時間だ。
多分、ついさっきまでは
これでもかというくらい華やかだったであろうショーウインドウも
今は灯りを消していて妙な静けさだけがそこにはあった。

スーツだってワイシャツだって
近所の量販店で済ませていた俺には
高級品を扱うデパートなんて縁遠い場所だった。

超有名ケーキ店にデパート。

特別な夜だからか?
今夜は普段の俺には縁遠い場所にばかり縁が出来てしまうようだ。

そんな考えに思わず苦笑いをしてしまった。


灯りの消えたショーウインドウを見ながら歩いていると
デパート横の従業員通路から飛び出してきた黒い影とぶつかりそうになった。

「きゃっ、ごめんなさい!」

「あっ、いやこちらこそ。大丈夫ですか?」

「あっ!?」

二人は同時にお互いに気が付いた。
それは誰あろうか柴田みゆきだった。



「柴田?」

「高代君?」

「大丈夫?」

「えぇ。あー、ビックリした」

「俺もだよ。まさかこんなところで柴田に会えるとはね」

「だって、ここは私が勤めているデパートだもの」

「あっ、そうか!」

まるで<そのこと>には気がついていなかった風を装って俺は答えた。

「何か随分と急いでいるようだったけど?」

「あっ、いけない! プレゼントを買いに行かなきゃならないの」

「プレゼント?」

「えぇ、娘に・・・」

「だって、柴田はデパートに勤めているんだろ?
 おもちゃとかぬいぐるみとかだって売ってるんじゃないの?」

「でも、もう五歳よ。デパートの包装紙って訳にはいかないもの」

「なんだ、包装紙くらい替えたら良かったじゃん。
 今は百均でも売ってるし」

「あっ、そうか! 気が付かなかった」

「あはは。意外と・・・あっ、いや(笑)」

「なぁに? どうせ私はヌケてますけど?」

「いやいや、そうじゃなくってさ」


<意外と可愛いところがあるな>
そう言いかけて続きの言葉には出来ないでいた。


「あー、急がなきゃ! お店が閉まっちゃう」

思い出したように柴田みゆきが言った。

「そうだね。それは急いだ方が良いよ」

「うん、バタバタしちゃってごめんね」

俺は手を振りながら走って行く柴田みゆきを見送っていた。
その背中はだんだんと小さくなりすぐに人ごみの街に消えて行った。

「まぁ、こんなもんだよな」


特別な夜の偶然の出会いは神様を信じない人間にも
何か特別な予感と期待を与えるようだ。
だがそれは或る意味、特別な夜の夢。
ちょうど降り出した雪のように儚い夢なのだが。


「あっ、雪だ・・・」

俺は真っ暗な夜空を見上げながら
ただ静かに落ちてくる白い雪を見ていた。

「ドラマだったらきっと
 こんな夜はこの雪に紛れて天使が降りてくるんだろうな」

急に思い浮かんだ乙女チックな空想が妙に可笑しくて
俺はふと口についた独り言に笑ってしまった。

「さぁ、帰るか・・・あっ!
 どうせならこのケーキ、柴田にやれば良かったかな?」

後悔後に立たずと言うけどそれは本当だ。
まぁ、今更のように思っても
今までだってそれで随分後悔をしてきた。
結局は学習能力が低いってことなんだろうな。

そんなことを思いながら俺は帰り道を歩き出した。


歩いて十分も経っただろうか。
突然、スーツのポケットから着信音が聴こえてきた。
俺は慌ててポケットからスマホを取り出した。

「あっ!」

それは柴田みゆきだった。




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