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夢の汽車に乗って ショートストーリー
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プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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本当は出会っちゃいけなかったのかも知れません。
いや、それでももし
ただ出会っただけだったのなら・・・



羊のアンジーはまだ三歳になったばかりの女の子です。
羊の三歳と言うと人間で言えば18~9歳くらいでしょうか。

アンジーが子供の頃
お母さんはいつも言っていました。

「良いかい? 良くお聞き。
 何があってもこの柵を出ちゃいけないよ。
 外には乱暴者のオオカミや、ずるがしこいキツネがいるし
 そうそう!
 体が大きくて岩みたいな怖いクマだっているんだからね。
 なぁに、でもここにいたら安全さ」


アンジーはとても好奇心が旺盛な女の子でした。
いつも柵の外を眺めては
牧場の周りに咲いている色とりどりの花たちや
季節によって色を変える木立に興味をいだき
そして大きな空を自由に飛び回る鳥たちを羨ましく思っていました。


ある時、アンジーは
目の前をヒラヒラ飛ぶモンキチョウを夢中で追い駆けて遊んでいました。

あまりにも夢中になり過ぎて
アンジーは柵の隙間を抜けて牧場の外に出たことにすら気がついていませんでした。

どれだけ時間が経ったでしょう。
気がついたらお日様はもう沈みかけていました。

「困ったわ。どうやって帰れば良いんだろう?」

アンジーは途方にくれました。

その時です。
茂みがガサガサ動いたかと思うとそこにオオカミのウルが現れたのです。
どのくらいの時間だったでしょう。
二匹はお互いに驚いたまま見つめ合っていました。

と、アンジーはその相手に向かっておそるおそる尋ねました。

「あの、ここは何処か判ります?
 私、迷子になったみたいなんです」

アンジーはそれだけ言うと堰を切ったように泣き出しました。
独りぼっちが不安で心細かったのと
道を尋ねられそうな相手に出会えてホッとしたのとで
それまで張り詰めていた気持ちが緩んでしまったのでしょう。

呆気に取られたのはウルの方でした。
幸運なことに突然現れてくれた今夜のご馳走です。
いや、そのはずだったのですが
アンジーの涙を見た途端に逆にどうして良いか判らずうろたえてしまったのです。

「お嬢ちゃん、もう泣かなくて大丈夫だよ」

その自分が発した言葉に驚いたのも又、ウルでした。

『おいおい、俺はどうしちまったんだ?
 労せずして今夜のご馳走が向こうからやってきてくれたんじゃないか。
 他の奴らが嗅ぎつけてくる前にとっとと頂いちまおうぜ』

気持ちとは裏腹にウルはアンジーに言いました。

「さぁ、付いておいで。君の牧場まで連れて行くよ」

「あなた、私の家を知っているの?」

「あぁ、知ってるよ。大きな牧場だもんな。
 さっ、こっちだ」

アンジーは何ひとつ疑うこともなくウルの後をついて歩きました。
そして、やがて見覚えのある風景が見えてきました。

「ほら、あそこだ。ここからなら一人で帰れるな?」

「はい、ありがとうございました!」

アンジーはウルのお陰で無事に牧場に戻ることができました。


「まぁ、アンジー。何処に行ってたんだい?
 オオカミに喰われてしまったんじゃないかって心配してたんだよ」

「親切な犬さんに助けてもらったの」

アンジーはオオカミを見たことがなかったので
牧場の犬と同じような人相のオオカミを犬だと思っていたのでした。


アンジーが無事に帰ったのをオオカミは茂みの影から見守っていました。
あまり近づくと牧場の犬たちに気付かれてしまいます。

「あぁ、俺はいったいどうしちまったんだ?
 お人好しにもほどがあるぜ」

その時、ウルのお腹がグウと鳴りました。

「あぁ、ホントなら今頃は食べ過ぎなくらい満足出来ていたのに。
 なんで、こんなことになったんだ?」

この時、ウルは自分の気持ちには気が付いていませんでした。
 

それからウルは自分でもおかしいくらい
寝ても覚めてもアンジーのことばかり考えていました。

アンジーのいる牧場の近くまで何度も訪れては
遠目にアンジーが仲間達と遊んでいる姿を見てため息をついていました。

ある時、アンジーの姿ばかりを気にしていて
いつもより牧場に近づき過ぎているのに気が付いていませんでした。

『ワン!ワン!ワワン!!!』

突然、牧場の方から何頭もの犬たちがウルを目がけて向かって来ました。

「ウワッ、ヤバい! 逃げろ!」

必死に走って何とかかんとか命からがらウルは逃げおうせましたが
その様子を遠くから見ていた仲間達が揶揄して言いました。

「ウル、お前もヤキが回ったもんだな。
 あの犬たちがいるかぎり俺達は命が幾つあっても足りねぇ。
 あそこの羊のことはもう諦めな。
 エサを狩るにゃここだって十分に良いぜ。
 ウサギだってネズミだってたくさんいるんだから食うもんにゃ困らないさ」

もちろん、ウルは羊を食べたくて牧場に通っていた訳ではありません。
仲間達にもそんなことは言えませんでしたが
実際、どうしてこんなにアンジーに会いたいと思うのか
まだウルにも判ってはいませんでした。

何か今まで感じたことのないモヤモヤが
心の中で日増しに大きくなっていくのを止められなかったのです。

「何とか、アンジーに気持ちを伝えられないだろうか?
 何て言ったら良いのかは判らないけど、でもアンジーに会いたい」

思案の末にウルは一計を案じました。

ウルはアンジーに気にいられようと夜になると
ネズミを咥えてきては牧場の端っこにそっと置きました。

翌朝、仲間達と共に牧場に出て来たアンジーがそれに気づきました。

「キャッ! 何?」

ネズミの無残な死体を見つけてアンジーは思わず目をそむけました。

「そうか、ネズミは気に入らないんだな」

影でその様子を見ていたウルは今度はウサギを掴まえて殺すと
次の夜、それをまた牧場に持って行きました。

でも、アンジーの態度は前と一緒でした。

「もしかしたら魚の方が良いのかな?」

ウルは今度は大きなマスを持って行きました。


それでもアンジーは顔をしかめるばかりで
ウルが密かに持って行った”プレゼント”を一向に食べようとはしませんでした。

ウルは羊が草食だということを知らなかったのです。

その翌日、ウルがフラリと牧場の近くに行くと
柵の少し外側に手紙が置いてあるのに気が付きました。

「何だろう?」

その手紙にはこう書いてありました。

「お願いです。もう私のために小さな命を殺さないでください。
 あなたを嫌いになりたくありません」


夜、寝床を抜け出したアンジーは
いつもネズミやらウサギが置いてあった場所の近くの木の陰から
誰がそれを置いて行くのか密かに見張っていたのです。
そして、しばらくすると案の定、誰かがやって来ました。

月明かりが顔を照らし出すと、それを見たアンジーは我が目を疑いました。
それはあの日、迷子になっていたアンジーを助けてくれたあの”犬さん”だったのです。

ショックを受けたアンジーは泣きながら寝床に走り帰りました。
寝床に帰っても涙は止まりませんでした。
それほど、ショックだったのです。

眠れない夜を過ごしたアンジーは次の日、
せいいっぱいの気持ちを込めて”犬さん”に手紙を書いたのでした。


それ以来、ウルが牧場に来ることはありませんでした。








「ねぇ、どう思う?」

「どうって?」

「この話よ。どう思った?」

「そうだね。ちょっと切ない話だね」

「そうね。で?」

「でって・・・ねぇ、何が訊きたいんだい?」

「あなたの感想よ」

「だから、ちょっと切ないかな」

「それだけ?」

「って、まぁ・・・あれだよね。
 種が違うから解り合えないってか
 ん、結ばれない恋っていうかさ」

「ホントに解り合えていなかったのかな?」

「そうなんじゃない? 違うのかい?」

「だって、お互いに相手には気持ちは伝わってたんじゃない?
 ただ、それをどう伝えたら良いのかが解らなかっただけだと思うわ」

「なら、尚更切ないよね」

「そうなのよね。ねぇ? どうしたら良かったと思う?」

「それは解らないけどさ。例えば、もしね。
 お互いがオオカミ同士とか羊同士なら良かったのにとかしか解らないな」

「でも、人間同士だってお互いが解り合えないってこともあるわ。
 国が違ったり人種が違ったり、或いは性別が違ったりとかでね」

「そりゃまぁね。習慣や言葉の壁ってあるもんね。
 生まれたり育った風土っての? そんな環境の違いとかさ。
 だけど、同じ人間同士なら解り合える努力は出来るよね?」

