Neko

夢の汽車に乗って 鏡の中の男  ~中編~

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


カレンダー

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

最近の記事


カテゴリー


最近のコメント


フォト・ポエム


クリックお願いします。


月別アーカイブ


「お、お前は・・だ、誰だ?」

「おいおい、何を言ってるんだい?
 俺はお前に決まってるだろ?
 お前は鏡を見ているんだからな」

「そ、そ、そんな訳ない! あるはずがない!」


そう、そんなはずはないのだ。
何故なら鏡の中の男はシュッと細見の顔に通った鼻筋。
キレイな二重のクッキリとした目にサラサラの茶髪。
誰がどんなに卑下したところで
誰もが美男子と言うに違いないような男だったのだから。


「誰だ、お前は? 悪魔なのか?」

人間はあまりに信じられない場面に出くわすと
突拍子もないことを言うものだ。

『悪魔? そんな<モノ>がいる訳はない』

心の中ではそう思いながらも有り得ない現実を受け入れるには
そう思うしかなかったのだ。

「悪魔? この俺が? あはは、まさか!
 何を寝惚けているんだ? 俺はお前に決まっているだろ?」

「そうか、夢だ! これは夢なんだ!」

「夢? お前がそう思うのは勝手だが、残念ながらこれは現実だ」

冷めた言い方で男は言った。

夢なら夢でも良い。
こんな夢は初めてだが、これも酔狂と言うものだ。
俺は夢だと決めつけると少し落ち着きを取り戻した。

「ふん。自分で言うのも癪だけどな。
 俺はお前みたいにハンサムじゃないんだ。
 そんなことくらいは十二分に解っているさ。
 で? お前は何をどうしたいんだ?」

「どうにかしたいのはお前じゃないのか?」

「何が?」

「何度も言うが俺はお前だ。
 ただし、外見ではないけどな」

「どういうことだ?」

「お前の心が形になって映っているのさ。
 つまりは俺の姿形こそがお前の本当の姿という訳さ」

「意味が解らん」

「まぁ、良い。とにかく俺はお前なんだ。
 正確に言うとお前の<心>って訳だがな。
 お前が買ったこの鏡は心の中を映す鏡なのさ」

「・・・」

「信じてないようだね?
 じゃ、こうしよう。
 お前の顔のどの部分かと俺のどの部分かを交換してやろうじゃないか。
 お前の心をお前の外見に戻してやろうって訳さ」

「そんなこと出来る訳ないじゃないか。
 やっぱり、お前は悪魔だ!
 願い事をかなえる代わりに俺の魂を奪おうって魂胆なんだ!」

「ははは。どうせ『そうじゃない』と言っても信じないんだろ?
 なら、どうでも良いけどね。
 お前はせっかくハンサムになれるチャンスを失くすだけだし
 俺は痛くも痒くもないってことさ。
 だけど、試すくらいは良いと思わないか?
 どうせ<夢>なんだろ?」

