Neko

夢の汽車に乗って ショートストーリー

プロフィール

yumenokisya

Author:yumenokisya
現住所 北海道十勝国

 好きな言葉は
『なんとかなるべさ』

 そう、生きてさえいれば
何とかなるもんです。。。
   


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今まで、神が仕掛けた計画の幾つかについて話をしてきました。

私は続きを書くべきかどうか悩んでいます。
果たして、私のような一介の歯車でしかない人間がこれを書いて良いのか?

この暴露をした時、私はどうなっているのでしょう?
世界はどうなってしまうのでしょうか?
いや、それでも私は書いてしまうでしょう。

もちろん、そんなことは
神の書いた台本には書かれていないはずですが
世界の秘密を知ってしまった以上
それを書くことこそが私の使命であり
これこそが私に課せられた運命なのだと改めて心に刻みました。

神が私達人間に一番知られたくない真実。
それを私はこれから書こうとしています。


そのことに気付いたのは小学生くらいの頃です。
私はふと考えついてしまったのです。

「今まで一緒に遊んでいた友達。
 『じゃあ、また明日な』と言って
 家の前の角で別れて視界から消えたけど
 ボクが見ていないところであいつは何をしているんだろう?」

「ボクが学校に行っている間
 お父さんとお母さんは何をしているんだろう?
 お父さんは仕事に行ったはずだけど
 ボクはお父さんが働いているところを見た事がない。
 ボクが学校から戻ると家には洗濯物がほしてあったり
 お母さんは食事の支度をしたりしているけど
 ボクが学校に行っている間
 お母さんはどうなっているんだろう?」

もしかして、ボクの視界を消えた途端に
出番の終わったマリオネットのように
動きを止めているんじゃないのか?

で、ボクの視界に入った瞬間
それらはまた、何事も無かったかのように動き出す。

もしかして、この世界で生きているのはボクだけで
他の人はお父さんもお母さんも友達も皆みんな
ボクがどう生きるのかという実験における
小道具みたいなものなんじゃないのか?


そう感じた時の感覚をどう表現すれば良いのでしょうか?
周りの人達を見た時の言い様もない違和感。

「ボクは気が狂ってしまったのか!?」

「そう、まさにお前は気が狂ってしまったんだよ」

そうですね。
それが正常な反応なんだと思います。

じゃ、訊きますが。

「あなたは、あなたの見ていない時に
 他の<人間達>がどうなっているのかを見たことがあるのですか?」


例えば、こんな経験はありませんか?

あなたが、急にドアを開けた瞬間。
中にいた人が驚いた顔であなたを見つめて冷や汗をかいている姿を。

それは、単に驚いたからでしょうか?
いや、多分驚いたのは事実でしょう。

しかし、それはあなたに自分達の正体を見られたのではないか?
そう一瞬感じてしまったからかもしれません。

そうじゃないと言い切れる根拠はありますか?


みんな自分と同じように生きていて、それぞれの生活をし
それぞれの行動を取っている。

「当たり前じゃないか」

本当に?

そう信じているだけではないのですか?
疑ったことがないだけじゃないですか?

自分以外もみんな同じ人間で間違いないですか?

そう言い切れる自信はありますか?


例えば、これは何に見えますか?

「O」

ただの丸ですか?
数字のゼロですか?
それともアルファベットのオーですか?

では、これは?

「OO」

丸が二つですか?
ゼロゼロですか?
オーオーですか?
或いは、そこに何か二文字の言葉を当てはめますか?

問題を出した人が答えを明示しない限り
自分の出した<答え>が正解かどうかは誰も解りません。

数学の問題ではないのですから。

つまりは、私がここで書いたことが真実なのか?
単に嘘八百を並べたデタラメなのか?

どうですか?

あなたには判断出来ますか?
単に、自分が考えたこともないことを言われたから
常識だけで考えて反論しているだけではないですか?

それでも、あなたは私の気が狂っただけだと言い切りますか?


いや、もしかしたら<ボク>さえも本当は人間ではなくて
意志を持った(と、思わされている)一体のマリオネットなのかもしれません。

マリオネットと言っても、それは
良く知っている糸で繋がれた人形を人間が操っているというソレではありません。

象徴をする意味で、この言葉を選びましたが。


さて、この広い宇宙には人類が生存出来る
いわゆるハビタブルゾーンに属するとされる惑星は数億個とも言われています。

それでは何故、我々人類は異星人を発見する事が出来ないのでしょう?

昔から「UFOを見た」とか「異星人に遭遇をした」なんて話は山ほどあります。
古代の壁画に描かれた鳥のような<人>や
蛇が人間に知恵を授けているところだとされる壁画。
或いは、まるでヘルメットでも装着しているが如くの人らしきモノが描かれている壁画。

壁画に描かれたそれらの<人>は宇宙人だと言う人がいます。

宇宙人が人間に知恵や技術を授けたからピラミッドも作ることが出来たし
物資さえ運ぶのも困難な険しい山の頂に都を作ることが出来た。

しかし、人間に知恵を授けたのは本当に宇宙人なのでしょうか?
私達は過去に地球に訪れて人間に知恵を授けた宇宙人を神と崇めたのでしょうか?