「そうね。少なくとも解ろうと努力することは出来るわね」

「そうだね。お互いが自分の主張だけをしていたら無理だけど
 相手の話を聞こうとする努力をするだけでもきっと違うよね」

「あら、良いことを言うわね? で?」

「で? ・・・いや、その・・・ゴメン。
 俺は確かにいつも自分のことばかりだったかもしれない。
 さっきのことも・・・俺は自分の意見を押しつけてばかりで
 ちっとも君の気持ちを考えてなかったね、ごめん」

「ううん。もう良いわ。なんか色々と話も出来たし。
 それに私の方だって、結局は自分のことしか言ってなかった。ごめんね」

「種とかそんなのはどうでも良いことで、ホントのとこはそこじゃないんだよね」

「そうね。そう思うわ。
 で、ウルはあの後、結局どうなったのかな?」

「そりゃね。好きな子に『もう小さな命は殺さないで』なんて言われたら
 自分の好物のウサギだって掴まえられなくなるだろうさ。
 結局、ウルはアンジーに恋したばかりに狩りが出来なくなって
 死んでしまったんじゃない?」

「そんなことはないわ。いや、そうじゃないことを祈るわ。
 だって、生きるってことはキレイごとばかりじゃないもの。
 ただ、無駄な殺生はしなくなったかもしれないけど」

「野生で生きるってことはそもそもそういうことだよ。
 無駄な殺生をするのはむしろ人間の方かもね」

「どっちにしても、結ばれなくても二人共シアワセでいてくれたら良いな」

「俺は結ばれてシアワセになりたいけどね」

「俺達はでしょ?」

「あはは、そうだね」

「なれるかな?」

「なれるさ。お互いがいつまでも解り合う為の努力を忘れなければね」


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契約

糸よりも細い新月の夜は闇の深さがいっそう濃いようにも見えた。

「何だか不気味な夜だな」

いつも通っていて見慣れているはずの辺りを見回しながら俺は呟いた。

霊感があるとか、第六感が働くとかそんなことは今までも一度も無かった。
周りの景色だって特にいつもと何かが違うという訳でもなかった。
にもかかわらず、その夜は何故か自然と帰宅をする道も足早になっていた。

いつも近道にしている薄暗い公園の散策路を抜けようとしていたその時だった。
黒ずくめの衣装を身にまとった男が突然、俺の目の前に現れたと思ったら
近づいて来るなり俺の顔を下から覗き込むようにして、そしてこう言った。

「お前さん、ずいぶんと後悔を背負い込んでいるって顔をしてるね」

見知らぬ男のいきなりの言葉にカチンときた俺は無愛想に答えた。

「はん、何をバカな! お前に心配をしてもらうことなんか何もないさ」

「なら、良いけどね。でも、ほらっ、顔にちゃんと書いてあるぜ。
 『私は今まで何度も何度も後悔をしてきました』ってな」

「ふん、お前に何が判るって言うんだ?
 えー? いったい俺の何を知ってるって?」

すると男は嘲るように呟いた。

「知ってるさ。お前さんの何もかもね。
 お前がこれまでしてきた後悔の全てもさ」

「どうだかね。第一、俺にはそんな言うほどの後悔なんてしてない」

「ほぉ、そうか。それじゃあ、これは他の奴のことだったかな」

男は古ぼけた手帳のような物をパラパラとめくりながら
さも、意地悪く独り言のように呟いた。

「どれどれ・・・大学受験の時?
 親にずいぶんと心配をかけたんだねぇ。
 受験に失敗をして家出をしたのかい?
 自分が勉強しなかったのを親のせいにしちゃって、まぁ。
 で、やっと入った三流大学じゃ仕送りをもらって放蕩三昧だって?
 ひどいもんだね。呆れるよな?
 それから・・・うん、二十七歳の時に別れた女のことを?
 ほぉ、今でも忘れられないでいる・・・
 もう三十年も経ってるのに?
 だって、お前は結婚もしていて今じゃ孫までいるってのにかい?
 忘れられないのに何で結婚なんてしたんだい?
 忘れる為かい? それとも自棄になっちまったって訳かい?
 いやいや、までも、一途もここまでくりゃ笑い話だね、全く。
 なぁ、そう思わないかい?
 お前さんのことじゃないってなら言うけど、こいつ笑えるだろ?
 それから? ふむ、なになに? 亡くなった母親に対して・・・
 ん、こりゃ笑えないかね。バカな奴だぜ、全くな。
 親孝行、したい時に・・・ってやつかね。
 後悔先に・・・」

次の言葉を遮るように俺は叫んだ。

「止めろ! 止めてくれ・・・判った、もう判ったから・・・
 いったい、お前は何者なんだ?」

「俺か? 俺はお前さんの友達みたいなもんだよ」

「何処がだよ? 俺にはお前みたいな友達はいない」

「だから、<みたいなもん>って言ってるだろ?
 友達で悪けりゃ、お前さんの分身だとでも言っておこうか?」

「意味が判らない! 何だ? いきなり俺の前に現れて。
 俺の粗探しかよ? いったい何が目的なんだ?」

「目的なんかないさ。言ったろ? 俺はお前さんの分身だってね」

「・・・」

「おいおい、そんな渋い顔をするなよ。仲良くやろうぜ」

「何が目的だ?」

男は俺の目を真っ直ぐに見ると言った。

「お前さんの願いを叶えてやろう」

「願い? どういうことだ?」

「お前さんの願いを叶えてやる。それだけのことだよ」

「ふん、やっぱりお前は相手を間違ってる。
 どうせ、新手の新興宗教とかそんな類いだろ?
 残念だったな。俺はお前の金づるになるほど金なんか持っちゃいないさ。
 どうせ、さっきの話だって、おおかた興信所か何かで調べたんだろ?
 悪いな。かかった経費も回収出来ないでさ。
 フン、カモなら他で探すことだ」

俺は吐き捨てるように呟いた。

「ハッハッハ。面白いことを言う奴だな。
 誰が金を取るって言った?」

「じゃ、何が狙いだ?」

俺は思わず男に詰め寄った。
男はヤレヤレといった仕草を見せると言い聞かせるように俺に言った。

「おいおい、ずいぶんな言いぐさだな。狙いなんかないさ。
 なぁあに、簡単な話さ。
 今のお前さんの全てと引き替えに
 お前さんが一番戻りたい時に一度だけ戻してやる。
 そしたら、お前さんはその時にした選択を代えれば良い。
 後悔をしたなら、そうならない選択をし直せば良いって訳さ。
 お前さんは人生をやり直すことが出来るんだ。
 どうだい? 良い話だろ?
 今のお前さんの全てを失ったとしてもお前さんは人生の選択をやり直すんだ。
 後悔をした選択はもう二度としないだろ?
 お前さんは改めて新しい人生を生きるんだ。
 今のお前さんの全てが無くなったところで
 違う人生を歩んでいるお前さんには何も影響は無いって寸法さ」

「そんなことが出来る訳がないだろ?」

俺は憮然と答えた。
すると男は笑みを浮かべながらこう言った。

「じゃ、試してみろよ」



「さぁ、いつに戻りたいだ? いつでも良いぜ。思いのままだ」

男は手帳をパラパラめくりながら訊いた。

俺は考えていた。

確かに、過去に後悔は何度もあった。
同じような後悔を繰り返してしまった時には
『なんて俺には学習能力がないんだろう?』
そう、自分を蔑んだこともあった。
過去に戻ってやり直したいと何度思ったことか。

でも、だからと言って現状を全て否定しようと思ったことは無かった。
確かに、過去には何度も後悔があったけど
結果、子供にも恵まれたし、今では可愛い孫だっている。
その全てを否定しようなんて気はそもそも無かったのだ。

ただ、その一方で歳を経て希薄になってしまった夫婦関係とか
仕事でも、ここ最近は上手くいかないことが続いたりと
そんなこともあって何処か投げやりな気持ちが増していたのも事実だった。

『過去になんか戻れる訳は無い』
そう思いながらも一方では
『もう一度人生をやり直せたなら俺はどんな人生を歩んでいたんだろう?』
それはきっと、誰しもが一度は思ったことがあるに違いない。
そして、俺は今夜この変な奴に出遭ってしまった。