「・・・」

「さて、何処が良い? 目か? 鼻か? 唇か?」

「・・・」

「おいおい、楽しい夢だと思うけどね。
 お前はそうやって夢の中でもいじけて暮らすんだ?
 『俺はブサイクのままが好きなんだぁ~』なんてな」

「何を!」

「おっ、少しはその気になったかい?」

「出来るもんならやってみろ!
 お前の目をくれ! その二重のキレイな目だぞ!」

「良いだろ。一度目を瞑って、そして三つ数えたらゆっくり目を開けるんだ」

俺は言われるままに目を瞑り、そして三つ数えた。

「一・・・二・・・三・・」

そしてゆっくりと目を開けた。

「あっ!?」

「どうした?」

鏡の中の男の目はさっきまでのクッキリとした二重ではなく
見覚えのあるギョロっとした二重の目になっていた。

「俺の目は?」

俺は慌てて洗面所に行くと鏡を覗き込んだ。
俺の目は見慣れた気持ち悪いくらいのギョロっとした目ではなく
クッキリとしたキレイな二重になっていたのだ。
だが・・・


「どうだ? 感想は?」

俺が寝室に戻ると鏡の中の男が訊いた。

「どうもこうもない」

「何を怒っている? お前の望み通りだろ?」

「そうだけど・・・でも、バランスと言うものがあるだろ?
 こんな顔に目だけキレイでも見た目は結局は変わっちゃいない。
 どうせなら一度に全部を替えてくれよ」

「それは無理だ」

「無理? 何故?」

「それが決め事だからだ」

「交換出来るのは一個だけと言う訳か?
 ふん、所詮はそんなもんなんだな」

俺は一瞬でもハンサムになれると信じた自分が急にバカらしくなった。

「そうじゃない。新月の夜に一個づつ替えられるんだ。
 だから次の新月の夜になれば又、替えられるのさ」

「新月の夜? どうして新月の夜なんだ?」

「人間は満月の夜が一番パワーがあると思っている。
 そうだろ?」

「そうじゃないのか? 狼男が変身をするのだって満月じゃないか?」

「それは迷信だ。
 確かに満月はたくさんのエネルギーを蓄えている。
 だが、それが放出されるのは新月なのさ。
 だから新月の夜が一番パワーが強いんだよ。
 考えてもみろよ。人の顔を替えるんだぜ。
 どれだけのエネルギーが必要だと思うんだ?
 だから、新月の夜に一個だけなのさ。
 解ったら次の新月まで大人しく待ってるんだな。
 又、その時に交換してやるよ」

そう言うと鏡の中の男は消えた。
今、そこに映っているのは紛れもない俺自身の醜い顔だった。
ただし、目だけはキレイな二重の何ともバランスの悪い顔だったけど。



次の日。俺は普段通りに出社をした。
会社のロビーやエレベーター。
廊下で誰かとすれ違う度に俺は自然と目を伏せていた。

普段は誰も俺のことなんかまともに見てはいない。
上司だって後輩だって多分そうだろう。
もちろん、仕事の打ち合わせとか
用事を頼んだり頼まれたりはあるけど目を合わせて話したなんて記憶にはない。

いや、もしかしたら気にしているのは俺だけで
他の奴らは誰が相手でもどうってことはないのかもしれない。

ある意味では会社というのはプロ集団だ。
みんな仕事相手の顔なんて本当は大して気にしてはいない。
気にしているのは自分の数字と出世だけだろう。
婚活に精を出す女子社員はともかくだろうけど。
もっとも、その手の女子社員は端から俺なんて相手にはしていない。

だから俺の目がいつもと多少違ったところで
誰にも気づかれないに違いない。
そんな風に思う気持ちと、もし誰かに気が付かれたら何て言えば良いんだろう?
そんな気持ちが自然と俺を俯かせていた。


「ふぅ・・・」

自分の席につくと自然にため息が漏れた。

「あっ、先輩。おはようございます。
 これ、今日の打ち合わせ表です。
 十三時からN商事との例の打ち合わせです。
 部長が期待しているぞって言ってましたよ」

後輩の佐久間はそう言うといつもと変わらない態度で自分の席に戻って行った。
何に気付くこともなくだ。

「そんなもんか、やっぱりな。だが、待てよ・・・」

以前、テレビで観た「アハ体験」のことを思い出した。

「アハ体験」自体は脳を活性化させる為の手段なのだが
その中に一枚の写真の一部が徐々に変化をしていくことに気が付くかどうか?
と、いうのがあった。

つまり、一度に変われば誰もが変に思うだろうけど
俺の顔のパーツが一ケ月に一か所づつ変わって行くんだったら
誰に気が付かれることもなく俺はハンサムな男に生まれ変われるんじゃないか?

