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夢の汽車に乗って サンタクロース見習いの恋 (その3)

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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十五年後。


「あっ、もしもし。明日花先生? 倉久です。
 これからちょっと良いです?
 前に話してた新しい編集者を連れて来てるので後程、お邪魔します。
 あっ、はい。そうですね~ 三十分後くらいに。はい、お願いします」


倉久と後輩の編集者は最寄りの駅で電車を降りると駅前のケーキ屋に入った。

「あの、コレとコレ。
 あっ、それからコレも。
 先生はここのケーキが好物なんだ。
 覚えておけよ」

ショートケーキのたくさん並んだショーケースを指差して選びながら倉久は後輩に言った。

「あっ、はい!」

「良し、じゃあ行くか」


ケーキ屋はもちろんだったが、クリスマスはまだ一か月後だと言うのに
街はすっかりクリスマスムードで華やかに飾り付けられていた。

「なんで、こんな煌びやかな中を男二人で歩かなきゃならないんだ?」

倉久がすれ違うカップルを横目で見ながら文句を言った。

「で、お前。彼女はいるのか?
 編集者にクリスマスは無いからな。
 覚悟しておけよ」

「良いですよ~
 どうせ、独り身なんだから仕事をしている方がマシです。
 そう言う先輩はどうなんですか?」

「さっ、ここだ。着いたぞ。
 ここのマンションの七階なんだ」

倉久は質問をはぐらかすように言った。

「やっぱりねぇ~」

後輩はニヤニヤしながら呟いた。

「なんだ? 何か言ったか?」

「いえ、別に」

「お前、後でしばくぞ!」

倉久は苦笑いでそう言った。



「明日花先生、原稿の進み具合はどうですか?」

明日花の仕事部屋に入るとマフラーを外しながら倉久が尋ねた。

「ん~ もう少しかな。
 ちょっと今、スランプ」

明日花はそう言うと頭を掻いた。

「先生、頼みますよぉ~
 締め切りは来週なんですから。
 そうそう!
 先月号の話、とっても評判良かったですよ。
 なんて言うんだろう?
 読んでると温かくなるんですよね」

「どんな風に?」

意地悪く明日花が訊き返した。

「どんな風・・・そうそう!
 ホンワカって言うんですか?
 童心に戻れると言うか、その・・・
 そう、母に読み聞かせをしてもらっているような・・・」

「はいはい、訊かない方が良かったかなぁ~」

「いや、本当ですって!
 うちの連中もみんな言ってます。
 先生も知ってるでしょ? うちの編集部の山田。
 あいつなんか先生の絵本が出る度に本屋で買って息子に読ませてるんですよ」

「で、あなたは?」

「えっ? ぼ、俺はその・・・まだ独身なんで・・・
 でも、子供が出来たら絶対に読ませますよ!」

「うふふ。じゃ、それまでは頑張って書かなきゃ。
 何十年後になるか解らないけど?」

「先生、ひどいなぁ~
 俺だって、その気になれば相手の一人や二人くらい・・・」

「いるの?」

「えぇ、ま、まぁ・・・」


「先輩」

いつまで経っても倉久が紹介をしないものだから後輩はシビレを切らして催促をした。

「おっ、すまんすまん。
 先生、こいつが今度からお世話になります。三田です。
 先月に総務部から文芸部に異動になって来たんですが
 こいつ、編集者としてはまだまだ新米なんで
 先生、ここはひとつビシビシしごいてやって下さい」

「あら、私は鬼じゃないわよ」

明日花はクスクス笑いながら言った。

「三田陽佳<みたはるか>です。よろしくお願いします」

「明日花です。こちらこそ、よろしくお願いしますね」

三田は挨拶をすると名刺を差し出した。
その名刺を受取ると明日花は三田の顔と名刺を何度も見比べていた。

「陽佳・・・これで<はるか>って読むんだ?」

「えぇ、変わってるでしょ?
 名前を聴いた時は『やった~女だ!』って喜んだんですけどね。
 でも、来たらこいつでした」

倉久は三田を見ながら肘でこづいてみせた。

「先輩が勝手に間違えたんでしょ? ひどいなぁ~」

「でも<はるか>なんて聴いたら誰だってそう思いますよね?」

倉久は明日花に同意を求めた。
だが、それには答えずに明日花はまじまじと三田を見つめると尋ねた。

「ねぇ? 何処かで会った事があるかしら?」

「いえ。でも、僕はずっと先生のファンでした」

「何処にでもある顔ですよ」

倉久がちゃちゃを入れた。

「顔は放っておいてくださいよ。
 仕方ないじゃないですか、生まれた時からこの顔なんだから。
 でも、先生のファンだと言うのは本当です!
 先生の絵本『空がいっぱい』大好きでした。
 えーっと・・