神は実験をしています。

テーマは『完全な人類を創れるのか?』


神は今まで、何度も実験をし、その度に失敗を重ねてきたのです。
そして、その都度いったん造った星を人類共々破壊してきました。

陶芸作家が失敗作を地面に叩き付けて壊すように。


神は星を造り、人類を創り、知恵を授け、その進化を促してきました。
それは何故なのか?

完璧な人類のみが唯一、神を完璧な<存在>に出来るのです。

まだ、その実験は一度も成功をしていません。

何故なら、神は未だ完璧ではないからです。
不完全な存在に完全な存在は造れません。

なので、神は何度も何度も失敗を繰り返しながらも実験を止めてはいないのです。

だから、人類は他の異星人には<未だ>出会えていないのです。
存在しないものには出会えるはずもありません。

もし、その可能性があるのだとしたら
いわゆる<神>は複数いて
それぞれが<持ち場>の銀河で競い合うように実験を繰り返している場合です。

当然、それぞれの神の能力にも差はあるのでしょうから
他の神より一歩も二歩も進んだ実験を行っている神がいるかもしれません。

だとすると
中には自分の銀河を超えるところまで人類を進化させる事ができた神がいても
それは不思議ではありません。

その人類が地球に来たのを喜んで地球の神が迎えたか
或いは、疎んで人類の目から隠し通したか解りませんけどね。


ともあれ、神は考えました。

「まずは完璧な人間を一人造ろう。
 完璧な人間が一人出来さえすれば、後はコピーをすれば良い」

そこで、神は色々な<タイプ>の人間を造っては実験を繰り返しているのです。

知能、容姿、運動能力、使う言語、思考回路等々。
それぞれを少しづつ変えては実験を繰り返しています。

或いは、環境を変えて。
それが他次元世界の手法なのかもしれません。

「いったい、どの組み合わせなら完璧な人間になるだろう?
 何を足せば、或いは何をどう変えれば人間は完璧になるだろう?」

その繰り返し造られた中の一人が<私>なのです。

ですが、どうやら<私>も神にとっては完璧ではないようです。
失敗作であるが故に、神の所業を暴露するなどと暴挙にでているのです。

いや、それは神に対する<私>の復讐なのかもしれません。
私は神の意志に逆らって自分の意志を持ってしまったのです。

しかも、絶対に人間には知られてはいけない秘密と共に。

それを暴露してしまった以上はいずれ私も覚悟はしています。


そして、神はまた次の人間を造ろうとするのでしょう。
完璧な<最初の人間>を求めて。

ですから、私以外の<人間>は実は人間ではないのです。




さて、今まで神の計画に関する三つの秘密を書いてきました。
そして、これから最後にして最大の秘密を書こうとしています。

それに比べたら今まで書いてきた三つの秘密は幼児向けの絵本みたいたものです。

「これを書き上げたら本当に世界は終わるかもしれない。
我々人類が生き残るのか?それとも〈神〉が生き残るのか?」

私は三十年以上も悩み続けてきました。
そして、この問題に決着を付けるべく、パソコンに向かいました。

ところが、最初の一文字を打とうとしたその瞬間・・・


私の脳内で何万年にも渡って築かれてきた人間の歴史。
いや、それは神が成そうとしてきた計画の歴史に他ならないのですが
次々と<過去>を行きつ戻りつ様々な映像がフラッシュバックされていきました。

それらは、或る意味
歴代の選ばれし者から引き継いだ〈記憶〉とでも言えば良いのでしょうか?

そして、それはどのくらいの時間だったでしょう。
何万年にも思いましたし、或いはホンの数秒だったかもしれません。

ただひとつ言えることは
私のような<普通>の人間の脳で処理をするには
あまりに膨大過ぎる量だったという事です。

『神は私の気を狂わそうとしている!』

初めはそう思いました。
そして、脳内で起きていることを全力で拒絶しようと試みました。

しかし、それが無駄だと知るのにそう時間は必要ありませんでした。

私は神の成すがままにそれらを受け入れていきました。
そうせざるを得なかったのです。
或いは、それも神の意志だったのかもしれません。

心の中の葛藤がそのうち耐えがたいほどの激痛に変わっていき
しかし、その中でも私は何故かとても冷静で
『本当に気が狂うのだ』と、ただそれだけを確信をしていました。

しかし、それも一瞬でした。

やがて、ひとつづつ霧が晴れるように
そして、私はついには神の計画の全てを知るに至りました。


もう、思い悩む必要はありませんでした。

神の計画の全てを暴こうとしたこと自体が間違いだったことに気付いたのです。

或いは、それこそが神による洗脳だったのかもしれません。
しかし、今の私には解りません。

真実とは?
正義とは?

それらを私達は唯一無二のものだと信じてきましたが
どの方向から見るかで変わり得るものです。

それでは、神の真実とは?
神の正義とは?

そして、人類にとっての真実とは?
人類にとっての正義とは?

神から見た人類の横暴。
人類から見た神の横暴。

誰がそれを裁けると言うのでしょう。

どちらも、お互いにとって無くてはならない存在だというのに。


私は神と約束(或いは契約というべきか)を交わしました。

神の計画。
その秘密と引き替えに私は人類の二千年間の<存続>を神に約束させたのです。

存続・・・その意味は深いかもしれません。

そもそも、神が一介の人間との約束を守るのか?

