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夢の汽車に乗って 鏡の中の男  ~後編~

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yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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そして六回目の新月の夜になった。

「いよいよ今日で俺は生まれ変わるんだ!」

そう思うと二時までの一分、一秒が待ちきれない想いだった。

「でも・・・本当に男は現れてくれるんだろうか?」

急に不安が頭をよぎった。
物語なんかでは最後の最後にどんでん返しが起こるなんてことはよくあることだから。

「頼む! 頼むぞ! 出てきてくれ!」

俺は神にもすがる気持ちでその時を待った。
すがっていたのは、もしかしたら悪魔だったのかも知れないが
ここまで来たらどうでも良いことだった。
もう後戻りは出来ないのだ。



二時を過ぎた時、鏡の中の男が現れた。
そこには五か月前の俺がいた。

縮れたくせ毛。
かろうじて二重だが気持ち悪いくらいギョロっとした目。
低い団子っ鼻。
分厚い唇。
えらの張った長い顔。

三十年以上も連れ添った見慣れた顔がそこにあった。


「やぁ、今夜も早いね。そんなに待ちきれなかったかい?」

「あぁ、そうだよ。その通りだ。
 俺はやっと今日で生まれ変われるんだ!
 どんな想いでこの夜を待ったかお前には分らないだろう?」

「いや、分るさ。なんたって俺はお前自身なんだからな」

「そうか、そうだったな。
 鏡の中のお前は俺の本当の姿だと言っていたものな。
 だがもう、そんなことはどうでも良い。
 早くこの潰れた大きな耳をお前の耳と交換してくれ!」

「良いさ。すぐに交換してやるよ。
 でも、その前にひとつ聞かせてくれ」

「なんだ?」

「お前の顔が少しづつ変わっていってどうだった?
 何か良いことのひとつくらいあったのかい?」

「あぁ、あったよ。普段は話しかけてもこないような
 美人社員に話しかけられたりね」

「そうか、そりゃ良かった。
 やっと、これでお前は本当のお前を取り戻せるという訳だ」

「あぁ、そうさ。俺は生まれ変わって人生をやり直すんだ」

「その美人の何とやらとかい?」

「そんな高望みはしていないさ。
 自分の分はわきまえているつもりだ。
 でも、普通の生活は送れるようになるだろう。
 みんなが当たり前にやっている生活がな。
 美人とは言わないけど恋人ができて結婚をして・・・
 そう、そして温かい家庭を作るんだ。
 そんな当たり前のことも今までは考えられなかった。
 でも、もうそれも終わりだ」

「そうだな。良かったじゃないか」

「あぁ、そうだよ。
 俺は生まれ変われるんだ。
 だから、さぁ。早く最後の交換をしてくれ!」

「良いとも。分ってるな?」

「目を瞑るんだろ? そして、三つ数える」

「そうだ。最後にひとつだけ言っておくが」

「何だ? 今更、やっぱり止めだなんて無しだぞ」

「分ってるさ。そんなことじゃない」

「じゃ・・・?」

「もちろん・・・」

「何だ?」

「後悔はしていないよな?」

「あぁ、むしろお前には感謝をしているよ」

「そうか。じゃ、最後の交換をしてくれるんだな?」

「あぁ、そうだ。早くしてくれ」

「じゃ、目を瞑るんだ」



鏡の中の男の言葉に俺はすぐに気が付くべきだった。
だが、俺は願いが叶う事に夢中で
男の言い回しがいつもと違うことに気が付かなかった。


「よし、目を開けて良いぞ」

俺はそう言われて目を開けた。
と、鏡の中には以前の俺がいた。

もちろん、あの忌まわしい耳もちゃんと男の顔に付いていた。
俺は急いで確認をしようと洗面所に向かおうとした。
が、身体が動かなかった。

「えっ? おい、これはどういうことだ!?」

俺は<鏡の向こう>の男に詰め寄ろうとした。
だが、やはり身体は動かない。

「何がだ?
 ちゃんと望み通りにお前はハンサムになれたんだぜ。
 素直に喜べよ。
 きっと誰もが羨んで容姿を交換したがるだろうな。
 あはは、自由と引き換えにな」

