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夢の汽車に乗って ネコと仔猫と僕達の日々 その1(全3章) ~珈琲茶房<扉>の物語2~

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yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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珈琲茶房<扉>の扉が勢いよく開いたと思ったら
入って来たのはネコだった。

ネコは真っ直ぐカウンターまで駆け寄ると
驚いた顔のマスターを見上げながら言った。

「マスター、ミルクある?」

「そりゃ、まぁ・・・ここは一応喫茶店だからね。
 ミルクくらいはあるけど・・・」

「じゃ、マスター。それ、人肌に温めてくれる?
 で、小さなので良いから
 ボウルか何かに入れてひとつ、大至急ね!
 あっ、絶対沸騰させないでよ! 火傷しちゃうから」

「えっ?」

ハトが豆鉄砲をくらうと言う言葉があるけど
今のマスターは
まさにそんな感じで呆気にとられたままネコを見た。

「あっ、安心して。お金はちゃんと払うから。
 もちろん、ボウルの分もね」

「い、いや、そういう事ではなくてさ。
 ネコちゃん、いったいどうしたの?」

「いいから、マスター! 早くお願い!」

「あっ、あぁ・・・」

ネコにそう責っ付かされて
マスターは訳が解らないまま厨房へと引っ込んだ。

呆気に取られて顔を見合わせていたのは僕と里美も同じだった。

ネコはじれったそうに
カウンターテーブルに手を付いて指先でトントン叩きながら
奥の厨房をジッと見ていた。

「ねぇ? ネコちゃん、どうしたの?」

僕が訊いたけどネコの耳には入っていないようだ。
又、僕と里美は顔を見合わせた。

そこにマスターが
小さなボウルに入れたミルクを持って厨房から出てきた。

「ありがとう、マスター」

そう言うや否や、
ネコはミルクの入ったボウルを受け取ると
大急ぎで店の扉を開けて出て行った。

「行こう!」

僕が言うまでもなく
里美はネコの後を追うように席を立っていた。

僕も慌てて席を立った。
マスターも何事かとカウンターの扉を開けて僕達に続いた。



大概の人は既にお気付きだと思うが。

”ネコ”はもちろん猫ではなく人間のしかも若い女性で、
もっと言うなら、里美の短大時代からの親友である。

根岸智恵子・・・ネギシの「ネ」とチエコの「コ」
そこから「ネコ」と言うニックネームが付いたとの事だったが、
それより何より、本人が大の猫好きなのはもちろん
実家ではかつては猫屋敷と言われるくらい十二匹の猫を飼っていた。

そんな事も由縁のひとつだったと思う。



珈琲茶房<扉>の駐車場は店の前と裏にあった。
裏の駐車場は
平日の昼間は仕事をサボる・・・
あっ、いや、
仕事の合間の息抜きをする営業マン達の格好の車の隠し場所になっていた。

そしてそこは夜になると僕達常連の車置き場となっている。


果たして、そこにネコの車が停まっていた。

後ろのドアを開けて
後部座席に半身を乗り入れた格好でネコは何かをしていた。

「ネコ?」

里美がネコに声をかけた。

「えっ? あぁ」

やっと僕達に気が付いたネコは
『静かに』と言うように唇に人差し指を立てると
目で後部座席を見るように僕達を促した。


ネコの車の後部座席には少し汚れた段ボールが置いてあった。

「ん? 何?」

その段ボールを覗き込んだ里美は思わず声を上げた。

「キャー、可愛い♪ 何? どうしたの?」

「えっ? 何?」

運転席のドアを開けると僕は前から後部座席を覗き込んだ。

「あー、仔猫!?」

「マジ?」

マスターも大急ぎで反対側に回ると
助手席のドアを開けて後ろを覗き込んでいた。


段ボールの中には可愛いピンクの花柄の毛布が敷かれていて
そこには仔猫が一匹、
美味しそうに音を立ててボウルに入ったミルクを飲んでいた。

仔猫は身体が黒くて手足の先だけが白い
以前のアメリカ大統領の愛猫も確かそんな名前だったと思うが
いわゆる<ソックス>と呼ばれている毛並みだった。

猫の見立ては解らないが
素人目に見て生後三~四か月くらいだろうか?
小さ過ぎず、かと言って成猫でも無い。
明らかに仔猫の域には間違いないとは思う。
捨て猫の割には痩せてもいず、毛並みはキレイだ。
きっと、つい数時間前までは誰かに飼われていたのだろう。