例え、いくら神が約束を守ったとしても
人間が自ら破滅へと突き進んでしまうのではないのか?

しかし、地球上の人類が半減してしまったとしても
仮に絶滅しかかったとしても
そこに僅かでも生き延びる人類がいれば
或いは、自らを戒めながら再び繁栄への道を歩んでいけるかもしれません。

いつかの時代のノア(の箱船)のように。

それも含めての存続なのです。


残念ながら永遠にという契約は結べませんでしたが
それは次の〈選ばれし者〉に託そうと思います。


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果たして、何の意志も介在することなく
何もない<無>から有機物が誕生し、
やがて、幾世代も時間はかかったかもしれませんが
海に陸に空に幾千、幾万種類もの生物が産まれ進化を続けてこれたのしょう?

しかも、ほ乳類と呼ばれる生物の中で
何故、人間だけが知恵を持ち、文明を作ることが出来たのでしょう?

本当に、そこには何の意志も介在していなかったのでしょうか?


もしも今、私達が生きていると思っているこの人生が
実は誰かの創作したドラマだとしたら?

もしも、自分の意志で人生を選びながら生きていると思っていることが
実は誰かの台本の通りに演じさせられているのだとしたら?

私達はただそれを勝手に運命だと思い込んでいるだけだとしたら?

そんな事を考えたことはありませんか?


我々は映画やテレビでドラマを観ます。

例えば、十年に渡る出来事でも映画では僅か二時間程度に縮尺されます。
テレビドラマだとどんな事件でも一時間足らずで完結したりします。


地球上に人間が誕生をし人間がやがて滅びるまでの
何万年にも渡る壮大なドラマの中で
自分の演じる役割は僅か八十年ほどで
それは長い何万年ものドラマの中では一瞬にも満たない出番ではあります。

しかし、何十億ものピースのどれが欠けてもドラマは成立しません。


誰かは分かりませんが、台本を書いている者
つまり脚本家を仮に神としておきましょうか。


神は綿密にプロットを練って、エピローグに向けた物語を紡いでいきます。

どのタイミングでどのように人間を進化させていくのか?
そして、その先にはどういう結末を思い描いているのか?

つまりは、そんなドラマだと思ってください。


人間を進化させるキッカケとして
その都度、天才と呼ばれる人間を登場させ他の人間達を導く役を与えました。

彼らが時代の主人公となり、いわゆる人類の歴史を形成してきました。

では、その主人公とは?

創世期は多分、アダムとイヴだったのでしょう。
それからしばらくは、その子孫達が主人公を引き継いでいたのかもしれません。

私達が神話だと思っている、ノアやモーゼはどうだったでしょう?
神はゲーテに神曲で何を語らせたかったのでしょう?

おそらくはイエス・キリストも?

ジュリアス・シーザーやナポレオンももしかしたら
その時代の<選ばれた>主人公だったのかもしれません。

分野を変えてみると、大天才と呼ばれるレオナルド・ダヴィンチ。
アインシュタインはどうだったのでしょう?

長い歴史の中には時代の寵児と言われた人。
つまり
歴史を動かした人、歴史に影響を与えるほどの活躍や発明をした人は数々います。


しかし、歴史が示す通り、時として神が良かれと超天才を登場させた時
神の意志・意図するところと無関係に
時には台本を無視し予期せぬ方向に物語を動かそうとする事態さえ起きました。

神はその度に、物語の修正を迫られました。

そこで突発的な自然の大災害や大きな戦争を台本に書き込みました。

或いは、ヒトラーなども神によって修正加筆された人物だったのかもしれません。

図らずも、そのおかげで神の描いた物語は展開の起伏を生み
さらに壮大なドラマとなっていったのです。


例えば、アトランティスやムー大陸は何故、高度な文明を持ちながら
海の底へと沈んでいったのでしょう?

しかも、歴史からその痕跡さえも全てを隠滅するかのように。

今から見ても高度だと思われる古代文明は他にも幾つもありました。
それらの住民達は何故、遺跡だけを遺して
或る日こつ然と歴史の舞台から消えるようにいなくなってしまったのでしょう?

あのピラミッドでさえ今の科学・文明の利器を駆使しても
建造には何百年もかかると言われています。

しかも、今みたいにスーパーコンピューターなど無かった時代に
どうしてあれほど緻密に計算された建造物を作ることが出来たのでしょう?

そもそも誰がどうやって発想し、その場所にはないはずの大きな石を
何処で切り出し、運び、あれほどまでに美しく積み上げることが出来たのでしょう?

その時代は天文学的にも今以上の高度な知識を持っていたとも言われています。

何故、人間はそれらの知識や技術、経験を現代まで継続出来なかったのでしょう?

例えば、誰か一人くらいは、その時代の知識や技術を持って
生き延びることは出来なかったのでしょうか?

例えば、誰か一人くらいは、その時代の知識や技術を
何かの方法を以て<未来>に遺す、或いは伝えようとは出来なかったのでしょうか?

方法が無かったとは思えません。

では何故?

もしかしたら
歴史の影に埋もれた私達の知らない文明が他にもまだ沢山あったのかもしれません。

人類の歴史とは、或る意味では文明の進化と滅びの歴史でした。

そこには誰のどんな意図があったのでしょう?

