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夢の汽車に乗って ネコと仔猫と僕たちの日々 ~珈琲茶房<扉>の物語2~ 完結編

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yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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「それで・・・チーは? チーはどうなるの? 可哀想・・・」

最初に口を開いたのはやはりネコだった。
ネコはそう言うなりチーをギュッと抱き締めた。
それに応じるようにチーは<ミャア>と小さく鳴いた。
まるで<どうしたの?>とでも言うように。

「解らない・・・解らないんだ。
 でも、少なくとも今すぐどうこうなる訳ではないらしい」


そんなマスターの言葉も今の三人にとっては気休めにしかならなかった。
それは多分、マスターも解っていただろう。
四人の間に重苦しい空気が流れた。


「でも、チーはチーだよ」

重苦しい雰囲気を打ち壊すように僕は努めて明るく言ったつもりだった。
でも、誰もその言葉には反応しなかった。
ネコはチーを抱きかかえたまま俯いていた。
里美もどう答えたら良いのか解らないまま、ただ涙を拭いていた。
マスターは無言で宙を見ていた。

そこに里美が涙声で小さく呟いた。

「もしかして・・・猫エイズキャリアだったから・・・
 チーは・・・チーは捨てられたのかな?」

「里美・・・」

「ねぇ? そうなのかな?」

里美は僕を見た。
その眼は僕に否定をして欲しかったに違いない。
でも、僕には明確に否定が出来なかった。

「そうかも知れないけど・・・
 でもさ。検査の結果が解ってからチーが捨てられるまで
 一週間か十日くらい間があったんだよね?
 と、言う事は、前の飼い主もその期間は苦しんだと思うんだ」

「でも、だからって!」

「そう。だからって捨てて良いと言う事にはならない」

「むしろ、こう考えようよ」

マスターがみんなを見渡して言った。

「チーはネコちゃんに拾われて俺達の所に来る運命だったんだ。
 良いじゃないか。チーがキャリアだって何だって。
 チーは最後の最期まで俺達と楽しく暮らすんだ」

「マスター・・・ありがとう・・・」

ネコは涙ながらにマスターを見た。



それから二ヶ月ほどが経ったが、
チーは順調に成長し体重も三kgくらいにはなっていた。
だいぶ、大人っぽい身体付きになっていて
マスターに言わせると顔も<猫界のイケメン猫>なんだとか。
相変わらずの親バカぶりを発揮していた。

この頃になるとチーもだいぶ店に慣れて
今ではすっかり我が物顔で店内を歩き回っては
お客さんに<ミャア>と挨拶(?)をして回ったり
カウンターの隅を占領しては
ネコが持ってきたクッションの上でさも当然とでも言う体で丸くなって寝ていた。

アイドル猫効果か? 看板猫効果か? はたまた猫好きの口コミ効果か?
確かに、チーが店に出るようになってから客足は伸びていた。
しかし、中にはそれを快く思っていない常連客もいた。


「ねぇ、完ちゃん」

店に入ってくるなりそう言ったのはマスターのお母さんの友人でもあり町内会婦人部長で
<扉>開店以来、何かと会合がある度にこの店を利用してくれていた松田夫人だった。

「悪いんだけど、あの猫ちゃん何とかしてくれない?」

「えっ? チーですか? 何かご迷惑でも?」

「そうじゃないけど。でもね、食べ物屋さんに動物は良くないと思うわ。
 猫って毛も飛ぶでしょ? 集まりに来る人にも猫が苦手な人もいるのよ。
 もちろん、私は違うわよ。私は猫が好きなんだけどねぇ・・・」

「はぁ、でも。チーは不衛生にならないように毎日ブラッシングもしています。
 チーは嫌がるけどシャンプーだってちゃんとしています。
 それに、チーが来てから逆にけっこうお客さんも増えているんです」

「そうは言ってもねぇ」

松田夫人はしばし沈黙を保った後で意を決したように口を開いた。

「あのね。出来れば・・・こんな風には言いたくは無かったんだけど」

「はい」

「完ちゃん。昨日、猫ちゃんを連れて動物病院に行ったでしょ?」

「えっ? えぇ・・まぁ」

「何か病気なの?」

「い、いえ・・病気と言うか・・・そ、そう! 予防接種ですよ」

「本当かしら?」

「もちろんです!」


確かに昨日は店が休みだったのでマスターはチーを連れて病院に行っていた。
万が一に備えて二ヶ月に一度、検査に通っている。
検査の結果は来週だが、女医さんの話では変化は現れていないとの事で
僕達はみんなホッと胸を撫で下ろしていたのだった。


