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夢の汽車に乗って 星にリボンを 中編  ~七夕ストーリー~

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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それから三日間でポスターを仕上げた。

「うん、我ながら良い出来だよね」

出来上がったポスターを何度も見ては私はウンウンと頷いてニヤニヤ。
「やったじゃん!」と私はご満悦だった。
それくらい快心の出来だったのだ。
早速プリンターでA3判に縮小印刷をすると隣の山崎に見せた。

「山さん、どう?」

山崎はポスターを受け取るとしばらくじっと見ていた。
私は椅子を転がして山崎に近寄るともう一度訊いた。

「どう? けっこう自信があるんだけどなぁー」

すると山崎は予想外な答え方をした。

「んー、ポスターとしては悪く無い。
 むしろ良い出来だと思うよ。
 後はまぁ、課長がどう判断をするかだな」



その加藤課長のオーケーをもらい
翌日、課長と営業さんと私の三人でクライアントの会社に向かった。


「すみません。お待たせをしました」

そう言ってクライアントの担当者が応接室に入って来た。
一通りの挨拶と世間話の後で課長が私に向かって言った。

「小島君、ポスターをお出しして」

「あっ、はい」

私はゲラ刷りの入った茶封筒を担当者に手渡した。

「ほぉ、楽しみですね」

担当者が笑顔で茶封筒からゲラ刷りのポスターを取り出した。
と、ポスターを見ている担当者から笑顔が消えて行った。

「どうでしょう? 良い出来だと思うんですが」

課長がご機嫌を伺うような口調で担当者に尋ねた。
私はドキドキする気持ちを抑えながら担当者の言葉を待った。

担当者はポスターをテーブルの上に置くと
軽く一息ついてからこちらを見据えるとゆっくりと判決を下した。

「確かに、ポスターとしては良い出来だと思います。
 でも、残念ながらこちらの意向があまり良く伝わっていなかったようですね」



会社への帰り道。
不機嫌な課長を筆頭に誰もが無言だった。

私は必死に涙を堪えながらダメ出しされた理由を考えていた。
ふと、奇しくも山崎と担当者が同じことを言っていたのを思い出した。

<ポスターとしては良い出来だ>

ポスターは悪くない?
じゃ、何が?
良い出来なら良いじゃない!
何がいけないの?

私の頭の中は最早グシャグシャだった。



「小島ーーー! ちょっと来い!」

会社に戻るなり私はすぐに課長のデスクに呼び付けられた。

「バカヤロー! お前、何年この仕事をやってんだ?
 俺に恥をかかせやがって!
 えっ? この始末、どうすんだよ?
 お前の代わりなんていくらでもいるんだからな。
 やる気がないならとっとと田舎に帰っちまえ!」

「すみません・・・」

私はそう言うのがやっとだった。
怒られるのには慣れているつもりだった。
だが、それ以上に自分に対する悔しさに涙が溢れた。
そこに課長が追い打ちをかけた。

「へっ! 泣けば良いと思ってるのかよ!
 これだから女は困るんだよ。
 もう良い! 行け!」


席に戻った私は机に伏したまま、溢れてくる涙を何度も堪えようとしていた。
でも、涙の蛇口が壊れたかのように涙を止めることは出来ないでいた。


「どうした?」

外から戻って来た山崎が声を掛けてくれた。
でも、私は答えられなかった。

「そうか、ダメだったのか・・・」

察したように山崎が優しく言った。

「まぁ、そんなこともあるさ。
 あまり気にするな。
 この商売は腕よりもクライアントとの相性みたいなこともあるしな」

私は涙を拭いながら山崎に訊いた。

「山さん・・・ 何が悪かったの?
 山さんも言ってたよね?
 『ポスターとしては良い出来だ』って。
 あれって、どういう意味?
 良い出来なら良くないの?」

「んまぁ・・・そうだな」

山崎は席を立つとコーヒーサーバーの所に行き
ふたつのカップを持って戻って来た。
そして、私にひとつを手渡すと優しく微笑みながら話を続けた。

「俺がいつも言ってる言葉、覚えているよな?
 『俺達は』ってやつだ」

私は無言で頷いた。

「それが全てだよ。それだけだ。
 今回のクライアントの意向はどんなだった?
 芸術的なポスターを望んでいたのか?
 大人が見て感心をするようなポスターだったか?
 若者の気を引くようなポスターだったのか?」

「違う・・・」

私は俯きながら小さな声で答えた。


そうだ。その通りだ。
私は端からクライアントの意向書を陳腐なものだと軽く見ていたのだ。
そして、思い上がった私は自分の力を誇示するかのようなポスターを作った。

私は何を思い上がっていたんだろう?
何を焦っていたんだろう?
何に恐れていたんだろう?