 ”空には雲がいっぱい
  空には風がいっぱい
  空にはお日様の光がいっぱい

  空には鳥が飛んでいる
  空には葉っぱも飛んでいく

  でも
  みんな仲良しだ

  どれだけいっぱい詰めたいものがあっても
  空はもっともっと大きい

  だから
  もっともっと夢を飛ばそう

  たくさんたくさん空に夢を詰め込もう”

 この話、ずっと好きでした。
 でも、先生って<空>の話が多いですよね?
 何か思い入れがあるんだろうなぁ~って思ってました。
 それは何か解らないけど・・・
 上手く言えないんですけどね、先生の書く話って夢を感じるんです。
 それも、とても温かな夢って気がします」

三田の話を聴いていた明日花は胸が熱くなるのを感じていた。

「ありがとう。
 そこまで言ってくれた人は初めて。
 嬉しい・・・ありがとう」

「いえ、そんな」

微笑む明日花と照れる三田。

「なんだぁ、この疎外感は?
 えっ? 俺だけ、話に入れない?」

倉久は二人の顔を見比べながらぼやいた。

「あら、そんな事ないですよ。
 遠慮なく話に入ってきたら?
 遠慮なんて倉久さんらしくないわよ。ねぇ?」

明日花はそう笑いながら三田を見た。


「あっ、そうだ!
 ところで、三田。
 お前の夢は何だっけ?」

倉久が反撃とばかりにニヤニヤ笑いながら三田に訊いた。

「えっ? 先輩。
 もう、その話は止めて下さいよぉ~」

「あら、何?」

愉快そうに明日花が訊いた。

「いやね。こいつ、異動前の編集長面接の時に『君の夢は?』って訊かれて。
 で、何て答えたと思います?
 『サンタクロースです』って真面目な顔をして答えたんですよ。
 普通は『ふざけた奴だ!』ってなるでしょ?
 そこがうちのおかしなところで逆に編集長の『おもしろい奴だ』で異動決定ですよ。
 笑っちゃいますよね? うちの編集部、大丈夫かなぁ~?」

「もう、勘弁して下さいよ。
 念願の文芸部と言う事で、ましていきなり編集長と一対一で面接ですからね。
 あの時は舞い上がっちゃって頭が真っ白になってたから
 何を訊かれたんだか、何を答えたんだか全然覚えていないんですから」

三田は泣きそうな顔で倉久に訴えた。
明日花はクスっと笑いながら助け船を出した。

「でも、出版社って夢を売る仕事ですものね。
 まして文芸部なら、サンタさんってあながち的外れじゃないと思うわ。
 少なくとも
 『僕の夢はスーパーマンです』って言って編集者になった伝説の人よりはね?」

明日花は悪戯っぽく笑って言った。

「えっ? そ、そ、それは・・・」

意表を突かれて倉久の顔色が見るからに真っ赤になった。

「えっ? 何ですか? スーパーマンって?」

三田は思わず話に食いついた。
明日花は笑いながら説明を続けた。

「その誰かさんね。
 倉敷の<倉>に久しいの<久>そして、健康の<健>に人間の<人>で
 倉久健人<クラヒサタケト>って言うんだけど、読み替えたら<クラークケント>
 つまり、スーパーマンに変身する元の人よね?」
 
「そ、そんな昔の話ですよ。嫌だなぁ~」

「へぇ? 先輩ってスーパーマンだったんですか?
 でも、アレって確か、新聞記者でしたよね?」

「編集者なんだから似たようなもんだろ?」

倉久は開き直ったように憮然として答えた。

「つまり、どっちもどっちですよね?
 やりぃ、先輩の弱みを聴いちゃった。
 これでサンタの話は無しですよ。 せ・ん・ぱ・い!」

「わ、解ったよ。だから、お前ももう忘れろよ」

「はいはい、解りました・・・あれっ?
 先生? どうしたんですか?」


明日花には二人の話も途中からは聞こえていなかった。
考え込んでいたのだ。
何かが明日花の心の中で引っ掛かっていた。

『読み替えたら・・・?
 <クラヒサタケト>・・・読み替えたら<クラークケント>
 ・・・読み替えたら?』

明日花はハッとして三田の名刺を見返した。

三田陽佳<みたはるか>

読み替えたら?

<みたはるか>・・・<みた>・・<みた>?
いや・・・<さん>・・・<さんたは・・>!?