「田中さんがね。知ってるでしょ?」

「はい、良くご一緒されている方ですよね?」

「田中さんが動物病院に行った時あなたが診察室に入るところを見たそうなの。
 それで気になって診察室前のポスターを見るふりをして
 それとはなしに話声が聴こえないか聞き耳を立てていたらしいの。
 そしたらね。詳しい話までは解らなかったんだけど・・・」

松田夫人はフーッとひとつ深呼吸をしてから言った。

「時々、猫エイズがどうとか聴こえたらしいのよ。
 それで、ビックリして私のところに言いに来たの。
 ねぇ? どうなの? 本当なの? 本当ならマズイんじゃない?」

「いや、それは・・・」

「本当なのね?」

「いえ、違うんです。と、言うか・・・」


マスターは憶えている限りの”正確さ”で
以前、女医さんから聞いた猫エイズと猫エイズキャリアの違いの説明をした。


「ですから、チーは大丈夫なんです。
 昨日も診察をしてもらって、そう言われてきたところなんですから」

「そうは言ってもねぇ。でも、こういう噂って広がるのが早いわよ。
 良い噂なら良いんだけど、こういうのって尾ひれが付くから」

「すみません。松田さんにご迷惑をかけるつもりは無いんです。
 でも、だからって俺はチーを見捨てるなんて出来ませんし
 何とか、ご理解頂けないでしょうか?
 もちろん、万が一・・・チーが発症とかなったら
 その時はきちんとケジメは付けるつもりですから」

「そうね、解った。完ちゃんの言う事だものね。嘘は無いって信じるわ。
 じゃ、田中さんには私からそれとなく大丈夫だって言っておくわ。
 あっ、そうそう!
 お母さんに今度お茶飲みに来てって伝えておいて」

そう言うと松田夫人は笑って手を振った。

「すみません。ありがとうございます」

マスターは松田夫人の背中を見送りながら深々と頭を下げた。



こんな話が有った事はずっと後になってマスターから聞いたのだった。

その松田夫人も今ではすっかりチーにぞっこんの様子で
何かにつけて
チーにお土産とばかりにペット用の煮干しだとかおやつを差し入れてくれていた。

「ほら、今日もね」

そう言いながらマスターはパックに入ったソフトタイプの餌を見せてくれた。

「松田さん家は動物なんか飼っていないのにね」

そう言ってマスターは笑った。

「松田さんって本当は動物が好きなんだね」

「あぁ、以前は犬を飼ってたらしいんだけどね
 その犬が亡くなった時、娘さんが大泣きをしたらしいんだ。
 で、ショックで何日か学校を休んだんだって。
 それで可哀想になってもう動物を飼うのを止めたらしいよ」

「あー、それ解るなぁー。
 僕もね、犬とか猫とかインコとかさ。
 親も動物好きだったから次から次と飼ってたんだよね。
 それも高価な血統書付きとかじゃなくて他所からもらって来た雑種ばかりだったけどね。
 一人っ子だったからさ。
 親にしたら僕が寂しいだろうからって兄弟の代わりにって思ったんだろうな」

「良い話だね」

「でも、やっぱり飼ってた動物が死んだ時は泣いたよ。
 そしたら又、何処かから次の動物をもらって来てくれてさ」

「そっか」

「子供の時ってさ。身近に動物がいると命の勉強になるよね。
 もちろん、楽しい事ばかりじゃないけど。
 死んだら、そりゃもう悲しくてさ。
 でも、だから・・なのかな?
 その分、動物って愛おしいよね。
 で、大人になると今度は癒しになったりしてさ。
 ・・・動物って良いよね」

「なんだい? 急にしみじみと」

「あはは、何となくね」

「そういや知ってる? <犬星と猫星>の話」

「犬星と猫星?」

「あぁ。何でもね。人間はその昔、犬星と猫星から地球に来たんだって」



 遥か太古の昔。
 人間の祖先はふたつの星から地球にやって来ました。

 ひとつの星は犬星と言いました。
 そして、もうひとつの星は猫星です。


 一緒に連れて来られた動物は
 それぞれ故郷の星の名前を付けられて
 それからずっと人間と共に生きてきました。

 犬は人間の忠実な友として
 そして家族として人間に笑顔と勇気を与え続けてきました。

 それは人間にとっては希望でした。


 猫は人間に知恵を授け闇夜から人間を守り
 いつも少し離れたところから隣人として人間を見守ってきました。

 それは人間にとっては安心であり心の支えと言えました。


 狼が満月に向かって吠えるのも
 月の遥か向こうに在る故郷を懐かしんでいるのです。

 猫が時々、宙をじっと見ているのも
 時々、目覚める太古の記憶がそうさせているのです。

 その姿を見て
 宇宙や霊と交信をしていると言う人もいますが
 実はそれは半分当たっているのです。


 人間は概ね犬好きと猫好きに大別されます。

 猫が嫌いだから犬が好きなのではなく犬が好きなのです。
 犬が嫌いだから猫が好きなのではなく猫が好きなのです。

 時として、そうでは無い人やどちらも好きな人
 どちらも嫌いな人がいますが
 それは、生まれた後の経験やトラウマ
 或いは、いつかの時代の中に起きた原因によってそうなったのであって
 本来、人間は犬や猫が好きなのです。

