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夢の汽車に乗って 鏡の中の男  ~前編~

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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或る夜のことだった。
仕事が終わると俺は何処に寄り道をするでもなく
すぐにいつものように電車に乗り込み
そしていつもの駅で電車を降りて
いつものように駅前通りから商店街を抜け
俺はアパートまでの道を速足で歩いていた。



毎日、毎日、判で押したように
同じ時間にアパートを出て
同じ時間にアパートに戻る生活だった。

会社とアパートの往復だけの毎日。
同僚と飲みに行くでもなく
もちろん、デートなんてしたこともない。

「それで寂しくないのか?」だって?
別に寂しくはないさ。
そりゃ最初はね。
寂しいというより・・・そうだな。
<みじめ>ってのかい?
そんな風に思ったこともあったけど
慣れたら別にどうってことはなかったよ。

縮れたくせ毛。
かろうじて二重だが気持ち悪いくらいギョロっとした目。
低い団子っ鼻。
分厚い唇。
えらの張った長い顔。
潰れた大きな耳は遺伝だろうか?
思えば祖父も父も同じ耳をしていた。

そんな顔だったから子供の時から
女子にモテたこともなかったし
それは学生時代も今だって何も変わっちゃいない。

昔はね。
鏡を見ながら己の醜さを呪ったもんさ。
そして、もう二度と鏡は見ないと誓った。

でも、悪いことばかりでもなかったよ。
友人達がデートだなんだって遊んでいる間に
俺は勉強に没頭していた。
勉強は嘘をつかないし、顔で点数に差はつかないからね。

お蔭様でいわゆる世間でいう一流大学にも受かったし
今は世間から一流と呼ばれている会社で
それなりに頑張っている。
生活にも余裕ができたしそれで十分に満足さ。

例え、これから死ぬまでずっと独りだって
蓄えさえあれば何とかなるだろうし
三十歳を過ぎて今更他には何も望んじゃいない。



とある店の前に来た時に
店の中で何かがキラリと光るのが見えた。

「あれっ? こんなとこに骨董屋なんてあったっけ?」

俺は立ち止まってガラス窓の中を覗き込んだ。
すると又、何かが店の奥でキラリと光った。

引き込まれるように俺は店のドアを開けた。

「いらっしゃい」

その声の方をみると
およそ愛想の無いオヤジが店の脇のカウンターに座っていた。

「何か探し物ですかな?」

「い、いや、そう言う訳じゃ・・
 あのぉ、店の前を通りかかったら
 この中で何かが光った気がしたもんで気になっちゃって」

「そうですか。
 見ての通り、ガラクタばかりじゃが
 好きなだけ見ていってくだされ」

「あっ、は、はい」

俺は見るともなしに店の中を見て回ったが
特に何も目を引くものも変わったものはなかった。
素人目にはどう見ても中古品のしかもガラクタばかりにしか見えなかったが
見る人が見ると骨董品となるんだろう。
俺には全く興味のない世界だった。

<なんだ、気のせいかな>

「すみません。又、来ます」

そう言って俺が店を出ようとした時だった。
背後に何かの気配を感じた。

振り返って見ると、そこには仰々しいほどの金細工。
こんな店に並んでいるんだ。
おそらくはメッキか何かだろう。
元はかなり豪華な装飾だったろうが
今ではかなり金の部分が腐食していた。
鏡面の大きさは縦が五~六十センチ、横幅は三~四十センチほどの
そんな古ぼけた金細工の縁取りの鏡がそこにあった。

「ほぉ。お目が高い。
 それは古い曰く付きの鏡での。
 クレオパトラは知っておるじゃろ?」

店主はにこやかに話しかけてきた。

「えぇ、古代エジプトの女王で
 今でも美女の代名詞ですよね」

「その通り!」

私がそう答えると
店主は我が意を得たりとでもいうかのように大仰に答えた。
久し振りの<カモ>を見つけた猟師といった具合だろうか。
その胡散臭さに俺は適当にあしらって早く店を出ようと決めた。

「で、そのクレオパトラがどうしたんです?
 まさか、この鏡の持ち主だったとでも?
 そんな話は子供だって信じませんよ」

店主はかまわずに続けた。

「クレオパトラの鼻の話くらいは知っておるじゃろ?」

「えぇ、後何センチ高かったら世界は・・・って奴でしょ?」

「クレオパトラは確かに美人だったが
 その鼻がコンプレックスでもあったようでじゃな。
 毎日、この鏡を観ては嘆いていたそうじゃ。
 でも代々王家に伝わる鏡をどうすることも出来ずにいたのじゃが
 ある時、我慢が出来なくなって王の留守中に
 宮殿に飾ってあったこの鏡を従者に命令をして割ろうとしたのじゃが
 不思議なことにその時にはこの鏡は跡形もなく消えてしまっていたのじゃ。
 鏡がなくなった後のクレオパトラの悲劇は歴史の通りなのじゃが」

俺はこんな街の古ぼけた骨董屋の店主からクレオパトラの名を聞いただけで
胡散臭さが倍増したのに、これ以上の酔狂に付き合っているのは
どう見ても時間の無駄としか思えなかった。