神の啓示・・・つまりは神の台本に基づいて人間の進化を促す為の導きがあった。
そう考えるのが自然なのかもしれません。


我々が観る映画やテレビドラマは一面です。

その背景だとか、幾多の登場人物の絡み具合も
ナレーションだとか登場人物の昔語りで表現をされます。

しかし、我々が演じている演技を観ている者達は
全ての俯瞰を遠回しにして観ているのです。

例えれば
何百もの歯車を持ったカラクリ時計をひとつの全体として見た時のようなものです。

小さなひとつひとつの歯車がどう回っていて、何処が何処とどう関わっているのか?
普通はそこまでは気にせずに見ますよね。

でも、その中のたったひとつが欠けたりすれば時計は止まってしまいます。

つまり、我々が演じているのはその小さなひとつの歯車で
観ている者にとっては大して注目に値するようなものではないのです。

しかし、エキストラにもセリフがあれば台本があります。

我々は意志を持った個々の人間として台本には確かに書かれているのです。
そして、それを粛々と演じているのです。


演者は余計なことを考えてはいけません。
ましてやアドリブなど許されるはずもないのです。

そして、演者は考えてはいけないのです。

「このドラマって、どんな人が観ているんだろう?
 この先、何が起こって、何がどうなっていくんだろう?」


我々は粛々と演じていれば良いのです。
余計なことを考えたり、不要なことを演じようとすれば
それは即座に脚本家の知るところとなり台本から消されてしまうのですから。

我々の運命を握っているのは脚本家である神なのです。


さて、神によって書かれた運命の台本。

現代における主人公とは果たして誰なんでしょうか?

いわゆる大国と呼ばれる国の首領達なのでしょうか?
それとも、まだ主人公は歴史の表舞台には現れていないのでしょうか?


物語は今、起承転結で言えばどの辺りなんでしょうか?
そして、この壮大な物語の結末は?

やはり、人類の滅亡なのでしょうか?
それとも、人類の大いなる発展・・・つまりはハッピーエンドなのでしょうか?

いずれにしても、そんなことは
ひとつの小さな歯車に過ぎない私なんかには知り得ないことに違いありません。

そして、考えてはいけないことなのです。


今年もホームページ『夢の樹舎』に
クリスマスストーリー(ショートストーリー)を掲載しました。



*夢の樹舎をクリックするとホームページが開きます。

    夢の樹舎

短編小説 → X'mas stories にお入り下さい。

今年のタイトルは
「クリスマスなんて大っ嫌い!」です。






私のホームページ『夢の樹舎』に
今年の七夕ストーリー「星のクロスロード」を掲載しました。

下記のホームページタイトルをクリック
 『夢の樹舎』

トップページから「短編小説」
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 2017/7/7
 「星のクロスロード」



今年のクリスマスストーリー(短編小説)

私のホームページ
「夢の樹舎」に掲載しました。

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  Dear My Christmas


隣町

あれは確か・・・

私がまだ
小学校に上がるか上がらないかの頃の事です。

季節は・・・そう、夏だったと思います。

田舎に住んでいた私は
祖父の用事について従兄弟達数人と一緒に
隣の町まで歩いて行く事になりました。

当時、昭和三十年代後半の農村では
未だ今みたいに
各家庭に車がある時代ではありませんでした。


隣の町までは山の谷間に沿った林道のような砂利道を
左手に川を眺めながら歩きます。
一本道で当然近道なんてありません。
大人の足でも二時間くらいだったと思いますから
子供だとゆうに片道三時間はかかったはずです。

それでも私達がどうしても祖父について行きたかったのには
当然訳がありました。

それはアイスキャンデーです。

隣の町には
その界隈でただ一件のアイスキャンデー屋さんがあったのです。

今なら、そんな苦労をして歩かなくたって
すぐ近くのコンビニで買って帰れば
アイスキャンデーが溶ける前には家に着きます。

でも、あの時代は大人の足でも二時間の道。
アイスキャンデーを溶かさずに持って帰れる訳もありません。

何時間かかろうが自分で歩いて行かなければ
アイスキャンデーは食べられなかったのです。

しかも、そのアイスキャンデー屋さんも
なんせ北海道の田舎の事ですから
営業をしているのは七月と八月の二ヶ月間だけでした。

その二ヶ月の間に祖父に隣町への用事が出来るなんて
それすら滅多にある事では無かったのですから
祖父が隣町に行くと聞いた時
子供達は何をさておいてもついて行くと利かなかったのです。