『これは運命なのか? それとも、ただの夢か?
 そもそも本当に過去になんか戻れる訳がない。
 だけど、もし本当に戻れるなら・・・
 いつにする? 大学受験からやり直したいけど
 いや、違う・・・そうじゃない。
 やはり、あの時か・・・』

「決まったかい?」

俺を急かすかのように
男は右手に持った例の手帳を左手に何度も軽く叩き付けながら訊いた。

「あぁ、二十七歳の誕生日の一週間前に戻してくれ」

「ほぉ。やっぱりね。だと思ったよ」

全てを見透かされた気がして恥ずかしさから俺は度鳴るように言った。

「うるさい! 出来るなら早くやって見せろよ!」

「もちろんだ。お前さんも今度こそは後悔のない選択をしなよ。
 やり直せるのは一度っきりだからな。
 そうそう、それじゃ、約束通り今のお前さんの全てを頂くぜ」

「ふん、好きにしろ!」



長い夢から覚めた後のように身体には変な怠さというか疲れみたいなのが漂い
未だ何処か夢と現の境目にでもいるかのように心は重く垂れ込めた雲のようだった。

「今は・・・いったい、いつなんだ?
 俺は今、何処にいる? そして・・・何をしていたんだ?」

思い出そうとすると頭が割れるように痛んだ。
考えようとする度に動悸が激しくなって、まるで過呼吸みたいになっていた。

「考えてはいけない」

いつしか、俺はそう思うようになっていた。
或る種の自己防衛本能とでもいうのだろうか?

そして、俺は生きた。
ただ、生きたとしか言えないような月日だった。

それから、どのくらいの歳月が流れたのだろう?



糸よりも細い新月の夜は闇の深さがいっそう深いようにも見えた。

「何だか不気味な夜だな」

いつも通っていて見慣れているはずの辺りを見回しながら俺は呟いた。

霊感があるとか、別にそんなことは今までも一度も無かった。
周りの景色だって特にいつもと何かが違うという訳でもなかった。
にもかかわらず、その夜は何故か自然と帰宅をする道も足早になっていた。

いつも近道にしている薄暗い公園の散策路を抜けようとしていたその時だった。
黒ずくめの衣装を身にまとった男が突然、俺の目の前に現れたと思ったら
近づいて来るなり俺の顔を下から覗き込むようにして、そしてこう言った。

「お前さん、ずいぶんと後悔を背負い込んでいるって顔をしてるね」

見知らぬ男のいきなりの言葉にカチンときた俺は無愛想に答えた。

「はん、何をバカな! お前に心配をしてもらうことなんか何もないさ」

「なら、良いけどね。でも、ほらっ、顔にちゃんと書いてあるぜ。
 『私は今まで何度も何度も後悔をしてきました』ってな」

「ふん、お前に何が判るって言うんだ?
 えー? いったい俺の何を知ってるって?」

すると男は嘲るように呟いた。

「知ってるさ。お前の何もかもだ。
 お前がこれまでしてきた後悔の全てもね」

「どうだかね。第一、俺にはそんな言うほどの後悔なんてしてない」

「ほぉ、後悔したことすらスッカリ忘れているようだね。
 それにしてもバカな男だ。
 せっかく、望み通りの時に戻してやったのに
 結局は同じ人生の選択をして結局は同じ後悔をただ繰り返してきただけだなんてな。
 でもまぁ、無理もないか。お前は一度記憶を全て失っているんだからな。
 だけど、約束は約束だ。お前の全てをいただくぜ」



薄れ行く意識の中で俺は誰かの声を聞いた。

「哀れな、そして愚かな男よ。
 そうなったのも自業自得・・・とは言え
 私が収める世界に於いての奴らの勝手な所業を黙って見過ごす訳にもいかぬ。
 お前にもう一度だけチャンスをやろう。
 良いか? 奴の誘いを受けた時ひとつだけ条件を呑ませるのだ。
 『全てをお前に捧げるも今まで生きてきた記憶だけは渡せない』と。
 その条件が呑めないのなら話はもう終わりだと突っぱねるが良い。
 まぁ、あやつのことだ。あの手この手で誘惑をするだろうが、なぁに構わんさ。
 今の記憶を持ったまま昔に戻れるのなら決して同じ過ちは起こさないだろう。
 それこそがお前の望みのはずだ」



糸よりも細い新月の夜は闇の深さがいっそう深いようにも見えた。

「何だか不気味な夜だな」

いつも通っていて見慣れているはずの辺りを見回しながら俺は呟いた。

霊感があるとか、第六感が働くとかそんなことは今までも一度も無かった。
周りの景色だって特にいつもと何かが違うという訳でもなかった。
にもかかわらず、その夜は何故か自然と帰宅をする道も足早になっていた。

いつも近道にしている薄暗い公園の散策路を抜けようとしていたその時だった。
黒ずくめの衣装を身にまとった男が突然、俺の目の前に現れたと思ったら
近づいて来るなり俺の顔を下から覗き込むようにして、そしてこう言った。

「お前さん、ずいぶんと後悔を背負い込んでいるって顔をしてるね」

「あぁ、お前か? やっと遭えたよ。待ってたんだ」

「どういうことだ? お前さんは俺が現れるのを予言していたっていうのかい?」

「予言? さぁね。それはどうかは知らないが
 お前とは少なからず因縁があるみたいなんでね」

「なら、話は簡単だ。俺を待ってたんだろ?
 ってことは、お前さんは過去に戻りたいと思ってる。
 そういうことだろ?
 で? それはいつにだい? もう決めているんだろ?」

「あぁ、二十七歳の誕生日の一週間前に戻してくれ」

「ほぉ。やっぱりね。だと思ったよ。
 良いだろ。望み通り、今のお前さんの全てと引き替えに
 お前さんが一番戻りたい時に一度だけ戻してやる。
 そしたら、お前さんはその時にした選択を代えれば良い。
 後悔をしたなら、そうならない選択をし直せば良いって訳さ。
 お前さんは人生をやり直すことが出来るんだ。
 どうだい? 良い話だろ?
 今のお前さんの全てを失ったとしてもお前さんは人生の選択をやり直すんだ。
 後悔をした選択はもう二度としないだろ?
 お前さんは改めて新しい人生を生きるんだ。
 今のお前さんの全てが無くなったところで
 違う人生を歩んでいるお前さんには何も影響は無いって寸法さ」

「判った。だけど、こっちにもひとつ条件がある」

「条件? なんだ?」

「今の俺の全てをお前にくれてやる。
 しかし、俺が今まで生きてきた記憶だけは渡せない」

明らかに男の顔色が変わった。

「バカな。そんな約束は出来る訳がない!」

「なら、良いさ。話は無しだ」

毅然と俺は答えた。

「待て! それはダメだ。望みを叶える見返りは対価交換と決まっている。
 お前さんを望み通りの過去に戻すには、それ相応の記憶との交換が必要なのだ」

「知ったことか! それは、お前の都合だろ? 俺には関係無いね」

そう言い放つと俺は男に背を向けて歩き出した。

「待て! 戻りたくはないのか?
 後悔をやり直したくはないのか?
 それが、お前さんの望みだったんじゃないのか?」

俺は振り返ると男に言った。

「戻りたいさ。出来るならね」

そう言った俺に取り繕うように男は駆け寄って来て囁くように言った。

「だろ? そうだ、それがお前さんの望みだものな。
 なら、話を続けようじゃないか? 人生をやり直し・・・」

男の言葉を遮って俺は答えた。

「俺の記憶なんかは消えてしまおうが、それはどうでも良いんだ。
 だけど、今更かもしれないけど
 その結果として可愛い孫の人生まで無かった事にはやっぱり出来ないよ。
 何回、人生をやり直したとしても、妻とのことがどうだったとしても
 今の孫に逢えない人生なんて、それに比べたらクソくらえだ」

同居をしている孫の笑顔を思い出しながら俺は思っていた。
『そうだ、久々にアイスクリームかケーキでも買って帰るか。
 まだ、起きていてくれたら良いけど』

「悪いな。そういうことだ・・・」

そう言いかけて気が付いた。
いつの間にか男は目の前から消えていたのだ。





「哀れな、そして愚かな男よ。
 あのまま私の言うことを聞いて人生をやり直しておれば
 今より遥に素晴らしい人生を送れたものを」

「所詮、人間なんてのはそんなちっぽけな生き物だってことだろ。
 僅かな幸せでも、それを失いたくないが為に無駄にあがいて
 結局は大きな幸せを掴むチャンスを失ってしまうんだ」

