Neko

夢の汽車に乗って 星にリボンを  前編  ~七夕ストーリー~

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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仕事帰り。
夕暮れの堤防沿いのサイクリングロードを私はいつものように自転車を走らせていた。

七月とは言え、
この時間になると昼間の暑さも落ち着きをみせ頬に当たる風は幾分涼やかだ。

晴れた空は青から蒼へ、そしてそれが藍に変わる頃
その下にグラデーションで広がる夕焼けのオレンジ。
闇に押されて次第に小さくなっていくオレンジと入れ替わりに
川の向こう岸とこちら側に徐々に拡がっていく街の灯り。
やがて灯る一番星。

そんな夕暮れの風景を眺めながら自転車を走らせる帰り道。
私はこの風景に出会う為に毎朝他の人より一時間は早起きをして
バスも電車も使わずに自転車を漕いで通勤をしているのだ。

ビルの谷間に沈む夕焼けもそれなりに美しい。
でも大きな空いっぱいに拡がる夕焼けの美しさには敵わない。
もし、この風景に敵うものがあるとしたら
それは故郷の空だけかも知れない。

私はこの風景にかつて故郷で見ていた風景を重ねているんだろうな。
望郷とかホームシックではない。
むしろ、この風景を見ることで私は仕事で疲れ切った心と身体を癒している。
故郷の温かさに包まれながら・・・そう、そんな感じなのだ。



私の名前は小島千里。
『せんり』と書いて『ちさと』と読む。
小さい頃は父も母もおじいちゃんもおばあちゃんも
もちろん友達も誰もが『ちーちゃん』と呼んでくれた。
幼いなりにけっこう気に入っていたのだ。

中学の頃だったか、一度お父さんに名前の由来を訊いたことがあった。

「ねぇ、おとうさん? 『千里(ちさと)』ってどうして付けたの?」

「うん、名前か?
 お父さんもお母さんもこの町で生まれてここでの生活しか知らないんだ。
 いや、これは不満じゃない。
 お父さんもお母さんも満足しているさ。
 この町で生まれてお母さんに出会えたし結婚をしてお前が生まれた。
 それがお父さんとお母さんの幸せだった。
 でも、お前が産まれた時に思ったんだ。
 じゃ、この子は将来どうなるんだろう?ってな」

「うん」

「親の勝手かもしれんが、お前にはもっと広い世の中を見て欲しいと思った。
 将来、大人になって例えお前が千里離れて遠くに行ったとしても
 お父さんとお母さんはいつでもお前と繋がっているし
 いつでもお前のことを見守っていたい。
 『千里』の『里(り)』は長さの単位ではあるけど
 もうひとつは『古里』の『さと』だ。
 つまり千里離れたとしても始まりはお前の生まれたここと言う訳だ。
 お前がどんなに遠くに行ったとしてもお前が帰れる場所はいつでもここにある。
 それを忘れて欲しくなくてさ。
 それでどうしてもお前の名前に『里』の字は使いたかったんだ。
 つまり、どんな時だってお前と繋がっているってことをお前が忘れないようにな。
 ・・・まぁ、そんな色々な想いを込めてさ」

「うん」

私はちょっと感動していた。
と、お父さんはそれをすぐに台無しにしたのだ。

「なぁ~んてな」

そう言ってお父さんは笑ってみせた。

「えっ? 何?」

「あはは。すまん、すまん。今のは後付けだ」

「えっ? ひどーい! けっこう感動したのに!」

「すまん、すまん」


そうは言ってごまかしたけど、後になって考えると
それは父親特有のテレだったのかもしれないと思った。
名前の由来を語っていた時のお父さんの表情は
娘の贔屓目じゃなくたって深い愛情に満ちていたのだから。



小さい頃、白い紙やノートさえあれば好きで良く絵を描いていた。
絵と言うには稚拙でむしろ単なるマンガだったのだが
みんなが褒めてくれたので
私はすっかりその気になって将来はマンガ家になりたいと思っていた。