私達は時には手を繋いで歌を歌いながら
時には追い駆けっこをしながら歩いていました。

祖父はニコニコしながら言います。

「おい、あんまり先に行ったら迷子になるぞ!」

とか、言いながら
いつも私達に少し遅れて歩いていました。


今、思えばきっと
誰かが遅れたり道から逸れたりしないように
私達を後ろから見守りながら歩いてくれていたのでしょう。

でも遊びに夢中の私達は
そんな事など考えもしませんでした。


歩き始めるとアイスキャンデーの事なんか忘れて
私達は遊びに夢中になっていました。


「よし、今度は尻取りをしながら行こうぜ」

「じゃ、僕からで良い?」

「何でだよ? 俺からだよ!」

「嫌よ、私が先!」


でも、二時間も経つとさすがに疲れも出て私達の口数も
動きもシュンとなっていました。

そうこうして歩いていたら
従兄弟の中の年長者が道路脇の草を一本抜いて私達に言いました。

「おい、これ知ってるか?」

そう言いながら草を唇に当てると
最初はビービー鳴らしてから
それからメロディーを鳴らし始めました。
草笛です。

「あっ、その曲知ってる!」

「ねぇ、ねぇ、どうやるの? 教えて!」


一気に元気を取り戻した私達は
そんな調子でワイワイ言いながら又更に歩き続けました。



どれくらい経ったでしょう。

「あー! 町が見えたよ!」

先頭を歩いていた従兄弟の一人が
叫びながら小走りに戻ってきました。

「ほら、あの先!」


それを聞いて私達は我先にと走り出しました。


そしてまもなく山間を抜け景色が開けてくると
そこには幾つもの家並みが見えてきました。

見覚えのある景色。
見覚えのある家々。

着いたそこは私達が住んでいた集落でした。





「行きと帰りの記憶がごっちゃになってるんじゃないの?」

「なんせ子供の頃の事でしょ?
 記憶が曖昧でも仕方がないよね」

「夢でも見てたんじゃない?」

きっと、読んだ皆さんはそう言うでしょうね。
或いはそうだったのかもしれません。
でも、今はもう確かめる術もないんです。

あの時、一緒に行った祖父はもちろんですが
あれから数年の内に
まるで<何か>に祟られでもしたかのように
或る従兄弟は病気で、或る従兄弟は事故で
又、或る従兄弟は行方不明になってしまい
誰にも確認が出来ないでいたのです。

何故か私一人だけが生き残ってしまいました。
それが良かったのかどうかは解りません。
あの日の真実を誰にも確かめる事も出来ないまま
今も答えの出せない問いに繰り返し自問自答を続けています。

夏が来る度に・・・


『なぁ、来週の土曜日にこっちに遊びに来ないか?
 どうせヒマなんだろ?』

この前みんなで会ってから一ヶ月ほど経った頃に晃から電話があった。

「ヒマじゃないよ。こう見えてもけっこう忙しいんだ」

『どうせ洗濯とか部屋の掃除だろ?』

図星を突かれて俺は思わず苦笑するしかなかった。

『それじゃ決まりな』


朝一番の列車を乗り継いで午後には故郷の風景を車窓に臨んでいた。
駅に着くと晃が迎えに来てくれていた。

「おう、お疲れ!」

「あぁ、ただいま」


晃の家に向かう車の窓からアーケード商店街の中央広場に大きな七夕飾りがあるのが見えた。

「そっか、今日は七夕だっけ?」

「知ってるか? ここの七夕飾りは望みが叶う事で有名なんだぜ。
 願い事を書いた短冊を飾って、それを好きな人に見てもらえるとその恋が叶うんだってさ。
 お前も書いてみたら?」

「いったい誰に見せろって言うんだよ?」

「さぁな。誰か見てもらいたい人っていないのか?」

「いないよ。残念ながらね」

「美奈子は?」

「もう昔の事だよ。美奈子だってもうとっくに忘れているさ。
 今更蒸し返したってどうしようもないよ」

「そうかな?」

「あぁ。でも、そんなの昔あったっけ?」

「いや、十年前からだ」

「何か云われになるような事でもあったのかい?」

「あぁ」

「ほぉ、それは興味あるね。で?」

「アーケード商店街がリニューアルしてな。
 たまたまその時期が七夕だったもんで盛大に七夕祭りをやる事になってさ」

「うん」

「で、目玉に何か作ろうってなって大きな七夕飾りを飾るようになったのさ」

「それで?」

「それで? それだけだよ」

「何だよ、それ? じゃ、願い事がどうってのは?」

「そんな事、言ったっけ?」

「おいおい(笑)」

「まぁ、云われとか迷信なんてそんなもんだよ。
 多分、若い奴らが面白がって言い出したんじゃない?」

「やれやれ」

「なんだい? ガッカリしたのか?」

「かもね(笑)」

「まぁ、生きてりゃ良い事だってあるさ」

「何だそれ?」


晃の家で有希の手作りの夕飯をご馳走になった後で三人で商店街に繰り出した。

七夕飾りを大きく囲むように出店が並んでいてかなりの人出だった。
昔では考えられないほどの賑わいだ。


「けっこう人が出てるね」

辺りを見渡して俺は言った。

「あぁ、毎年人出も増えているらしいよ」

そこに有希が何処からか戻って来た。

「もらって来たよ」

手にレジ袋と何か紙のようなモノを持っていた。

「よし、じゃあ書くか。今年こそは当たりますように!」

そう言うと晃はその紙を両手に挟んで神頼みのかっこうをした。

「それは?」

「短冊だよ」

「って、言うか抽選券ね」

有希がその紙を見せてくれた。

「抽選券?」

「ここの出店で五百円買う毎に一枚抽選券をくれるの。


「それはともかく、お前もこれに何か書けよ」

「いや、だから・・・」

「違うんだ。去年からイベントが始まってさ。
 この短冊が抽選券になっていて
 願い事をひとつと名前を書いて箱にいれるんだ。
 司会者が短冊を引いて当たると豪華景品が当たるんだぜ。
 今年の特賞はハワイ旅行なんだ。
 実は俺らは新婚旅行に行ってなくてな」