思わず明日花は三田の顔を見た。

その瞬間、明日花は十五年前のクリスマスの夜の出来事をハッキリと思い出した。

「まさか! ううん、偶然よね・・・?」

「えっ? 先生、どうしたんですか? 何か?」

倉久は怪訝そうに尋ねた。

「あっ、ごめんなさい。なんでも無いわ」

「そうですか? それなら良いんだけど・・・」

「えぇ、大丈夫よ、ごめんなさいね。
 ちょっとボーっとしちゃった」

そう言うと明日花は舌をペロッと出して自分の頭を自分でこづいた。


「あっ、先生。疲れてるところ長々とお邪魔してすいませんでした。
 とりあえずは顔合わせも済んだし、今日はここで失礼します」

明日花はちょっと考えてから倉久に向かって言った。

「ねぇ、今書いている話、書き換えても良いかしら?
 前の打ち合わせと違っちゃうけど」

「えっ? えぇ、まぁ・・・構いませんけど・・・
 でも、時間は大丈夫なんですか?
 締め切りに間に合わないと困りますよ」

「えぇ、多分」

「そんなぁ~ 多分じゃ困りますよぉ~
 こいつの初仕事になるんですから頼みます! この通り!」

倉久は両手を前で合わせると大きく頭を下げた。
普段は憎まれ口も多いが、こう見えてなかなか後輩の面倒見の良い男なのだ。

「そっか、今度からは三田さんが担当だったわね?
 よし! それじゃ頑張って書くわ! 任せておいてネ」

「はい、よろしくお願いします!」

三田も大きく頭を下げた。



それから一週間後。
原稿が上がったと連絡を受けた三田は明日花の元を訪れた。
もちろん、駅前のケーキ屋で明日花の好物のケーキを買って。


「はいこれ。お待たせしました」

そう言うと明日花が三田に原稿の入った封筒を手渡した。

「あの、読ませていただいても?」

「えぇ、どうぞ。あっ、今お茶を入れるわね。
 コーヒーと紅茶はどっちが良い?」

「あっ、いや。構わないで下さい」

「じゃ、コーヒーね。
 私も丁度飲みたかったの。
 そこに座って読んでてくれる?」

仕事場のソファを指差してそう言うと明日花は台所に入った。


明日花の心は内心ドキドキしていた。
三田があの時の<ルカ>ならアレを読めば必ず何か反応をしてくれるはず。
そう思っていた。


明日花がコーヒーカップを二つ持って仕事場に戻ると
三田は真剣な表情で原稿を読んでいた。
明日花が戻って来たのにも気が付いていないようだった。
明日花は脇から三田の前のテーブルにそっとコーヒーカップを置くと
自分はコーヒーを一口啜りながら三田の向かい側に座った。

黙々と食入るように原稿を読む三田。
その表情の変化を逃すまいとじっと三田を見つめる明日花。


やがて、三田は最後のページを読み終えると大事そうに原稿を閉じて
「フーッ」と大きなため息をついた。
そして明日花を見ると紅潮させた破顔をますます膨らませるかのように興奮して言った。

「先生! 良かったです、感動しました!
 特に、あの
 ”サンタクロースは生まれて来れなかったたくさんの子供達の魂で出来ている。
  だから子供達に幸せを与える事がサンタクロースの使命であり願いである”
 こんな発想は今まで無かったですよね?
 『あー、だからなんだ!』って、読んでいて震えちゃいました。
 やっぱり先生はすごいです!
 こんな話を誰より先に読めるなんて編集者になって良かったです」

興奮冷めやらぬといった風に三田は何度も頷いていた。

「それだけ?」

明日花の中でガッカリした気持ちがつい言葉になって漏れた。

「えっ? い、いや・・・他にももちろんあります。
 例えば、サンタクロースが自分の命と引き換えに少女を・・・」

「いや、そう言う事じゃなくて」

「えっ?」

「ううん。解らなかったら良いわ」

「いや、そんな!」

三田は明らかに困惑をしていた。
それが明日花にも見てとれた。

『やっぱり、名前の並び替えなんて偶然だったんだわ。
 そりゃそうよね。
 あんなお伽噺みたいな話が現実にある訳はないもの。
 あの夜の事はやっぱり夢だったのね・・・』


「先生?」

「・・・」

「先生?」

「えっ? あ、あぁ、ごめんなさい」

「いえ。どうされたんですか?
 申し訳ありません。
 ありきたりの感想しか言えなくて・・・
 編集者としては失格ですよね」

「ううん。そうじゃないの。気にしないで」

そう言って笑顔を作りながらも明日花は明らかに失望を隠せなかった。
だがそれは三田の責任ではない。
ただ、自分で勝手に期待をして自分で勝手に失望しただけだったのだ。
明日花はそう思い込もうと決めた。

『奇跡なんて、そんな簡単に起こるものではない。だから奇跡なんだ』

そう自分に言い聞かせて。


「先生。ありがとうございました。
 早速、これを編集部に持って帰って編集長に見せます。
 あっ、先輩にも!
 先輩、今は大御所先生が担当なもんで
 『疲れる!』って愚痴ばっかりだったんですよ。
 これを読んだらきっと元気になります」

「あらっ。倉久さん、偉くなったのね」

「副編(副編集長)です。性格は変わってませんけどね」

「ふふ。よろしく言っておいてね」

「はい。ありがとうございます」

三田は深々と頭を下げると大事そうに原稿の入った封筒を小脇に抱えて帰って行った。
その後ろ姿を見送りながら明日花はそっと呟いた。

「ルカ・・・違っても良い。夢でも良い。
 私の感謝の気持ちは変わらないわ。ありがとう・・・」



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