「なんだ、まだいたのか?」

「まだいたのかはひどい言い草だな」

「今回はもう少し骨のある男だと見込んでいたんだがな」

「せっかくこしらえたのに又、失敗作だったようだな。
 で? 今回は何万人こしらえたんだい? 何百万人かい?
 俺は何万人処分したら良い?」

「処分とは人聞きの悪いことを。浄化するのがお前達の役目だろ?」

「ふん、同じことさ。奴ら人間にとったらね。
 あんたらが人間をこしらえる度に何割かの出来損ないが地球を滅ぼそうとしてきた。
 文明の名の下で人間どもは自分達では手に負えない狂気の産物を産み出し
 挙げ句の果てには自ら引き金を引き何度となく自然を破壊し尽くしそうとした。
 その度に俺達は大地震、大噴火、大洪水を起こして人間どもを浄化してきた。
 正確に言うなら、あんたらの尻ぬぐいだがな。
 しかし、何千年もその繰り返しじゃないか。それに意味はあったのかい?
 いったい、いつになったらあんたらは完璧な人間をこしらえることが出来るんだい?」

「完璧な人間をこしらえるというのはそんな簡単なことではないのだ」

「だろうな。そもそも、あんたらだって完璧じゃないんだからな。
 なのにだ。愚かな人間どもはあんたらを神だと崇め、俺達を悪魔だと忌み嫌う。
 いくら、あんたらと交わした契約とはいえさ。全く割に合わない話だぜ」

「それが仕事というものだろ?」

「仕事ね? あんたらがもっと上手くやってくれたら少しは俺達も楽なんだがね」

「何をぶつくさ言ってるんだかしらんが
 こっちには契約書があるんだ。違反したらお前は消滅するんだぞ」

「おー、怖い怖い。さすがに<神様>の言うことは迫力があるね。
 人間どものブラック企業のパワハラだって、もうちっとは優しいかもな」

「私だって十分に優しいさ。
 なんせ、契約書に書いてないことまで押しつけたりはしないからな。
 もっとも、そもそも契約とは我々が人間どもにした約束がその起源だ。
 だがそれは人間どもが希望を持てさえすればそれで良かったのだ。
 何、簡単に叶えられる約束なんぞするはずも無かろうがね。お前らにもな」

「えっ? 何か言ったかい?」

「いや、独り言だよ。独り言」



と、いうことで
今年も恒例のクリスマスショートストーリーを
私のホームページ『夢の樹舎』に掲載をしました。


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        『夢の樹舎』



皆さんにとって素敵なクリスマスを迎えられますように。。。





契約

糸よりも細い新月の夜は闇の深さがいっそう深いようにも見えた。

「何だか不気味な夜だな」

いつも通っていて見慣れているはずの辺りを見回しながら俺は呟いた。

霊感があるとか、別にそんなことは今までも一度も無かった。
周りの景色だって特にいつもと何かが違うという訳でもなかった。
にもかかわらず、その夜は何故か自然と帰宅をする道も足早になっていた。

いつも近道にしている薄暗い公園の道を抜けようとしていたその時だった。
黒ずくめの衣装を身にまとった男が突然、俺の目の前に現れたと思ったら
近づいて来るなり俺の顔を下から覗き込むようにして、そしてこう言った。

「お前さん、ずいぶんと後悔を背負い込んでいるって顔をしてるね」

見知らぬ男のいきなりの言葉にカチンときた俺は無愛想に答えた。

「はん、何をバカな! お前に心配をしてもらうことなんか何もないさ」

「なら、良いけどね。でも、ほらっ、顔にちゃんと書いてあるぜ。
 『私は今まで何度も何度も後悔をしてきました』ってな」

「ふん、お前に何が判るって言うんだ?
 えー? いったい俺の何を知ってるって?」

すると男は嘲るように呟いた。

「知ってるさ。お前の何もかもだ。
 お前がこれまでしてきた後悔の全てもね」

「どうだかね。第一、俺にはそんな言うほどの後悔なんてしてない」

「ほぉ、そうか。それじゃあ、これは他の奴のことだったかな」

男は古ぼけた手帳のような物をパラパラとめくりながら
さも、意地悪く独り言のように呟いた。

「どれどれ・・・大学受験の時?
 親にずいぶんと心配をかけたんだねぇ~
 受験に失敗をして家出をしたのかい?
 自分が勉強しなかったのを親のせいにしちゃって、まぁ~
 で、やっと入った三流大学じゃ仕送りをもらって放蕩三昧かい?
 それから・・・うん、二十七歳の時に別れた女のことを?
 ほぉ、今でも忘れられないでいる・・・
 もう三十年も経ってるのに?
 だって、お前は結婚もしていて今じゃ孫までいるってのにかい?
 忘れられないのに何で結婚なんてしたんだい?
 忘れる為かい? それとも自棄になっちまったって訳かい?
 いやいや、までも、一途もここまでくりゃ笑い話だね、全く。
 なぁ、そう思わないかい?
 お前のことじゃないってなら言うけど、こいつ笑えるだろ?
 それから? ふむ、なになに? 亡くなった母親に対して・・・
 ん、こりゃ笑えないかね。バカな奴だぜ、全くな。
 親孝行、したい時に・・・まだ、お袋さん元気・・・」

次の言葉を遮るように俺は叫んだ。

「止めろ! 止めてくれ・・・判った、もう判ったから・・・
 いったい、お前は何者なんだ?」

「俺か? 俺はお前の友達みたいなもんだよ」

「何処がだよ? 俺にはお前みたいな友達はいない」

「だから、<みたいなもん>って言ってるだろ?
 友達で悪けりゃ、お前の分身だとでも言っておこうか?」

「意味が判らない! 何だ? いきなり俺の前に現れて。
 俺の粗探しかよ? いったい何が目的なんだ?」

「目的なんかないさ。言ったろ? 俺はお前の分身だってね」

「・・・」

「おいおい、そんな渋い顔をするなよ。仲良くやろうぜ」

「何が目的だ?」

男は俺の目を真っ直ぐに見ると言った。

「お前の願いを叶えてやろう」

「願い? どういうことだ?」

「お前の願いを叶えてやる。それだけのことだよ」

「ふん、やっぱりお前は相手を間違ってる。
 どうせ、新手の新興宗教とかそんな類いだろ?
 残念だったな。俺はお前の金づるになるほど金なんか持っちゃいないさ。
 どうせ、さっきの話だって、おおかた興信所か何かで調べたんだろ?
 悪いな。かかった経費も回収出来ないでさ。
 フン、カモなら他で探すことだ」

俺は吐き捨てるかのように呟いた。

「ハッハッハ。面白いことを言う奴だな。
 誰が金を取るって言った?」

「じゃ、何が狙いだ?」

俺は思わず男に詰め寄った。
男はヤレヤレといった仕草を見せると言い聞かせるように俺に言った。

「おいおい、ずいぶんな言いぐさだな。
 狙いなんかないさ。
 なぁ~に、簡単な話さ。
 今のお前の全てと引き替えに
 お前が一番戻りたい時に一度だけ戻してやる。
 そしたら、お前はその時にした選択を代えれば良い。
 後悔をしたなら、そうならない選択をし直せば良いって訳さ。
 お前は人生をやり直すことが出来るんだ。
 どうだい? 良い話だろ?
 今のお前の全てを失ったとしてもお前は人生の選択をやり直すんだ。
 後悔をした選択はもう二度としないだろ?
 お前は改めて新しい人生を生きるんだ。
 今のお前の全てが無くなったところで
 違う人生を歩んでいるお前には何も影響は無いって寸法さ」

「そんなことが出来る訳がないだろ?」

俺は憮然と答えた。
すると男は笑みを浮かべながらこう言った。

「じゃ、試してみろよ」



「さぁ、いつに戻りたいだ? いつでも良いぜ。思いのままだ」

男は手帳をパラパラめくりながら訊いた。

俺は考えていた。

確かに、過去に後悔は何度もあった。
同じような後悔を繰り返してしまった時には
『なんて俺には学習能力がないんだろう?』
そう、自分を蔑んだこともあった。
過去に戻ってやり直したいと何度思ったことか。

でも、だからと言って現状を全て否定しようと思ったことは無かった。
確かに、過去には何度も後悔があったけど
結果、子供にも恵まれたし、今では可愛い孫だっている。
その全てを否定しようなんて気はそもそも無かったのだ。