「お前、それが目的で俺を呼んだのか?」

「いや・・・あはは、すまん!」

晃は腰を九十度くらいに折り曲げて頭を下げた

「そんな理由で俺を呼んだのは腹が立つけど
 有希ちゃんには俺も世話になったからな。
 しゃーない、協力するよ」

「すまん!」



カラオケ大会だとか地元の学生バンドの演奏だとか
賑やかに七夕のイベントも進んで八時を過ぎた頃から抽選会が始まった。

「なぁ、何て書いたんだ?」

晃がそう言ってニヤニヤ笑いながら訊いてきた。

「何だって良いだろ?」

どうせ当たる訳はないと思って書いたものの
こいつにだけは知られる訳にはいかないと苦笑した。


ステージ上での抽選会は地元FMの人気DJ氏が司会を務めていて
その傍らにはおそらくは二十歳前後だろうか
<ミス七夕>のタスキをかけた若い女性がアシスタントについていた。


順番に抽選が進んでいったが俺はもちろん晃も有希も一向に当たる気配すらなかった。
そしていよいよ残りは特賞のみになった。

「やっぱ、今年もダメだったか。
 すまんな、お前まで引っ張りだしたのに」

申し訳なさそうに晃が呟いた。

「なぁに、まだ勝負はこれからさ」

「そうよ、最後に笑うのは私よ!」

有希は抽選券の半券を両手で胸に当てていたが
その片方の指を少しずらすと小さくピースサインを出した。


「さて、それでは!
 はい、いよいよ特賞の発表を残すのみとなりました。
 それでは最後の一枚を引いていただきましょう!
 皆さん、心の準備は良いですか?
 いきますよ! さぁ、今年の特賞は誰の手に渡るでしょう!
 お願いしまーーーーーす!」

DJ氏が促すとミス七夕が
抽選用紙の入った箱をゆっくりグルグルかき回して
やがてゆっくりと抽選箱の口から一枚の抽選券を取り出して大きく上に掲げた。

「さぁ、皆さん! 注目ですよー! どうぞ、お名前を読み上げてください!」

そう言うとDJ氏はミス七夕の口元にマイクを向けた。
ミス七夕はひとつ大きく深呼吸をすると
名前を改めて確認してからゆっくりと読み上げかけた。

晃と有希が固唾をのんでその瞬間を見守っていた。

「特賞は・・・」

そこでミス七夕がまたひとつ大きく深呼吸をした。
ここでワザとタメを作るのも場を盛り上げる常套手段だ。

「おーい! 早く読み上げてくれよー!」

観客からも歓声が飛んだ。

最早、泣きそうな感じで晃が祈る。
有希も両手を合わせて強く目を閉じていた。

覚悟を決めたかのようにミス七夕はついに名前を読み上げた。

「特賞は・・・山崎和也さんです! おめでとうございます!」

DJ氏が当選した抽選券を受け取って会場に呼びかけた。

「山崎和也さん!
 いらっしゃいますか?
 この場にいなかったら無効ですよーーー!」


「きゃー! 和也クン、当たったわよ! さっ、早く早く!」

そう言うと有希は俺を急かせてステージの方に背中を押した。


会場のお客さん達のヤジとも歓声ともつかない声にはやし立てられて
かなり照れくさかったがDJ氏に促されて俺はステージに上がった。
軽くお辞儀をしながら壇上を進むとDJ氏の拍手に招かれるままに中央に立った。

スポットライトが当てられているせいか緊張のせいなのか
俺はこの場違いな雰囲気に気押されて汗だくになっていた。
なんせ、こんな事は生まれて初めての経験だ。
俺は逃げ出したくなる気持ちを必死に抑えつつ
心持ちか震える手を抑えるように両手を後ろ手に組んで何とか落ち着こうとしていた。