俺は急に次の新月の夜が待ち遠しくなっていた。



二度目の新月の夜になった。
俺は十二時を過ぎたくらいから急く気持ちを抑えながら
鏡の前で<男>の出現を待っていた。

「早く来い!」

やがて二時を過ぎた時、男は現れた。

「おや、今夜は寝ていないのか?」

「当たり前だ! 早く交換をしてくれ!」

「まぁ、そう焦るなよ」

男はニヤニヤしながらわざとじらすようにゆっくりと答えた。

「で、どうだったい? 会社で誰かに気が付かれたかい?」

「いや、それは大丈夫だ。
 一度に全部が変わればみんな気が付くだろうが
 一ケ月に一か所だけならだれもそうは気にしないさ。
 もともとがそんなに目立つ方でもなかったしな」

「ほう、それじゃむしろ好都合ってやつだね?」

「だから、さぁ! 早く交換をしてくれ!」

「良いだろう。で? 今夜は何処にする?」

「鼻だ! 俺のこの団子っ鼻をお前の鼻と替えてくれ!」

「よし、じゃあ又、ゆっくりと目を瞑るんだ」

俺は心の中で三つ数えて、そして目を開けた。


鏡の中の男の鼻は見事なくらい俺のに瓜二つの団子っ鼻になっていた。
俺は急いで洗面所に行き、鏡で鼻筋の通った新しい鼻を確認すると
急いで寝室に戻って鏡の中の男に懇願をした。

「なぁ、やっぱり一ケ月に一か所しかダメなのかい?」

「あぁ、それが決まりだ。
 お前も自分で言っただろう?
 一度に全部が変わったら気付かれて整形疑惑なんて羽目になるぜ。
 そしたら逆に笑い者じゃないのか?」

「あ、あぁ・・・そうだな。分ったよ」



次の日、出社をした時も誰も俺の<変化>には気が付いていないようだった。

「先輩、今日の会議の資料はこれで良いですかね?」

「どれ、ちょっと見させてくれ」

「はい、それじゃよろしくおねがいします」

佐久間はいつもと変わらない態度で席に戻って行った。

俺は佐久間を目で追うと頷いた。
そう、これで良いんだ。



それから三ヶ月をかけて髪の毛、分厚い唇とえらの張った長い顔を
鏡の中の男と交換をした。

あんなにハンサムだった鏡の中の男が徐々に俺の顔に変わって行くのを見るのは
正直、自分の醜さを見せつけられるようで嫌だったが
今の俺はもう五か月前の<俺>ではなくなっていた、その快感には勝てなかった。

会社の廊下ですれ違う二人連れの女子社員がクスクス笑っているのを見ると
何だか自分のことを見透かされて笑われている気分になったりもしたが
元より俺のことなんて気にもしたことのない連中のことだ。
俺がどんなだろうとそれ以上気にはしないだろう。

別に<整形>をした訳ではない。
ただ、<交換>をしただけだが
仮に本当のことを言ったところで誰もそんなことは信じないだろう。

「そう、俺はこれが本当の姿なんだ」

俺は自分にそう言い聞かせてほくそ笑んだ。


ここのところ俺の課の女子社員の俺に対する態度も
少しづつ変わってきている気がした。

「先輩、何かありました?」

俺は同じ課の女子社員の島田にそう話しかけられてドキッとした。
サラサラの長い髪、大きな瞳。笑うとできるえくぼ。
もちろんスタイルだって抜群でその辺のモデルやアイドル以上だろう。
同じ課どころか会社中の独身どもが狙っているという噂の美人の島田が
私に笑顔で話しかけてくれた。
それだけでもう俺の心臓は飛び出しそうだった。

「えっ? い、いや・・・何もないよ」

俺は努めて平静を装いながら答えた。

「そうですかぁ? 何だか少し明るくなったみたい。
 何か良いことでもあったのかなぁ~なんて」

「あはは、なら良いんだけどね。残念ながら」

俺は少しテレながら頭をかいた。


今まで仕事のこと以外は話かけてこなかった女子社員が
こんなことを話しかけてくるなんて初めてだった。

『ふふふ。後、一ケ月か・・・』

俺は次の新月の夜が待ち遠しくてたまらなかった。




スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する


Powered by FC2 Blog