ただ、その一方で歳を経て希薄になってしまった夫婦関係とか
仕事でも、ここ最近は上手くいかないことが続いたりと
そんなこともあって何処か投げやりな気持ちが増していたのも事実だった。

『過去になんか戻れる訳は無い』
そう思いながらも一方では
『もう一度人生をやり直せたなら俺はどんな人生を歩んでいたんだろう?』
それはきっと、誰しもが一度は思ったことがあるに違いない。
そして、俺は今夜この変な奴に出遭ってしまった。

『これは運命なのか? それとも、ただの夢か?
 そもそも本当に過去になんか戻れる訳がない。
 だけど、もし本当に戻れるなら・・・
 いつにする? 大学受験からやり直したいけど
 いや、違う・・・そうじゃない。
 やはり、あの時か・・・』

「決まったかい?」

俺を急かすかのように
男は右手に持った手帳を左手に何度も軽く叩き付けながら訊いた。

「あぁ、二十七歳の誕生日の一週間前に戻してくれ」

「ほぉ。やっぱりね。だと思ったよ」

全てを見透かされた気がして恥ずかしさから俺は度鳴るように言った。

「うるさい! 出来るなら早くやって見せろよ!」

「もちろんだ。お前さんも今度こそは後悔のない選択をしなよ。
 やり直せるのは一度っきりだからな。
 そうそう、それじゃ、約束通り今のお前の全てを頂くぜ」

「ふん、好きにしろ!」



長い夢から覚めた後のように身体には変な怠さというか疲れみたいなのが漂い
未だ何処か夢と現の境目にでもいるかのように心は重く垂れ込めた雲のようだった。

「今は・・・いったい、いつなんだ?
 俺は今、何処にいる? そして・・・何をしていたんだ?」

思い出そうとすると頭が割れるように痛んだ。
考えようとする度に動悸が激しくなって、まるで過呼吸みたいになっていた。

「考えてはいけない」

いつしか、俺はそう思うようになっていた。
或る種の自己防衛本能とでもいうのだろうか?

そして、俺は生きた。
ただ、生きたとしか言えないような月日だった。

それから、どのくらいの歳月が流れたのだろう?



糸よりも細い新月の夜は闇の深さがいっそう深いようにも見えた。

「何だか不気味な夜だな」

いつも通っていて見慣れているはずの辺りを見回しながら俺は呟いた。

霊感があるとか、別にそんなことは今までも一度も無かった。
周りの景色だって特にいつもと何かが違うという訳でもなかった。
にもかかわらず、その夜は何故か自然と帰宅をする道も足早になっていた。

いつも近道にしている薄暗い公園の道を抜けようとしていたその時だった。
黒ずくめの衣装を身にまとった男が突然、俺の目の前に現れたと思ったら
近づいて来るなり俺の顔を下から覗き込むようにして、そしてこう言った。

「お前さん、ずいぶんと後悔を背負い込んでいるって顔をしてるね」

見知らぬ男のいきなりの言葉にカチンときた俺は無愛想に答えた。

「はん、何をバカな! お前に心配をしてもらうことなんか何もないさ」

「なら、良いけどね。でも、ほらっ、顔にちゃんと書いてあるぜ。
 『私は今まで何度も何度も後悔をしてきました』ってな」

「ふん、お前に何が判るって言うんだ?
 えー? いったい俺の何を知ってるって?」

すると男は嘲るように呟いた。

「知ってるさ。お前の何もかもだ。
 お前がこれまでしてきた後悔の全てもね」

「どうだかね。第一、俺にはそんな言うほどの後悔なんてしてない」

「ほぉ、後悔したことすらスッカリ忘れているようだね。
 それにしてもバカな男だ。
 せっかく、望み通りの時に戻してやったのに
 結局は同じ人生の選択をして結局は同じ後悔をただ繰り返してきただけだなんてな。
 でもまぁ、無理もないか。お前は一度記憶を全て失っているんだからな。
 だけど、約束は約束だ。お前の全てをいただくぜ」



薄れ行く意識の中で俺は誰かの声を聞いた。

「哀れな、そして愚かな男よ。
 そうなったのも自業自得・・・とは言え
 私が収める世界に於いての奴らの勝手な所業を黙って見過ごす訳にもいかぬ。
 お前にもう一度だけチャンスをやろう。
 良いか? 奴の誘いを受けた時ひとつだけ条件を呑ませるのだ。
 『全てをお前に捧げるも今まで生きてきた記憶だけは渡せない』と。
 その条件が呑めないのなら話はもう終わりだと突っぱねるが良い。
 まぁ、あやつのことだ。あの手この手で誘惑をするだろうが、なぁに構わんさ。
 今の記憶を持ったまま昔に戻れるのなら決して同じ過ちは起こさないだろう。
 それこそがお前の望みのはずだ」



糸よりも細い新月の夜は闇の深さがいっそう深いようにも見えた。

「何だか不気味な夜だな」

いつも通っていて見慣れているはずの辺りを見回しながら俺は呟いた。

霊感があるとか、別にそんなことは今までも一度も無かった。
周りの景色だって特にいつもと何かが違うという訳でもなかった。
にもかかわらず、その夜は何故か自然と帰宅をする道も足早になっていた。

いつも近道にしている薄暗い公園の道を抜けようとしていたその時だった。
黒ずくめの衣装を身にまとった男が突然、俺の目の前に現れたと思ったら
近づいて来るなり俺の顔を下から覗き込むようにして、そしてこう言った。

「お前さん、ずいぶんと後悔を背負い込んでいるって顔をしてるね」

「あぁ、お前さんか? やっと遭えたよ。待ってたんだ」

「どういうことだ? お前は俺が現れるのを予言していたっていうのかい?」

「予言? さぁね。それはどうかは知らないが
 お前さんとは少なからず因縁があるみたいなんでね」

「なら、話は簡単だ。俺を待ってたんだろ?
 ってことは、お前さんは過去に戻りたいと思ってる。
 そういうことだろ?
 で? それはいつにだい? もう決めているんだろ?」

「あぁ、二十七歳の誕生日の一週間前に戻してくれ」

「ほぉ。やっぱりね。だと思ったよ。
 良いだろ。望み通り、今のお前の全てと引き替えに
 お前が一番戻りたい時に一度だけ戻してやる。
 そしたら、お前はその時にした選択を代えれば良い。
 後悔をしたなら、そうならない選択をし直せば良いって訳さ。
 お前は人生をやり直すことが出来るんだ。
 どうだい? 良い話だろ?
 今のお前の全てを失ったとしてもお前は人生の選択をやり直すんだ。
 後悔をした選択はもう二度としないだろ?
 お前は改めて新しい人生を生きるんだ。
 今のお前の全てが無くなったところで
 違う人生を歩んでいるお前には何も影響は無いって寸法さ」

「判った。だけど、こっちにもひとつ条件がある」

「条件? なんだ?」

「今の俺の全てをお前にくれてやる。
 しかし、俺が今まで生きてきた記憶だけは渡せない」

明らかに男の顔色が変わった。

「バカな。そんな約束は出来る訳がない!」

「なら、良いさ。話しは無しだ」

毅然と俺は答えた。

「待て! それはダメだ。望みを叶える見返りは対価交換と決まっている。
 お前を望み通りの過去に戻すには、それ相応の記憶との交換が必要なのだ」

「知ったことか! それは、お前の都合だろ? 俺には関係無いね」

そう言い放つと俺は男に背を向けて歩き出した。

「待て! 戻りたくはないのか?
 後悔をやり直したくはないのか?
 それが、お前の望みだったんじゃないのか?」

俺は振り返ると男に言った。

「戻りたいさ。出来るならね」

そう言った俺に取り繕うように男は駆け寄って来て囁くように言った。

「だろ? そうだ、それがお前の望みだものな。
 なら、話を続けようじゃないか? 人生をやり直し・・・」

男の言葉を遮って俺は答えた。

「俺の記憶なんかは消えてしまおうが、それはどうでも良いんだ。
 だけど、今更かもしれないけど
 その結果として可愛い孫の人生まで無かった事にはやっぱり出来ないよ。
 何回、人生をやり直したとしても、妻とのことがどうだったとしても
 今の孫に逢えない人生なんて、それに比べたらクソくらえだ」