でも、だんだん大きくなるにつれ
絵が上手いだけじゃマンガ家にはなれないことを悟った。
つまり、物語を創造する斬新な発想力とそれを具体化する為の構成力。
そこに登場するキャラクター。
真剣に考えれば考えるほど自分には無理だと考えるようになっていったのだ。

それでもやはり絵を書くのは好きだった。
高校を卒業すると私はデザイナーになる為に東京の専門学校に進んだ。

北海道からだと千里とまではいかなかったが
奇しくも父親の言っていた通りに私は故郷を離れて暮らすことになったのだ。

卒業後はそのまま東京の中堅デザイン会社に就職をし
そろそろ八年目に入ろうとしていた。
独身のアラサー女、二十八歳。
このお盆が過ぎたらいよいよ二十九歳になる。



今日の私は疲れ切っていた。
と、言うよりは自己嫌悪・・・そう言った方が正しいのかも知れない。

いつもと同じ夕暮れの帰り道。
いつも以上にきれいな夕焼けを見ながら自転車を走らせても
爽やかな風を頬に受けてもちっとも心は晴れやかにならなかった。
出るのは溜め息ばかりだった。

「何なんだろう? 私って・・・」


つい先日のこと。
この秋に行われる子供向けのイベントのポスター作製の依頼があった。

クライアントの意向はこうだ。

<子供が喜ぶようなマンガっぽい可愛い絵を大きく配置して
 職業体験イベントの楽しさが良く伝わって
 尚且つ、子供の興味を引くような謳い文句の入ったカラフルで目立つポスター>


「小島、これ今週中にやってくれないか?
 マンガはお前の得意分野だろ?
 頼むぞ、けっこう大事なクライアントなんだ」

「あっ、はい」

上司の加藤課長はそう言って私の肩をポンと叩くと
鼻歌を歌いながら自分の席に戻って行った。

何でも言えば簡単に出来ると思っている加藤。
上手く行けば当然自分の手柄になる訳だし
ダメならそれは部下のせいにすれば良いんだから気楽なものだ。

加藤課長は元々は営業畑専門でデザインのことなんててんで解ってはいない。
ただ、前任の課長が体調を崩して退職をしたので
急きょ先月からデザイン課を任されることになったのだ。

なのでデザインに関するアドバイスは一度も無かった。
もっともプロのデザイナーにアドバイスを出来るほどの
経験も知識も無いに等しいのだから
ある意味それは当然過ぎるほど当然のことだった。
古参のデザイナーの中には早くもバツマークを付けている者さえいた。

それでも上司は上司だ。
こちらもプロだし、言われたことには全精力を注ぐのだ。

それがプロとしての誇りだった。



「で、何だって?」

私はクライアントの作成した意向書に改めて目を通した。

「なんだこれ?」

二~三回サラッと目を通した後で
私は意向書をデスクの上に放り投げると
頭の後ろで手を組み回転イスを右へ左へゆするように回した。

「どうした? ブランコをわざとゆすって拗ねている子猿みたいな顔だぞ」

隣の席の山崎がニコニコしながら声をかけて来た。
山崎はこの道四十年の超ベテランデザイナーで
その存在は業界大手事務所のデザイナー達からも一目置かれている。
普通の会社なら定年はとうに過ぎているだろうが
今でも現役バリバリのデザイナーである。
私の師匠であり、相談相手。
山崎にしてみれば私は危なっかしい手のかかる孫みたいなものだろうか。
時にはその柔和な顔からは想像できないくらい激しく叱られもしたし
私が落ち込んでいる時は何も言わず飲みに連れて行ってくれたりと
入社以来何かと面倒を見てくれていた。