「な、何・・・? どういうことだ? おい!」

「そういうことだよ。
 お前は望むようなハンサムな顔を手に入れた。
 代わりに俺はこうしてやっと自由を手にいれたって訳さ。
 三十年ぶりに人間に戻れたんだ。
 お前には感謝しているよ」

男はそう言うとニヤリと笑った。

「おい、話が違うぞ!」

「えぇー? 俺が一度か嘘を言ったかい?
 俺は顔を交換してやると言っただけさ。
 違うかい?」

男はニヤニヤしながらおどけた風で言った。

「しかし、身体を交換するとは一度も言っていないぞ!」

「はは、それはお前が訊かなかっただけさ。
 お前の望みはハンサムになることだったろ?
 それは約束通りに叶えたんだ。
 ゆっくりとハンサムな顔を満喫してくれよ。
 慣れたら<そこ>の暮らしも良いもんだぜ。
 腹も空かないし、働かなくたって良いんだ。
 もっとも、そこじゃ働きたくても働けないけどな」

そう言うと男は寝室を出て行こうとした。

「おい、待て! 待ってくれ!
 第一、その醜い顔でどうするんだ?
 誰も相手にしてくれないぞ!」

俺は男を引き留めようと必死だった。

「顔?
 そんなことは自由から比べたら大したことではないさ」

男は俺をまじまじと見つめると呆れたように言った。

「お前はとことん醜い奴だな。
 顔だけが全てを決めると本当に思い込んでいるのかい?
 顔なんて本当は大した問題じゃないのさ。
 容姿を気にして卑屈になっていることこそが問題なんだよ。
 心配するな。
 お前のことは良く分っている。
 今日からお前の代わりに人生を楽しませてもらうよ。
 じゃあな」

そう言うと男は俺に向かって後ろ手を振った。

「待て、おい! 待ってくれ!
 俺をここに置いて行くのか?
 ここは俺の寝室だぞ。
 毎晩出てきて呪ってやる!」

男は振り返るとわざと大仰に言った。

「おぉ、そうだった!
 忘れていたよ。
 それじゃ、お前を例の骨董屋に持って行ってやるよ。
 運が良かったらすぐに代わりの奴が見つかるだろうよ。
 お前はそいつの顔を上手くもらえればそこから出られるって寸法さ。
 人生まるごと引き継いでしまえば良いんだ。
 なぁに、気にすることはない。
 殺す訳じゃないんだからな。
 ただし、交換する相手は良く選んだ方が良いぜ。
 うっかり殺人犯なんかと交換なんてしたら
 シャバに出た途端に捕まって死刑なんてことにもなりかねないからな」

男はそう言うと愉快そうに笑った。
 
「なるべくムシの良い考えの奴を見つけてそそのかせば良いんだ。
 『お前をハンサムにしてやる』ってな。
 簡単なことだろ?
 まぁ、本当はここまで教えてやる必要はないんだけどな。
 どうだ?
 おい、良かったな。
 俺が良い奴で」

そう言うと男は<俺>を壁から外すと小脇に抱えてアパートを出た。
陽気な鼻歌を口ずさみながら・・・




あれからどれくらい経ったのだろう?
何百年か? それともただの数日なのか?
<ここ>の居心地は思ったほどは悪くはない。
だが、ここにいると時間の流れが解らなくなる。

俺は何者で、なんでここにいるのか?
混沌とした時間の中で俺が俺でなくなっていく。
最初に感じていたそんな恐怖も今じゃ感じることもない。
俺が何者であろうともそんなことは最早どうでも良い。

ただひとつだけハッキリとしていることがある。

「ここを出たい!」

その想いだけが
俺の抱えたパラドックスを満たせるかのように脳裏に刻み込まれている。

「そうだ! 俺はここを出るのだ!」

そう強く念じた時、俺の周りが一瞬だが強い光を放った気がした。


その時、骨董屋のドアが静かに開いて
二十代半ばくらいだろうか?
見た目にも冴えない若者がおどおどと中を覗くように入って来た。

「あのぉ、ちょっと見せてもらっても良いですか?」




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