同居をしている孫の笑顔を思い出しながら俺は思っていた。
『そうだ、久々にアイスクリームかケーキでも買って帰るか。
 まだ、起きいててくれたら良いけど』

「悪いな。そういうことだ・・・」

そう言いかけて気が付いた。
いつの間にか男は目の前から消えていたのだ。





「哀れな、そして愚かな男よ。
 あのまま私の言うことを聞いて人生をやり直しておれば
 今より遥に素晴らしい人生を送れたものを」

「所詮、人間なんてのはそんなちっぽけな生き物だってことだろ。
 僅かな幸せでも、それを失いたくないが為に無駄にあがいて
 結局は大きな幸せを掴むチャンスを失ってしまうんだ」

「なんだ、まだいたのか?」

「まだいたのかはひどい言い草だな」

「今回はもう少し骨のある男だと見込んでいたんだがな」

「せっかくこしらえたのに又、失敗作だったようだな。
 で? 今回は何万人こしらえたんだい? 何百万人かい?
 俺は何万人処分したら良い?」

「処分とは人聞きの悪いことを。浄化するのがお前の役目だろ?」

「ふん、同じことさ。奴ら人間にとったらね。
 あんたらが人間をこしらえる度に何割かの出来損ないが地球を滅ぼそうとしてきた。
 文明の名の下で人間どもは自分達では手に負えない狂気の産物を産み出し
 挙げ句の果てには自ら引き金を引き何度となく自然を破壊し尽くしそうとした。
 その度に俺達は大地震、大噴火、大洪水を起こして人間どもを選別し浄化してきた。
 正確に言うなら、あんたらの尻ぬぐいだがな。
 しかし、何千年もその繰り返しじゃないか。それに意味はあったのかい?
 いったい、いつになったらあんたらは完璧な人間をこしらえることが出来るんだい?」

「完璧な人間をこしらえるというのはそんな簡単なことではないのだ」

「だろうな。そもそも、あんたらだって完璧じゃないんだからな。
 なのにだ。愚かな人間どもはあんたらを神だと崇め、俺らを悪魔だと忌み嫌う。
 いくら、あんたらと交わした契約とはいえさ。全く割に合わない話しだぜ」

「それが仕事というものだろ?」

「仕事ね? あんたらがもっと上手くやってくれたら少しは俺らも楽なんだがね」

「何をぶつくさ言ってるんだかしらんが
 こっちには契約書があるんだ。違反したらお前は消滅するんだぞ」

「おー、怖い怖い。さすがに<神様>の言うことは迫力があるね。
 人間どものブラック企業のパワハラだって、もうちっとは優しいかもな」

「私だって十分に優しいさ。
 なんせ、契約書に書いてないことまで押しつけたりはしないからな。
 もっとも、そもそも契約とは我々が人間どもにした約束がその起源だ。
 だがそれは人間どもが希望を持てさえすればそれで良かったのだ。
 何、簡単に叶えられる約束なんぞするはずも無かろう。お前らにもな」

「えっ? 何か言ったかい?」

「いや、独り言だよ。独り言」


今まで、神が仕掛けた計画の幾つかについて話をしてきました。

私は続きを書くべきかどうか悩んでいます。
果たして、私のような一介の歯車でしかない人間がこれを書いて良いのか?

この暴露をした時、私はどうなっているのでしょう?
世界はどうなってしまうのでしょうか?
いや、それでも私は書いてしまうでしょう。

もちろん、そんなことは
神の書いた台本には書かれていないはずですが
世界の秘密を知ってしまった以上
それを書くことこそが私の使命であり
これこそが私に課せられた運命なのだと改めて心に刻みました。

神が私達人間に一番知られたくない真実。
それを私はこれから書こうとしています。


そのことに気付いたのは小学生くらいの頃です。
私はふと考えついてしまったのです。

「今まで一緒に遊んでいた友達。
 『じゃあ、また明日な』と言って
 家の前の角で別れて視界から消えたけど
 ボクが見ていないところであいつは何をしているんだろう?」

「ボクが学校に行っている間
 お父さんとお母さんは何をしているんだろう?
 お父さんは仕事に行ったはずだけど
 ボクはお父さんが働いているところを見た事がない。
 ボクが学校から戻ると家には洗濯物がほしてあったり
 お母さんは食事の支度をしたりしているけど
 ボクが学校に行っている間
 お母さんはどうなっているんだろう?」

もしかして、ボクの視界を消えた途端に
出番の終わったマリオネットのように
動きを止めているんじゃないのか?

で、ボクの視界に入った瞬間
それらはまた、何事も無かったかのように動き出す。

もしかして、この世界で生きているのはボクだけで
他の人はお父さんもお母さんも友達も皆みんな
ボクがどう生きるのかという実験における
小道具みたいなものなんじゃないのか?


そう感じた時の感覚をどう表現すれば良いのでしょうか?
周りの人達を見た時の言い様もない違和感。

「ボクは気が狂ってしまったのか!?」

「そう、まさにお前は気が狂ってしまったんだよ」

そうですね。
それが正常な反応なんだと思います。

じゃ、訊きますが。

「あなたは、あなたの見ていない時に
 他の<人間達>がどうなっているのかを見たことがあるのですか?」


例えば、こんな経験はありませんか?

あなたが、急にドアを開けた瞬間。
中にいた人が驚いた顔であなたを見つめて冷や汗をかいている姿を。

それは、単に驚いたからでしょうか?
いや、多分驚いたのは事実でしょう。

しかし、それはあなたに自分達の正体を見られたのではないか?
そう一瞬感じてしまったからかもしれません。

そうじゃないと言い切れる根拠はありますか?


みんな自分と同じように生きていて、それぞれの生活をし
それぞれの行動を取っている。

「当たり前じゃないか」

本当に?

そう信じているだけではないのですか?
疑ったことがないだけじゃないですか?

自分以外もみんな同じ人間で間違いないですか?

そう言い切れる自信はありますか?


例えば、これは何に見えますか?

「O」

ただの丸ですか?
数字のゼロですか?
それともアルファベットのオーですか?

では、これは?

「OO」

丸が二つですか?
ゼロゼロですか?
オーオーですか?
或いは、そこに何か二文字の言葉を当てはめますか?

問題を出した人が答えを明示しない限り
自分の出した<答え>が正解かどうかは誰も解りません。

数学の問題ではないのですから。

つまりは、私がここで書いたことが真実なのか?
単に嘘八百を並べたデタラメなのか?

どうですか?

あなたには判断出来ますか?
単に、自分が考えたこともないことを言われたから
常識だけで考えて反論しているだけではないですか?

それでも、あなたは私の気が狂っただけだと言い切りますか?


いや、もしかしたら<ボク>さえも本当は人間ではなくて
意志を持った(と、思わされている)一体のマリオネットなのかもしれません。

マリオネットと言っても、それは
良く知っている糸で繋がれた人形を人間が操っているというソレではありません。

象徴をする意味で、この言葉を選びましたが。


さて、この広い宇宙には人類が生存出来る
いわゆるハビタブルゾーンに属するとされる惑星は数億個とも言われています。

それでは何故、我々人類は異星人を発見する事が出来ないのでしょう?

昔から「UFOを見た」とか「異星人に遭遇をした」なんて話は山ほどあります。
古代の壁画に描かれた鳥のような<人>や
蛇が人間に知恵を授けているところだとされる壁画。
或いは、まるでヘルメットでも装着しているが如くの人らしきモノが描かれている壁画。

壁画に描かれたそれらの<人>は宇宙人だと言う人がいます。

宇宙人が人間に知恵や技術を授けたからピラミッドも作ることが出来たし
物資さえ運ぶのも困難な険しい山の頂に都を作ることが出来た。

しかし、人間に知恵を授けたのは本当に宇宙人なのでしょうか?
私達は過去に地球に訪れて人間に知恵を授けた宇宙人を神と崇めたのでしょうか?


神は実験をしています。

テーマは『完全な人類を創れるのか?』


神は今まで、何度も実験をし、その度に失敗を重ねてきたのです。
そして、その都度いったん造った星を人類共々破壊してきました。

陶芸作家が失敗作を地面に叩き付けて壊すように。


神は星を造り、人類を創り、知恵を授け、その進化を促してきました。
それは何故なのか?