 それは理屈ではありません。

 しいて言うなら人間のDNAに刻み込まれている太古の記憶が
 意識をする、しないに関わらず親しみや愛情となって表れているからなのです。

 それこそがつまりは人間の故郷が猫星と犬星だった由縁なのです。


 そして幾つもの時代の中で知識や記憶を次の世代へと伝えて来ました。
 人間も、そして、犬や猫も親から子へ、そしてまた子へと・・・



「ふぅーん、なるほどね。あながち信じられない話じゃないね」

「だろ?」

「あらっ、何の話?」

そう言いながら里美とネコが店に入って来るとカウンターの隣に座った。

「あぁ、ちょっと高尚な話をね」

マスターはそう言うと僕にウインクをしてみせた。

「あー、きっと良からぬ相談だわ」

「そ、そんなんじゃないよ」

「えー? 怪しい!」


そこに<ミャア>と助け船の如くひと鳴きをして厨房の奥から出て来ると
チーはカウンターの上にヒョイと飛び乗ったかと思うと
すぐにネコの膝の上に降りて、ここが定位置とばかりに早速丸くなった。

それを見ていたマスターが笑いながら言った。

「ネコちゃん、これじゃ当分彼氏は無理だね」

「あらっ、チーが彼氏ですから」

「あれっ? お母さんじゃないの?」

「良いの、どっちでも。可愛いんだもーん♪」

「まぁ、確かにね」


確かに、チーが来てから僕達は良くここに集まるようになり
前よりもみんなの話題が増えたような気がする。

もちろん、その中心にはいつもチーがいた。

チーが小さな身体で抱えている大きな病気の問題は
これからどうなるかは解らない。

でも、そんな事は今考えても仕方のない事なんだ。

『ずっと一緒だよな?』

僕はネコの膝の上で丸くなっているチーを眺めながら心の中で呟いた。

「あら、何?」

里美が僕を見て言った。

「いや、別に。可愛いなと思ってさ」

「いやだ、私?」

しょってる里美が満面の笑みを浮かべて僕の肩を軽く小突いた。

その時、チーが目を開けたかと思うと少し頭をもたげて
<ミャア>とひと声鳴いて又、すぐに元の態勢に戻って寝直した。

「ほら、チーもそうだって♪」

里美は何処までもポジティブなようだ。
僕には<うるさいにゃあ>って聞こえたんだけどね。
ただその真相は今度、猫語を勉強してから改めてチーに訊いてみる事にしよう。

「あはは、まぁ・・・」

僕は苦笑いの体で飲みかけの珈琲を飲み干した。

「何よ? 文句、ありそう」

口を尖らせて里美が僕を問い詰めた。

「あはは、そんな事はないよ」

「どうだか。ねぇ、マスター?」

「さぁね、痴話ケンカは猫も喰わないってさ」

洗った食器を拭きながらマスターがニヤッと笑った。

「えー? そうなの、チー?」

里美が真面目な顔でチーに訊いた。
聴こえているのかいないのか
チーは我存じぬと言う様子でネコの膝の上で丸くなったままだった。

「こう言うとこって、やっぱり猫なのよねー」

チーを見ながら里美が笑った。

「だって猫だもーん」

笑いながらネコが応えた。

「そう言う事」

磨いたグラスを蛍光灯に翳しながらマスターが澄まして言った。

「でも、良いよね。こう言うの」

僕は昔、家で猫を飼っていた頃を思い出していた。
寒い冬、赤々と燃えるストーブの一番前の特等席ではいつも猫が丸くなって寝ていた。
寝ているだけなのに、それを見ては家族の話が弾んだ。
時々猫がゴロンとひっくり返ると、みんなで大笑いをしていた。
猫<動物>のいる暮らし。家族と過ごす毎日。
そこにはいつも笑顔があるんだ。
そして今、ここにはチーがいて、チーを囲んで僕達の話にはいつも笑いが絶えない。
そう、まるで仲の良い家族のようにさ。



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この物語の全編は
夢乃咲道のホームページ
『夢の樹舎』
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『ネコと仔猫と僕達の日々 ~珈琲茶房<扉>の物語2~』




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