それが証拠に
首の処に薄らだが首輪をしていたような跡が見てとれた。



「よし、今日はもう閉店にしよう」

店の中に戻るなりマスターが言った。

「えっ? マスター、まだ七時半だよ」

「緊急事態だからね」

マスターそう言うと
楽しそうに店の中に行燈を仕舞い
入口の扉にカーテンを引くと内側から鍵を掛けた。


ミルクに満足をしたのか
段ボールの中で身繕いをしている仔猫を囲んで見ていた僕達。
そこに戻って来たマスターが
学校の先生よろしく、手をパンとひとつ叩くと
おもむろにネコに向かって尋ねた。

「さぁ、ネコちゃん。説明を」



ネコの説明はこうだった。

仕事帰りにこの店に向かって
いつもの道を走っていると道路の脇に段ボールが見えた。
いつもなら、そのまま通り過ぎるのだろうけど
その時は何か気に掛かって
車を停めたネコは車をバックさせて又、その場所に引き返した。

そして、恐る恐る段ボールの中を覗き込むと
そこには一匹の仔猫がいて
お腹が空いていたのか、心細かったのか
震えながら<ミャーミャー>訴えるように鳴いていた。

そこでネコは
車に積んでいた自分用の毛布を段ボールの中に敷いてあげて
それから後部座席の段ボールが転がらないように気を付けながらも
店に向かって一目散に車を走らせた。



「ネコちゃんらしい話だね」

そう言いながらマスターは
いつの間に入れていたのか
トレーにコーヒーカップを四個載せてカウンターから出てきた。

コーヒーをそれぞれに手渡してから
マスターも自分の分のコーヒーを一口飲むとカウンターのイスに腰をかけた。

「さて、それでどうする?」

マスターが僕達に問いかけた。
僕と里美はマスターとネコを交互に見た。

「マスター、お願い!」

そう言うとネコは顔の前で手を合わせて
そして深々と頭を下げた。

「私、飼ってあげたいけどマンションじゃ飼えないし。
 実家は遠いし、何よりお父さんとお母さんももう歳だから
 今までみたいに猫の面倒は見られないの」

訴えるようにマスターを見ながら
もう一度ネコは深々と頭を下げた。

「いや、ネコちゃん・・・それは困るよ。
 ここだって一応、食べ物を扱う店だからさ。
 動物は困る・・・いや、そりゃ猫は嫌いじゃないけどさ。
 でも・・・困るよ」

「じゃ、自宅は?」

ネコが食い下がった。

「自宅はもっとダメだ。息子が喘息持ちでさ。
 動物って毛が飛ぶだろ?」

「じゃ、やっぱりお店で」

「いや、ダメだよ、それは・・・」

ネコが訴えるように僕達を見た。
それに呼応するように僕と里美もマスターに向かって頭を下げた。

「マスター、お願い!」

里美が言った。

「里美ちゃんまで・・・もう、ダメだよ」

「マスター!」

僕もマスターに向かって更に深々と頭を下げた。

「おいおい、止めてくれよ」

「猫のご飯は全部私が買って持って来ます。
 トイレ掃除も私が毎日来てやります。
 マスターに迷惑はかけません!
 だから、だから・・・お願い」

ネコは涙ながらに訴えた。

「いや、そう言う問題じゃなくてさ。
 もう・・・参ったなぁ・・・」

「じゃ、私・・お金を貯めて猫が飼えるマンションに引っ越します!
 だから、それまでの間だけもお願い」

困った顔のマスター。

僕と里美は顔見合わせるとニヤッと笑った。
マスターが籠絡するのは最早時間の問題と思えたからだ。

「でも、保健所からクレームが来るとマズイんだよなぁ~」

僕が一押しした。

「でも、ほらっ。ドラえもんの中でもあったよね?
 閑古鳥の鳴いているラーメン屋さんだったか。
 ひょんな事から仔猫が居ついてさ。
 最初は嫌がっていたんだけど、
 最後は招き猫みたいになってお店が大繁盛したみたいな」