完璧な人類のみが唯一、神を完璧な<存在>に出来るのです。

まだ、その実験は一度も成功をしていません。

何故なら、神は未だ完璧ではないからです。
不完全な存在に完全な存在は造れません。

なので、神は何度も何度も失敗を繰り返しながらも実験を止めてはいないのです。

だから、人類は他の異星人には<未だ>出会えていないのです。
存在しないものには出会えるはずもありません。

もし、その可能性があるのだとしたら
いわゆる<神>は複数いて
それぞれが<持ち場>の銀河で競い合うように実験を繰り返している場合です。

当然、それぞれの神の能力にも差はあるのでしょうから
他の神より一歩も二歩も進んだ実験を行っている神がいるかもしれません。

だとすると
中には自分の銀河を超えるところまで人類を進化させる事ができた神がいても
それは不思議ではありません。

その人類が地球に来たのを喜んで地球の神が迎えたか
或いは、疎んで人類の目から隠し通したか解りませんけどね。


ともあれ、神は考えました。

「まずは完璧な人間を一人造ろう。
 完璧な人間が一人出来さえすれば、後はコピーをすれば良い」

そこで、神は色々な<タイプ>の人間を造っては実験を繰り返しているのです。

知能、容姿、運動能力、使う言語、思考回路等々。
それぞれを少しづつ変えては実験を繰り返しています。

或いは、環境を変えて。
それが他次元世界の手法なのかもしれません。

「いったい、どの組み合わせなら完璧な人間になるだろう?
 何を足せば、或いは何をどう変えれば人間は完璧になるだろう?」

その繰り返し造られた中の一人が<私>なのです。

ですが、どうやら<私>も神にとっては完璧ではないようです。
失敗作であるが故に、神の所業を暴露するなどと暴挙にでているのです。

いや、それは神に対する<私>の復讐なのかもしれません。
私は神の意志に逆らって自分の意志を持ってしまったのです。

しかも、絶対に人間には知られてはいけない秘密と共に。

それを暴露してしまった以上はいずれ私も覚悟はしています。


そして、神はまた次の人間を造ろうとするのでしょう。
完璧な<最初の人間>を求めて。

ですから、私以外の<人間>は実は人間ではないのです。




さて、今まで神の計画に関する三つの秘密を書いてきました。
そして、これから最後にして最大の秘密を書こうとしています。

それに比べたら今まで書いてきた三つの秘密は幼児向けの絵本みたいたものです。

「これを書き上げたら本当に世界は終わるかもしれない。
我々人類が生き残るのか?それとも〈神〉が生き残るのか?」

私は三十年以上も悩み続けてきました。
そして、この問題に決着を付けるべく、パソコンに向かいました。

ところが、最初の一文字を打とうとしたその瞬間・・・


私の脳内で何万年にも渡って築かれてきた人間の歴史。
いや、それは神が成そうとしてきた計画の歴史に他ならないのですが
次々と<過去>を行きつ戻りつ様々な映像がフラッシュバックされていきました。

それらは、或る意味
歴代の選ばれし者から引き継いだ〈記憶〉とでも言えば良いのでしょうか?

そして、それはどのくらいの時間だったでしょう。
何万年にも思いましたし、或いはホンの数秒だったかもしれません。

ただひとつ言えることは
私のような<普通>の人間の脳で処理をするには
あまりに膨大過ぎる量だったという事です。

『神は私の気を狂わそうとしている!』

初めはそう思いました。
そして、脳内で起きていることを全力で拒絶しようと試みました。

しかし、それが無駄だと知るのにそう時間は必要ありませんでした。

私は神の成すがままにそれらを受け入れていきました。
そうせざるを得なかったのです。
或いは、それも神の意志だったのかもしれません。

心の中の葛藤がそのうち耐えがたいほどの激痛に変わっていき
しかし、その中でも私は何故かとても冷静で
『本当に気が狂うのだ』と、ただそれだけを確信をしていました。

しかし、それも一瞬でした。

やがて、ひとつづつ霧が晴れるように
そして、私はついには神の計画の全てを知るに至りました。


もう、思い悩む必要はありませんでした。

神の計画の全てを暴こうとしたこと自体が間違いだったことに気付いたのです。

或いは、それこそが神による洗脳だったのかもしれません。
しかし、今の私には解りません。

真実とは?
正義とは?

それらを私達は唯一無二のものだと信じてきましたが
どの方向から見るかで変わり得るものです。

それでは、神の真実とは?
神の正義とは?

そして、人類にとっての真実とは?
人類にとっての正義とは?

神から見た人類の横暴。
人類から見た神の横暴。

誰がそれを裁けると言うのでしょう。

どちらも、お互いにとって無くてはならない存在だというのに。


私は神と約束(或いは契約というべきか)を交わしました。

神の計画。
その秘密と引き替えに私は人類の二千年間の<存続>を神に約束させたのです。

存続・・・その意味は深いかもしれません。

そもそも、神が一介の人間との約束を守るのか?

例え、いくら神が約束を守ったとしても
人間が自ら破滅へと突き進んでしまうのではないのか?

しかし、地球上の人類が半減してしまったとしても
仮に絶滅しかかったとしても
そこに僅かでも生き延びる人類がいれば
或いは、自らを戒めながら再び繁栄への道を歩んでいけるかもしれません。

いつかの時代のノア(の箱船)のように。

それも含めての存続なのです。


残念ながら永遠にという契約は結べませんでしたが
それは次の〈選ばれし者〉に託そうと思います。


果たして、何の意志も介在することなく
何もない<無>から有機物が誕生し、
やがて、幾世代も時間はかかったかもしれませんが
海に陸に空に幾千、幾万種類もの生物が産まれ進化を続けてこれたのしょう?

しかも、ほ乳類と呼ばれる生物の中で
何故、人間だけが知恵を持ち、文明を作ることが出来たのでしょう?

本当に、そこには何の意志も介在していなかったのでしょうか?


もしも今、私達が生きていると思っているこの人生が
実は誰かの創作したドラマだとしたら?

もしも、自分の意志で人生を選びながら生きていると思っていることが
実は誰かの台本の通りに演じさせられているのだとしたら?

私達はただそれを勝手に運命だと思い込んでいるだけだとしたら?

そんな事を考えたことはありませんか?


我々は映画やテレビでドラマを観ます。

例えば、十年に渡る出来事でも映画では僅か二時間程度に縮尺されます。
テレビドラマだとどんな事件でも一時間足らずで完結したりします。


地球上に人間が誕生をし人間がやがて滅びるまでの
何万年にも渡る壮大なドラマの中で
自分の演じる役割は僅か八十年ほどで
それは長い何万年ものドラマの中では一瞬にも満たない出番ではあります。

しかし、何十億ものピースのどれが欠けてもドラマは成立しません。


誰かは分かりませんが、台本を書いている者
つまり脚本家を仮に神としておきましょうか。


神は綿密にプロットを練って、エピローグに向けた物語を紡いでいきます。

どのタイミングでどのように人間を進化させていくのか?
そして、その先にはどういう結末を思い描いているのか?

つまりは、そんなドラマだと思ってください。


人間を進化させるキッカケとして
その都度、天才と呼ばれる人間を登場させ他の人間達を導く役を与えました。

彼らが時代の主人公となり、いわゆる人類の歴史を形成してきました。

では、その主人公とは?

創世期は多分、アダムとイヴだったのでしょう。
それからしばらくは、その子孫達が主人公を引き継いでいたのかもしれません。

私達が神話だと思っている、ノアやモーゼはどうだったでしょう?
神はゲーテに神曲で何を語らせたかったのでしょう?

おそらくはイエス・キリストも?

ジュリアス・シーザーやナポレオンももしかしたら
その時代の<選ばれた>主人公だったのかもしれません。

分野を変えてみると、大天才と呼ばれるレオナルド・ダヴィンチ。
アインシュタインはどうだったのでしょう?

長い歴史の中には時代の寵児と言われた人。
つまり
歴史を動かした人、歴史に影響を与えるほどの活躍や発明をした人は数々います。


しかし、歴史が示す通り、時として神が良かれと超天才を登場させた時
神の意志・意図するところと無関係に
時には台本を無視し予期せぬ方向に物語を動かそうとする事態さえ起きました。

神はその度に、物語の修正を迫られました。

そこで突発的な自然の大災害や大きな戦争を台本に書き込みました。

或いは、ヒトラーなども神によって修正加筆された人物だったのかもしれません。

図らずも、そのおかげで神の描いた物語は展開の起伏を生み
さらに壮大なドラマとなっていったのです。


例えば、アトランティスやムー大陸は何故、高度な文明を持ちながら
海の底へと沈んでいったのでしょう?