働き始めてもうすぐ八年。
しかも、来年には三十歳になる。
早く一人前にならなきゃという焦り?
何も結果らしい結果を残せずに三十歳を迎えることへの恐れ?
その先に待っているであろう人生へのおぼろげな不安?


「山さん、もしかしてこうなるの解ってた?」

山崎は優しく答えた。

「いや、俺は神様じゃない。そんな予言は出来ないよ。
 でもな。長年の勘っていうのかな。
 お前が一人前になるためには必要な試練なんじゃないかと。
 漠然とだが、そんな風にも思っていたのも事実だ」

「『簡単なものほど難しい』・・・ですか?」

「まぁな。でも、お前なら乗り越えられるさ」



そんなこんながあって
目一杯落ち込みながら帰り道の自転車を漕いでいたら突然メールの着信音が鳴った。
自転車を停めて、ポケットからスマホを取り出した。
見ると出張に行っているはずのタカシからだった。

<やっほー! 今日も快食快便してるかい?
 今、札幌だよーん。
 ススキノのネオンが俺を待ってるぜい(むふ)
 おぉーっと、待っているのはススキノのお姉ちゃんだけじゃないぜ。
 カニ、イクラ、ラーメン、ジンギスカーン!
 何? 羨ましい? わっはっはー。
 お土産は北海道の空気だ! 楽しみにしておけよー!!!>

いつもながらのノー天気なメールだった。
でも、これでけっこう根は真面目で仕事も頑張っていたし
何より優しかったので
私が落ち込んでいる時もこんな明るいタカシに救われることも多かった。

でも、今日だけは違っていた。
いつもなら『バカなやつ』と笑って許せることも
今は落ち込んでいる気持ちを余計に助長させた。
それだけに今日はいつになくカチンときたのだ。

「なんて無神経な奴!」

もちろんタカシはこっちの事情なんて知る由もない。
だが今の私にはそんな解りきったことを許せる気持ちの余裕すらなかった。

ついマジ切れした私は『絶対別れてやる!』
そう返信しようと心に決めた。


と、その時。
堤防の下の家の庭先にキラキラ光るものがあった。

「何だろう?」

良くみるとそれは柳の枝に飾ったいくつもの短冊だった。
その内の金銀の短冊が夕日に反射をして光っていたのだ。
ふと、スマホのカレンダーを見て気が付いた。

七月七日。

「そうだ。今日は七夕だったんだ。あっ!」

私は思い出した。
十一年前の七月七日の夜。
私が高校三年の時に病気療養中だったお母さんが亡くなった。
今日がその日だったことを。

「あー、今日はお母さんの命日じゃん!
 何をやってるんだろ、私って。こんな大事なことを忘れていたなんて・・・」

私はすぐさま自転車を漕いで堤防を下るとバス通りに出て自販機を探した。

「あった!」

私はお母さんの好きだったサイダーを二本買うと又、自転車を漕いで堤防に戻った。
そして自転車を停めると堤防の草むらに腰を下ろした。

缶のサイダーのリングプルを開けると座った横に置いた。
そしてもう一本を開けると私はそれを一口飲んだ。

「あぁー、サイダーって昔と変わらないね」

私はお母さんに話しかけた。

「ごめんね。お母さん。すっかり忘れていたよ。
 ダメだね。だから仕事も失敗するのかな?
 私だけ何だか変わっちゃってるのかもね・・・」

川面に夕日が揺れながら光っていた。
そして、その向こうに灯り始める街の灯り。
そんな景色を眺めながら小さい頃のことを思い出していた。


「ローソクだーせ、だーせーよ。だーさないとひっかくぞ・・・」

小さい頃、町内会の子供会が中心になって七夕の日にそうみんなで歌いながら
子供達は町内の家々を回ってはお菓子をもらって歩いていた。
 (注)道南の一部を除いて北海道の七夕は月遅れの八月七日。
だが、本当にローソクなんてくれようものなら大ブーイングものだった。
子供達の目当てはあくまでもお菓子だったのだ。