「でも、あれはマンガだろ?」

「いっそ、ネコカフェに模様替えしちゃう?」

里美は助け舟のつもりで言ったようだったが
それはどう見ても逆効果だった。

「里美ちゃん、他人事だと思って」

いつもはニコやかなマスターの顔が明らかに不機嫌になった。

「えへっ、ごめんなさい」

「ともかく、何とかしなきゃ。
 又、この仔を捨ててくる訳にはいかないんだからさ」

僕が呟いた。

「それは絶対ダメ!」

ネコが叫んだ。

「そりゃ・・まぁね・・・」

マスターが又、渋い顔をした。


そこにマスターの奥さんが裏口から入って来た。

「あらっ、今日はもう閉店? どうしたの?」

「あっ、こんばんは」

「何? どうしたの? みんな揃って何の相談?」

僕達が囲んでいた段ボールに気が付いた奥さんは
中を覗き込むと大はしゃぎで叫んだ。

「きゃー、可愛い♪ ねぇ、この仔、どうしたの?」


かくしてネコに拾われた仔猫は
マスターの奥さんの狂喜の一言によって
めでたく珈琲茶房<扉>の住人になる事と相成った。



「参ったなぁー 何処で飼えば良いんだ?」

マスターが頭を掻きながらキョロキョロと辺りを見渡していた。

「あらっ、あなたの”部屋”があるでしょ?」

奥さんがキッパリと言った。

「えっ? んー やっぱりかぁー」


厨房の奥にマスターが帳簿を付けたり
発注をする為のパソコンやファックスが置いてある三畳ほどの部屋があった。

机がひとつと事務用のイスがひとつ。
時々、マスターが転寝をしている二人掛けのソファがひとつ。
後は歩くスペースが僅かにあるだけの部屋だった。


マスターはその部屋を見渡しながら
顎に指を当てて想い悩んでいた。

「寝床は何処にしたら良いと思う?
 トイレも置かなきゃマズいよなぁー
 トイレはやっぱり、こっちの隅かな?
 でも、狭くなるよな・・・」

「このソファをもっと端に寄せたら良いんじゃない?」

奥さんがもっともな提案をした。

「えー? ちょっと待てよ。
 そしたら寝っ転がっても足が伸ばせないよ」

「だから?」

奥さんにそう言われたら
さすがのマスターも言葉を返せない。

「そうそう!
 確か、隆弘が赤ちゃんの時に使っていた
 ベビーバスケットがあったはずだわ。
 猫ちゃんの寝床に丁度良いわね。
 ちょっと探してくるわね」

奥さんがそう言い残して家に戻った後で
マスターはソファに座って深い溜め息をひとつついた。

僕達は事の成り行きを部屋の入口の外から固唾を飲んで見ていた。

「奥さん、ナイス♪」

里美が言うと僕達三人は顔を見合わせてガッツポーズをした。

その様子に気が付いたのかマスターが恨めし気に言った。

「お前らねぇー 他人事だと思ってないか?
 ここは俺の唯一の城だったんだぞ」

「いや、そ、そんな事は・・・無いよ。ねぇ?」

僕は里美とネコに同意を促した。

「う、うん。そうよ」

「あっ、そうだ! トイレだよね?
 じゃ、僕が買って来るよ」

こんな時は逃げるが勝ちだ。



時間は夜の八時少し前。
ホームセンターは危うく閉店になる時間だった。
僕は急いでペット用品売り場に行くと
猫のトイレとトイレの砂。
それから仔猫用の餌を何種類か見繕ってから
餌入れと水入れを買い物カゴに入れて
それから
家具売り場も覗いてみて下に敷く小さめのカーペットを買った。