しかも、歴史からその痕跡さえも全てを隠滅するかのように。

今から見ても高度だと思われる古代文明は他にも幾つもありました。
それらの住民達は何故、遺跡だけを遺して
或る日こつ然と歴史の舞台から消えるようにいなくなってしまったのでしょう?

あのピラミッドでさえ今の科学・文明の利器を駆使しても
建造には何百年もかかると言われています。

しかも、今みたいにスーパーコンピューターなど無かった時代に
どうしてあれほど緻密に計算された建造物を作ることが出来たのでしょう?

そもそも誰がどうやって発想し、その場所にはないはずの大きな石を
何処で切り出し、運び、あれほどまでに美しく積み上げることが出来たのでしょう?

その時代は天文学的にも今以上の高度な知識を持っていたとも言われています。

何故、人間はそれらの知識や技術、経験を現代まで継続出来なかったのでしょう?

例えば、誰か一人くらいは、その時代の知識や技術を持って
生き延びることは出来なかったのでしょうか?

例えば、誰か一人くらいは、その時代の知識や技術を
何かの方法を以て<未来>に遺す、或いは伝えようとは出来なかったのでしょうか?

方法が無かったとは思えません。

では何故?

もしかしたら
歴史の影に埋もれた私達の知らない文明が他にもまだ沢山あったのかもしれません。

人類の歴史とは、或る意味では文明の進化と滅びの歴史でした。

そこには誰のどんな意図があったのでしょう?

神の啓示・・・つまりは神の台本に基づいて人間の進化を促す為の導きがあった。
そう考えるのが自然なのかもしれません。


我々が観る映画やテレビドラマは一面です。

その背景だとか、幾多の登場人物の絡み具合も
ナレーションだとか登場人物の昔語りで表現をされます。

しかし、我々が演じている演技を観ている者達は
全ての俯瞰を遠回しにして観ているのです。

例えれば
何百もの歯車を持ったカラクリ時計をひとつの全体として見た時のようなものです。

小さなひとつひとつの歯車がどう回っていて、何処が何処とどう関わっているのか?
普通はそこまでは気にせずに見ますよね。

でも、その中のたったひとつが欠けたりすれば時計は止まってしまいます。

つまり、我々が演じているのはその小さなひとつの歯車で
観ている者にとっては大して注目に値するようなものではないのです。

しかし、エキストラにもセリフがあれば台本があります。

我々は意志を持った個々の人間として台本には確かに書かれているのです。
そして、それを粛々と演じているのです。


演者は余計なことを考えてはいけません。
ましてやアドリブなど許されるはずもないのです。

そして、演者は考えてはいけないのです。

「このドラマって、どんな人が観ているんだろう?
 この先、何が起こって、何がどうなっていくんだろう?」


我々は粛々と演じていれば良いのです。
余計なことを考えたり、不要なことを演じようとすれば
それは即座に脚本家の知るところとなり台本から消されてしまうのですから。

我々の運命を握っているのは脚本家である神なのです。


さて、神によって書かれた運命の台本。

現代における主人公とは果たして誰なんでしょうか?

いわゆる大国と呼ばれる国の首領達なのでしょうか?
それとも、まだ主人公は歴史の表舞台には現れていないのでしょうか?


物語は今、起承転結で言えばどの辺りなんでしょうか?
そして、この壮大な物語の結末は?

やはり、人類の滅亡なのでしょうか?
それとも、人類の大いなる発展・・・つまりはハッピーエンドなのでしょうか?

いずれにしても、そんなことは
ひとつの小さな歯車に過ぎない私なんかには知り得ないことに違いありません。

そして、考えてはいけないことなのです。


今年もホームページ『夢の樹舎』に
クリスマスストーリー(ショートストーリー)を掲載しました。



*夢の樹舎をクリックするとホームページが開きます。

    夢の樹舎

短編小説 → X'mas stories にお入り下さい。

今年のタイトルは
「クリスマスなんて大っ嫌い!」です。






私のホームページ『夢の樹舎』に
今年の七夕ストーリー「星のクロスロード」を掲載しました。

下記のホームページタイトルをクリック
 『夢の樹舎』

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 2017/7/7
 「星のクロスロード」



今年のクリスマスストーリー(短編小説)

私のホームページ
「夢の樹舎」に掲載しました。

     ↓

  Dear My Christmas


隣町

あれは確か・・・

私がまだ
小学校に上がるか上がらないかの頃の事です。

季節は・・・そう、夏だったと思います。

田舎に住んでいた私は
祖父の用事について従兄弟達数人と一緒に
隣の町まで歩いて行く事になりました。

当時、昭和三十年代後半の農村では
未だ今みたいに
各家庭に車がある時代ではありませんでした。


隣の町までは山の谷間に沿った林道のような砂利道を
左手に川を眺めながら歩きます。
一本道で当然近道なんてありません。
大人の足でも二時間くらいだったと思いますから
子供だとゆうに片道三時間はかかったはずです。

それでも私達がどうしても祖父について行きたかったのには
当然訳がありました。

それはアイスキャンデーです。

隣の町には
その界隈でただ一件のアイスキャンデー屋さんがあったのです。

今なら、そんな苦労をして歩かなくたって
すぐ近くのコンビニで買って帰れば
アイスキャンデーが溶ける前には家に着きます。

でも、あの時代は大人の足でも二時間の道。
アイスキャンデーを溶かさずに持って帰れる訳もありません。

何時間かかろうが自分で歩いて行かなければ
アイスキャンデーは食べられなかったのです。

しかも、そのアイスキャンデー屋さんも
なんせ北海道の田舎の事ですから
営業をしているのは七月と八月の二ヶ月間だけでした。

その二ヶ月の間に祖父に隣町への用事が出来るなんて
それすら滅多にある事では無かったのですから
祖父が隣町に行くと聞いた時
子供達は何をさておいてもついて行くと利かなかったのです。



私達は時には手を繋いで歌を歌いながら
時には追い駆けっこをしながら歩いていました。

祖父はニコニコしながら言います。

「おい、あんまり先に行ったら迷子になるぞ!」

とか、言いながら
いつも私達に少し遅れて歩いていました。


今、思えばきっと
誰かが遅れたり道から逸れたりしないように
私達を後ろから見守りながら歩いてくれていたのでしょう。

でも遊びに夢中の私達は
そんな事など考えもしませんでした。


歩き始めるとアイスキャンデーの事なんか忘れて
私達は遊びに夢中になっていました。


「よし、今度は尻取りをしながら行こうぜ」

「じゃ、僕からで良い?」

「何でだよ? 俺からだよ!」

「嫌よ、私が先!」


でも、二時間も経つとさすがに疲れも出て私達の口数も
動きもシュンとなっていました。

そうこうして歩いていたら
従兄弟の中の年長者が道路脇の草を一本抜いて私達に言いました。

「おい、これ知ってるか?」

そう言いながら草を唇に当てると
最初はビービー鳴らしてから
それからメロディーを鳴らし始めました。
草笛です。

「あっ、その曲知ってる!」

「ねぇ、ねぇ、どうやるの? 教えて!」


一気に元気を取り戻した私達は
そんな調子でワイワイ言いながら又更に歩き続けました。



どれくらい経ったでしょう。

「あー! 町が見えたよ!」

先頭を歩いていた従兄弟の一人が
叫びながら小走りに戻ってきました。

「ほら、あの先!」


それを聞いて私達は我先にと走り出しました。


そしてまもなく山間を抜け景色が開けてくると
そこには幾つもの家並みが見えてきました。

見覚えのある景色。
見覚えのある家々。

着いたそこは私達が住んでいた集落でした。





「行きと帰りの記憶がごっちゃになってるんじゃないの?」

「なんせ子供の頃の事でしょ?
 記憶が曖昧でも仕方がないよね」

「夢でも見てたんじゃない?」

きっと、読んだ皆さんはそう言うでしょうね。
或いはそうだったのかもしれません。
でも、今はもう確かめる術もないんです。

あの時、一緒に行った祖父はもちろんですが
あれから数年の内に
まるで<何か>に祟られでもしたかのように
或る従兄弟は病気で、或る従兄弟は事故で
又、或る従兄弟は行方不明になってしまい
誰にも確認が出来ないでいたのです。

何故か私一人だけが生き残ってしまいました。
それが良かったのかどうかは解りません。
あの日の真実を誰にも確かめる事も出来ないまま
今も答えの出せない問いに繰り返し自問自答を続けています。

夏が来る度に・・・



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