「クスッ」

私は思い出し笑いをした。

「そう言えば、向かいのオバサンは
 わざと意地悪く最初は本当のローソクを出してきたっけ。
 そして私達がもじもじしているのをニコニコ楽しそうに見ては
 『ほらっ』って言って後ろ手に隠していたお菓子をくれたんだ。
 懐かしいなぁー」

そう呟いて私は又、ひと口サイダーを飲んだ。

「そうだ! 五年生の時だっけ?
 新しい浴衣を買ってくれたよね。嬉しかったなぁー。
 それまでは従姉妹のお姉ちゃんのお下がりばかりだったから
 自分のを初めて買ってもらった時はホントに嬉しかった。
 そう、そしてお母さんが結んでくれた黄色いリボン・・・
 ずっと私のお気に入りだったんだよ。
 あの頃が一番幸せだったのかなぁー」



「ちーちゃん、ちょっと来てごらん」

居間で宿題をしていたら隣の和室からお母さんの呼ぶ声がした。

「なぁーに?」

すぐに走って行き和室に入るとお母さんがニコニコしながら座っていた。

「おいで」

そう促されて私はお母さんの前にちょこんと座った。

「はい、これ。 どう?」

目の前に置かれたのは新品の浴衣だった。
白地に赤と青の朝顔が描かれていた。
側には黄色い帯と黄色い鼻緒の下駄も一緒に置かれていた。

「わぁー、可愛い!」

「気に入ってくれた?」

「これ私の?」

「そうよ。今度の七夕の時に着させてあげるね」

「わぁーい! お母さんありがとう!」


それから七夕の日まで毎晩私は枕元に畳んだ浴衣を一揃い置いたまま寝た。
ある夜、私は起きると浴衣が失くなっている夢を見た。
慌てて飛び起きた私はすぐに電気を点けて枕元の浴衣を確認した。

「あぁ、あった! 良かった。夢だったんだ」

そして、ホッとすると又、私は眠りについた。


そんな夢を見てしまうくらい私は本当に嬉しかったのだ。


七夕の日(実際には八月七日)
私は朝起きると浴衣を持って居間に行った。
待ちきれなかったのだ。

「あら、どうしたの? 早いわね」

時計は朝の六時だった。

「ねぇ、これ着たい」

「えー? まだダメよ。だって回るのは夕方でしょ?
 一日ずっとそのかっこうでいる訳?
 汚したらどうするの?
 それに、もう少ししたらラジオ体操に行くんだよ。
 浴衣じゃ体操が出来ないでしょ?」

「えー、つまんない。体操・・・行かない」

「なら浴衣も無しよ」

「そんなぁー」

私は半べそをかいた。


そして、待ちに待った夕方になった。
私は台所仕事をしていたお母さんをチラッと見て言った。

「ねぇ、お母さん?」

お母さんは神妙な顔の私に気付いて笑顔になると手拭で手を拭きながら居間に来た。

「はいはい。じゃ、こっちにおいで」

お母さんの後について和室に入ると衣紋掛けに浴衣が掛けてあった。


浴衣を着付けてもらった私は有頂天になって
何度もクルクルと右へ左へ回りながら得意満面の笑顔でお母さんに尋ねた。

「ねぇ、どう? 似合う?」

「えぇ。良く似合ってるわ」

ニコニコしながらお母さんもそう答えた。

「あっ、そうだ!」

そう言うとお母さんは箪笥の真ん中の引き出しを開けて何かを取り出した。

「せっかくの浴衣だし、髪を後ろに束ねたらこれで結おうか?」

それは帯と同じ色の黄色いリボンだった。

「うん!」


考えると帯も下駄の鼻緒もリボンもみんな黄色だった。
でも、その時はそんな事はちっとも気にならなかった。
自分の浴衣が着られる。
それだけで私は大満足だった。




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