『そう言えば、猫ジャラシっもいるかな?』

又、ペット用品売り場に戻った僕は
いくつもの棚に並ぶペットのおもちゃとかケア用品を眺めながら
自分で飼う訳でもないのにアレコレと想像を巡らせていた。

そこに『蛍の光』が流れてきた。

『あっ、ヤバい。閉店だ! 猫ジャラシは今度で良いや』

僕は急いでレジへと商品を持って行った。


『仔猫一匹で結構お金って掛かるもんだな。
 でも、マスターにばかり迷惑は掛けられないしな』

僕は店へと車を走らせた。



店に戻ると何故かソファの上にベビーバスケットが置かれていて
その中で仔猫が落ち着いたのか丸くなってスヤスヤと寝ていた。


「ただいまー」

「・・・おかえり」

マスターが不機嫌そうにこっちを見た。

「何? どうしたの?」

「どうしたもこうしたも無いよ。
 俺のソファを見てくれよ」

「あらっ、だから言ったでしょ? 当分よ、当分。
 トイレも置いてみないと、どのくらい場所を取るのか解らないし」

奥さんが澄まし顔で言った。

「あぁ、トイレね。買って来たよ。
 こんなんでどうかな?」

僕は特大のレジ袋から猫用のトイレを出してみんなに見せた。

「それ、大き過ぎないか?」

マスターが早々にクレームをつける。
どうやら、トイレの置き場所と空スペースには敏感になっているようだ。

「あぁ、良いんじゃない?」

「うん。色も可愛いね」

「でしょ?」

僕は抱えていた丸まったカーペットを広げると
部屋の隅に置いてから、その上にトイレを置いた。

「それ、場所取り過ぎじゃないか?」

「もっと寄せる?」

マスターに遠慮気味に訊いてみた。

「それで良いんじゃない?
 それくらいスペースがあったらベビーバスケットも脇に置けるんじゃない?」

「そうね。良い感じかも」

女性陣が話を進める。

「いや、でも・・・」

マスターの言葉を遮って奥さんが言った。

「じゃ、このままベビーバスケットはソファの上で良い?」

「いや、それは・・・困る・・・」

「じゃ、決まりね?」

奥さんの連戦連勝だった。


「ところでさ」

僕はみんなを見ると言った。

「名前は何にする?
 ネコちゃん、何が良い?」

「でも、マスターに飼ってもらうんだし。
 マスターに決めてもらって良いよ」

「いや、ネコちゃんが決めなよ。
 一応、当面はここで飼うけど、あくまでも飼い主はネコちゃんだからね」
 
マスターはそう言ってネコを見て微笑んだ。

「でも・・・」

「それに、いつか引っ越したら引き取ってくれるんだろ?
 言ったよね?」

マスターが言う言葉を聴き流すかのように里美が言葉を繋いだ。

「マスターがそう言ってくれるんだからさ」

「おいおい・・」

最早、苦笑をするしかないマスター。
さっきから女性陣にやり込められているマスターに
同じ男として僕はちょっとだけ同情をした。


「じゃ、みんなで考えて。
 ねぇ、なんかアイデア無い?」

と、ネコ。

「んー」

しばし、みんなの沈黙が続いた。
その間も仔猫は気持ち良さそうに眠っていた。
さすが”寝子”だと僕は思った。


そこにマスターが口を開いた。

「毛並み的には『トムとジェリー』のトムだよな?」

「ダメよ。そんなの。なんかマヌケちゃんになりそう」

奥さんがピシャリを釘を刺した。

「そもそも、この仔って男の子? 女の子?」

僕は誰となく訊いた。

「男だ」

間髪を入れずにマスターが答えた。

「えっ? マスター、いつの間に?」

「いやだぁー」

奥さんを除いた女性陣が頬を赤らめて笑った。

「じゃ、男の子っぽい名前ね?
 んー 何が良いんだろう?」

「毛並みから言って・・・『ソックス』も有りがちよねー」

「んー、だね」

そこで僕は思いつきを言ってみた。

「例えばさ。こんなのは?
 店の名前が<扉>なんだから『ドアー』とか
 フランス語だったら『ポルト』だったっけなぁー」

「ダメ。センス無し!」

「却下!」

「ムリ!」

みんなにべも無い。

「じゃ、何にする?」

「んー」

「そうねー」

「あっ、そうだ! ホームズとか?」

得意気に僕はみんなを見渡した。

「三毛猫? 違うし」

里美が冷たくあしらう。

「じゃ、どうするんだよ?」

僕はふて腐れて言った。

「どうせ、ダヤンも無しだよね?」

「当然よ。だいいち、トラネコじゃないし」

「だよねぇー」

そこをマスターが取り成した。

「よし、一度キャラクターから離れよう」

「んー そうね」

「何にしよう?」

「どうだろう? 例えばね」

マスターがひとつ提案を出した。

「例えばさ。
 子供の名前を付ける時って、
 良く親の名前から一字取ったりするでしょ?
 ネコちゃんが連れて来たんだからさ。
 ネコちゃんの本名って・・・ち、ち? 智恵子・・・だったよね?」

「んもう、マスター!
 まだ私の名前を覚えていないんですか?
 何年も通っているのに、ひどーい!」

「あれっ? 違ったっけ?」

「違ってませんけどぉー。でも、なんか自信無さそうだった」

「ごめん、ごめん。いっつもネコちゃんなもんだからさ」

確かに、僕も今までネコの本名は知らなかった。
もちろん、そんな事は今ここで口には出せないけど。


「それで?」

僕はマスターに訊いた。

「うん。ならさ。
 『ちえこ』の『ち』で『チー』なんて言うのは?」

「『チー』ね?」

「ありがちじゃない?」

奥さんがボソッと言った。

「でも、良いかも。可愛いし」

「そうね。私も良いと思うわ。呼びやすいもの」

「そうね。呼びやすいのが一番だわね」

奥さんも頷いた。

「良し、決まりー!」

珍しくマスターの意見が採用されてマスターはご満悦だったが
少しくらいはマスターの意見も聞いてやらなきゃね。
なんせ、チーの部屋の大家さんなんだから。
 


こうしてマスターとチーの同居生活は始まった。





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