DJ氏は満面の笑みでマイクを俺に向けた。

「おめでとうございます! えー、山崎さんですね?
 今日はどちらからおいででしたか?」

「S市からです」

「あら、わざわざですか? この為に?」

「あっ、いや・・そう言う訳では・・・」

「んー、それは困ったなぁー 
 この為にじゃないとするとずっと待っていた地元の人が怒っちゃいますね」

その声に会場から歓声が飛んだ。

「そうだ、そうだ! 抽選やり直しーーー!」

「あっ、それじゃ・・・」

弱気になった俺にDJ氏が笑いながら言った。

「あはは、冗談ですよ。
 遠い所からおいでいただいた甲斐がありましたね。
 おめでとうございます! さっ、目録です」

特賞の目録を手渡すとDJ氏は俺にマイクを向けて訊いた。

「ところで何て書いていただいたんですか?
 どれどれ・・・ほぉ、なるほど。もし良かったら読み上げても良いですか?」

にこやかな笑顔でDJ氏は俺の返事を待っていた。

「あっ、いや・・・それは・・・」

俺はしどろもどろになった。
DJ氏が改めて俺に返事を促した。

「オホン、特賞が当たった方の願い事を読み上げて
 この会場のみんなで一緒に願うのが慣わしなんですよ。
 それともやっぱり、権利を放棄しますか?」

壇上で困っている俺に晃が無責任に声を飛ばした。

「和也、ハワイだぞ、ハワイ! 読め-!」

「応援の方ですね。あー言ってますが、どうします?」

この場の空気を白けさせる事は出来ない。
かと言って、こんな大勢の面前でアレを読むなんて絶対に無理だと思った。

余程と思ったのか? 見かねてDJ氏は助け船を出してくれた。

「もし、差し障りがあるようでしたら答えなくてもけっこうですよ。
 私だってそこまで悪党じゃありませんからね。
 ただ、ものすごーくこの内容には興味はありますが」

DJ氏はそう言うともう一度抽選券に書かれていた文字を目で追った。

「いや、その・・・ちょっと・・・その、勘弁してください。
 まさか、当たるなんて思っていなかったもので・・・つい・・・」

俺はますますしどろもどろになって言った。
そんな俺にDJ氏は笑顔で続けた。

「判りました。けっこうですよ。
 誰にだって、そっと大切にしておきたい想い出とかってありますものね。
 それでは抽選券もお返しいたしますので、後でぜひあそこの七夕飾りに下げてください。
 その願い、きっと叶いますよ」

「は、はい」

「それではS市からおいでいただいた幸運な山崎さんにもう一度、大きな拍手をどうぞ!
 願い事が叶いますように!」

DJ氏はそう言うと俺の肩を抱いて会場を見渡して来場者の拍手を促した。



「この後は係の者が説明をしますのでステージの後ろのテントへどうぞ」

ミス七夕に促されてステージの後ろの階段を下りると
俺はミス七夕の後について事務局のテントに入っていった。

「お母さん、特賞の方をお連れしたわよ」

ミス七夕のその声に
事務服を着た四十代くらいの女性が愛想良く一礼をして迎えてくれた。

顔を上げて俺と目が合った瞬間、その女性の笑顔がこわばった。

「えっ!? 和也・・・? まさか・・・」

商工会議所で事務員をしているという美奈子だった。


「えっ? お母さんの知り合い?」

突然の再会に戸惑っていた二人を交互に見ながらミス七夕が驚きの声を上げた。

「えっ? あ、あぁ・・・そうね。ご無沙汰していました」

美奈子は俺に又、お辞儀をした。

「あぁ、しばらくだね。元気だった?」

とっさに繕ったつもりの俺の笑顔もきっと引きつっていたかもしれない。

「えぇ。なんとか」

「そっか。良かった・・・」

ぎこちない雰囲気の二人にミス七夕は気を遣ったのか努めて明るく言った。

「私、お邪魔ね。外に出てるわ。あっ、山崎さんでしたっけ?
 私、娘の真奈です。後の説明とかは母に任せますので」

真奈ちゃんはそう言うと軽くお辞儀をしてテントの外に出ていった。


真奈ちゃんは俺の抽選券に書いた言葉も読んでいたはずだ。
それが母親の事だという事にもきっと気付いたに違いない。

『まさか、こんな事になるなんて』


「あの・・・」

美奈子はハワイ旅行のパンフレットを差し出すと伏し目がちに言った。

「あっ、はい?」

「とりあえず、説明を・・・」

「あっ、はい」

美奈子は丁寧に事務的な話をしてくれていたと思うけど
俺の耳には何も入っては来なかった。

その時、ふと晃と有希の顔が浮かんだ。

「あの・・・」

「はい?」

「あの、これって誰かに譲る事って出来るのかな?
 あの、俺の友人で結婚をして何年も経つのにまだ新婚旅行に行ってない奴がいて。
 で、その・・・出来ればその友人にプレゼントをしたいんだけど・・・」

美奈子は俺の顔を改めて見ると初めて笑顔になった。

「変わってないのね」

「えっ?」

「いつも自分の事より相手の事ばかり気を遣って」

「い、いや、そんなつもりじゃないんだけど」

それには答えずに美奈子は呟いた。

「私は・・・変わっちゃったな・・・」

「・・・」

「本当は当選は他の人には譲ったらダメなんだけど聞かなかった事にするわ。
 友人って有希のとこでしょ?」

「ふっ。君もやっぱり変わってないよ。
 勘の良いところと自分で責任を抱え込むところ。
 そして、やっぱり今も優しいところ」

「そんな事・・・私は和也を裏切ったのよ」

美奈子の目からは涙が溢れた。
俺は美奈子の言葉を打ち消した。

「いや、そんな風には思った事はないよ。
 ただ、あの時は君は君で精一杯に家族を支えようとしていた。 そうだろ?」

「・・・」

「きっと、お互いに迷子になっていたんだよ。
 目の前の事だけに一生懸命になるしかなくて
 自分の心を迷路の中に閉じ込めてしまってたんじゃないかなぁー」

「・・・」

「俺もそうだよ。仕事の事しか頭になかった。
 君の気持ちだとか、状況とか・・・
 そう。愛を押しつけようとしていただけだったんだと思う。
 今だから・・・その、そう思えるっていうか。
 あの頃は自分の事しか頭になくて『なんで?』とか、そんな風にしか思えなかった」