「すみません。そんなすごい曰く付きの鏡は俺には買えそうもありませんので
 今日のところはこれで失礼します」

俺は店主の気を悪くさせないようになるべく気を遣って言ったつもりだった。
だが、店主の方はおかまいないしに自分の世界に浸っているようだ。

「まぁ、聞きなさい。
 それで、その鏡はどうなったのか?
 実はヨーロッパの諸侯に間を何百年、いや何千年もの間
 歴史の影に隠れて伝わっていったのじゃ。
 この鏡を持つ家は栄え、或る日突然なくなるとその家は滅びた。
 そんな風に伝えられておる」

「はぁ」

「何じゃ、信じておらんようじゃな?」

「い、いや、そんな訳じゃ・・・
 でも、にわかには」

「まぁ、それも無理はない。
 信じるも信じないもあなた次第なのじゃからな。
 じゃが、これにはもうひとつ曰くがあってな。
 この鏡は持ち主を選んでいるのじゃよ。
 誰だって良い訳じゃない。
 鏡に選ばれた物だけがこの鏡の持ち主になれるのじゃ」

「それじゃ、ますます私には縁がなさそうです。
 第一、そんな曰く付きの高価なものを買える身分じゃありませんしね。
 俺は王様でも伯爵でもないただのサラリーマンですから」

「そうか、それは残念じゃな。
 たったの一億五千万円なんじゃが」

「一億? あんたは俺をからかっているのかい?
 誰がこんな鏡に一億も払うっていうんですか?
 いくら<カモ>でもここまでバカにされちゃ買えるもんだって買いませんよ!」

「いや、バカにしてもおらんし、からかってもおらんのじゃがな」

「いいや、あなたは俺がお人好しの<カモ>だと思ってバカにしています!」

俺は堪忍袋の緒が切れたみたいについ声を荒げた。

「まぁ、まぁ。そんなに怒鳴らんでもまだ耳は達者でな。
 良く聞こえておる」

「・・・」

「まぁでも。いくら金を積まれても鏡に選ばれなかったら同じじゃ。
 一億五千万でも千円でもな」

「ほぉ、それはおもしろいことを。
 千円ならすぐに買いますよ。
 この鏡に選ばれなかったら処分する手間も省けるってことですよね?
 おもしろい。すぐに包んでください。
 はい、これ」

俺はそう言うと一万円札を一枚差し出した。

「あっ、お釣りはいりません。
 良いヒマ潰しをさせてもらいましたら」



結局、俺は気が付いたらその鏡を買っていた。

薄茶色の厚手の油紙のような包装紙に包まれた鏡を抱えて歩きながら
俺は早くも後悔をしていた。
なんせ重たいのだ。
いつも買う十キロの米袋・・・それに比べても大した違いはないように思えた。

「なんでこんなに重たいんだ?
 さっきはこんな感じじゃなかったのに」

俺は半ば汗をかきながら右手に左手に何度も持ち替えながら
やっとの思いでアパートに辿り着いた。


「ふぅ・・・」

部屋に入ると俺は部屋の隅に鏡を置いて額の汗をぬぐった。

「やれやれ。ところでこいつは何処に掛けようか」

居間を見渡しても掛けるに丁度良い場所は見つけられなかった。
第一、部屋の中は家具量販店で買ったシンプルな色や形の家具ばかりで
その中に掛けるには鏡はあまりに仰々し過ぎた。

「やっぱり寝室かな?
 でも、寝室に掛けるにはこいつはちょっと不気味だよな。
 毎晩、甲冑を着た昔の兵士にうなされたりしてな」

俺は自嘲気味に包装紙に包まれた鏡を見た。
もちろん、昔から霊感なんてなかったし、夢にうなされたこともなかったのだ。

「まぁ、或る意味そんなのが出て来るってことは
 こいつは<本物>ってことになるんだけど」

それだけは有り得ないだろうと
俺はあの骨董屋の店主を思い出しながら確信をしていた。



当然のように何事も起きないまま一週間が過ぎて
俺は寝室に掛けた鏡の存在すら忘れかけていた。
なんせ鏡なんて見るのも嫌だったのだから
寝る時も起きた後も鏡を見ることがなかったのだ。
ネクタイだって別に鏡がなくたって上手く締められたし
縮れたくせ毛の俺は適当に二~三度ブラシをかけたら
それで身だしなみはオーケーだった。

「何をどうしたってブサイクがイケメンになる訳じゃないさ」



ある夜、俺が寝ているとベッドの横で何かの気配を感じた。

「ん・・・なんだ?」

寝惚けたまま俺は体を起こすと辺りを見回した。
だが、別に何も変わったことはなかった。

「気のせいか・・・」

ベッド脇の時計をみるとまだ2時を少し過ぎたばかりだった。

俺は又、身体を寝かせるとタオルケットを顔の半分まで隠すようにして
それから半身を左の壁に向けて寝直そうとした。

だが、今度はなかなか寝付けない。
人間、何かが気になると余計に眠れなくなるもので
何度も俺は寝返りを打ってみたが逆に目が冴えるばかりだった。

「ふぅ・・・参ったな。明日も仕事だってのに」

俺は目を瞑ったまま深呼吸をした。
気持ちが落ち着けば眠れるようになる。
深呼吸をしながら俺は自分に暗示をかけようとしていた。

その時だった。

「やはり<誰か>いる!?」

俺は得体の知れない視線を感じたのだ。
間違いない。

俺は又、起き上がるとすぐに部屋の電気を点けた。
そして壁際を振り返った時だった。

俺は我が目を疑った。
鏡の中の見たこともない<誰か>が俺を見てニヤリと微笑んでいたのだ。




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