「どうせ北海道から出て来たまだまだ半人前の子猿ですから。
 すいませんね。可愛くなくて」

「いやいや、子猿はけっこう可愛いぞ」

「んー、微妙です」

私は山崎と顔を見合わせて笑った。

「これ」

「ん?」

山崎に意向書を手渡すと時々何かを考えながら丁寧に目を通していた。

「ふむ」

私は山崎の持っている意向書を横から覗き込むように言った。

「それ」

「ん?」

「もう既にクライアントの頭の中にはガチガチのイメージが出来上がってますよね。
 それも、いかにも大昔の子供向けーみたいなの」

「だね」

「じゃ、自分で書けよって感じだわ」

「おいおい、それじゃ俺達は失業だよ」

「あはっ、確かに。でもなぁー なんかつまんない」

「そこを何とかアイデアを絞って
 クライアントを喜ばすのが俺らの仕事だろ?」

「そうなんですけどー」

「俺達は・・・」

山崎が言うのを遮って私が続けた。

「『俺達は芸術家じゃない。
  クライアントの意向を最大限に形にするのが俺達の仕事だ!』
 でしょ?」

「なんだ、解ってんじゃないか」

「もう何百回も聞かされましたから」

「なら、頑張れ」

「はーい」

「だが、気を付けろよ。簡単なものほど実は難しい」

「どういう意味ですか?」

「んー、こればっかりは教えてもどうにもならないんだ。
 まぁ、お前なら出来るさ。
 よしんば、一度は大きく躓いてみるのも良い。若いんだから」

「えっ?」

「いや、こっちの話だ」

「はぁ・・・」



「子供向けのイベントかぁー。
 じゃ、やっぱりイラストは小学生くらいの男の子と女の子かな?」

私はデスクに向かうとペンタブレットを使い
思い浮かぶままに子供のイラストを幾つも描いていった。

前を指差す笑顔いっぱいの子供。
警察官の制服を着てパトカーに乗っている子供。
ファーストフードの店員さんのようにニコニコしながらおじぎをしている子供。

描いては削除をし又、描いては削除をして
数時間経っても結局パソコンの画面は真っ白なままだった。

何だかしっくりこない。
何を描いても陳腐なものに思えた。

「そもそも、子供が喜ぶような可愛いマンガっぽい絵って何?
 イベントって職業体験だよね?
 じゃ、働く車とか・・・あっ、そうそう! 大工さんとかコックさんの絵とか?
 んー、ダメだ・・・全然浮かばない。
 簡単なものほど難しいってこういうこと?」

真っ白なパソコンの画面を見ながら私はずっと頭を悩ませていた。

「山さん、もう帰っちゃったしなぁー」

私は又、両手を頭の後ろで組むとイスを左右に揺らした。


「なんだ、もう煮詰まっているのか?」

驚いて振り返ると買い物袋を手に持った山崎がニコニコしながら立っていた。

「山さん!」

「ほら、差し入れだ。どうせこんなこったろうと思ってな」

山崎は手に持っていた買い物袋を袋ごと私に差し出した。

「でも、何だな。この時間のコンビニって弁当とか売り切れが多くってさ。
 ほとんど何も残ってないんだな。
 すまんな。アンパンとジュースだ。
 アンパンと牛乳なら刑事の張り込みみたいで面白かったんだけど
 お前は北海道人のくせに牛乳が苦手だったよな?」

「あはっ、山さん。ありがとう。
 『くせに』は余計だけど。
 北海道人だってみんなが牛を飼っている訳じゃないですよ」

「あはは、イメージだよ。
 北海道と言えば澄み切った青い空と広い大地。
 どこまでも真っ直ぐに伸びた道路。
 その両脇には緑の牧草地と放し飼いされた乳牛・・・ってな」

「それと熊と蟹と鮭でしょ?」

「他に何がある?」

「ありますよー、いーーーっぱいです!」

私はわざと大袈裟に両手を広げて言った。
その時、ふと思いついた。

「そっか、イメージだ!
 私は言葉のイメージに囚われ過ぎていたんだ。
 山さん、ありがとう!」


私はペンを握るとすぐさまタブレットに向かってイラストを描き始めた。
山崎がいつの間にか帰っていたことにも気が付かないまま。




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