「お互い様よね」

「そう、お互い様だよ」

その時の俺の頭の中には<あの頃の事>が走馬燈のように繰り返し回っていた。


テントの入り口のところで隠れるように晃と有希が中の様子を覗いていた。
真奈ちゃんも一緒だった。

「押すな、おい、こらっ!」

「キャー!」

「えっ?」

驚いてテントの入り口の方を見るとそこに晃と有希が倒れ込んでいた。
その後ろには真奈ちゃんの心配そうな顔も見えた。

「いてて・・・」

腰をさすりながら晃は有希の手を引きながら立ち上がった。

「あはは、スマン。つい・・・」

「ごめんなさい」

有希も神妙な顔でこっちを言った。

「何やってんだよ?」

晃に向かってそう言ったものの
晃に対しても美奈子に対しても何だかとても気まずい体だった。

「あっ! お前、美奈子がここにいるって知ってたのか?」

「いや、そこまでは知らなかったよ。
 真奈ちゃんがミス七夕だってのは知ってたけどさ」

慌てて晃がそれを打ち消した。

「ホントだよ! それに抽選だってまさかホントに当たるなんてさ」

「ホントよねー しかも、和也クンの抽選券を選んだのが真奈ちゃんだなんて。
 これはもう運命じゃない? ねぇ?」

有希が晃に同意を求めた。

「おー、そうだよ! 絶対にそう! これはこうなる運命だったんだよ!」

晃は俺に言い含めるように言った。

「何が運命だよ? ねぇ?」

俺は思わず苦笑をしながら美奈子に向かって言った。
美奈子はただ微笑んでいた。

そこに真奈ちゃんがテントの中に入って来て美奈子に言った。

「お母さん、山崎さんって良い人だと思うわ。
 今でもお母さんの事を心配してくれていたのよ」

「えっ? 何の話?」

美奈子が怪訝な顔で真奈ちゃんに訊いた。

「あれ、抽選券に書いていたのってお母さんの事ですよね?」

真奈ちゃんは俺の方を向くと訊いた。

「えっ? いや、あれは・・・」

「おっ、何だい? それ気になるな。ねぇ?」

そう言って晃は有希を見た。
それから俺の方を向くと言った。

「和也、何って書いたんだよ? どれ、見せろよ」

「嫌だよ!」

「見せろって!」

「ダメだ!」

「良いじゃん、減るもんじゃあるまいし」

「減るよ」

「な、訳ないじゃん。見せろって。いや、見せてくださいませ」

「しつこい!」

「何だ? 今頃判ったのか?」

「もう良いよ」

「いや、良くない!」

「何でだよ?」

「俺が困る」

「何でお前なんだよ?」

「いい加減に観念しろって」

「嫌だよ。恥ずかしい」

「何? 恥ずかしい事なのか?」

そんな俺と晃のやり取りを笑いながら見ていた真奈ちゃんが言った。

「全然、恥ずかしくないですよ。素敵です」

「もう止めてよ。顔から火が出そうだよ」

「じゃ、言うんだな。それが世界平和の為だ」

「何だよ、それ? 他人事だと思って」

「他人事さ。他人と言っても自分の事じゃないって意味でな。
 大親友の事だからさ、すっごい気になってる」

そこに有希が口を挟んできた。

「ほらほら、美奈子もすごい気になっているみたいよ。ねぇ?」

そう言うと有希は美奈子にウインクをした。

「でも、和也が困ってるし」

美奈子はそう言うと同情するように俺を見た。

「もう・・・判ったよ」

最早俺は諦めの境地になっていた。

「おっ! やっと観念したね?」

「したんじゃない。させられたんだ」

「同じさ。で、何て書いたんだよ?」


俺は渋々ポケットから抽選券を出すと晃には渡さずに美奈子に手渡した。
美奈子はそれを読むとしゃがみ込んで両手で顔を覆って泣いた。

「えっ? 美奈子? ちょっと見せて」

有希が美奈子から抽選券を受け取ったのを見て晃もそれを覗き込んだ。

「和也クン・・・」

有希も両手で顔を覆った。
すると晃がこう言い放った。

「何だよ、これ? ねぇ、ボールペン借りるよ」

晃はテーブルの上にあったボールペンを取ると抽選券に何か書き始めた。

「おい、勝手な事をするなよ!」

俺は思わず晃に向かって叫んだ。

「良いから」

「良くないよ。いくらお前だって・・・」

そう言いかけた時に晃が美奈子の脇にしゃがみ込むとその抽選券を美奈子に手渡した。

「こうだよな?」

美奈子は晃から手渡された抽選券をただじっと見つめていた。

「おい、何だよ?」

俺は晃に問いただした。
すると涙を拭きながら美奈子は立ち上がると俺にその抽選券を渡してくれた。
その抽選券には晃のごつい字でこう書き足してあった。

<和也と>


「晃、お前・・・」

「別に急ぐ必要はないさ。
 もう十分に遠回りをしたんだから、今更少しくらい時間がかかったって平気だろ?」

そう言うと晃は俺の肩をポンと叩いた。


その時の抽選券はもうすっかり色褪せてしまったけど今でも<俺達>の宝物になっていた。
ただ、晃達と飲むたびに話のネタにされるのにはいい加減辟易している。

あー、何て書いていたのかって?
もう忘れたよ。

「嘘ばっかり」

傍らで美奈子が微笑んだ。



<和也と美奈子が幸せになれますように>



「なぁ、どうせ毎日朝から晩まで就活をしてる訳じゃないんだろ?
 きっと気分転換にもなると思うし、何より人助けだと思ってさ。
 週に二~三日で良いから、ちょっと手伝ってくれないか?」

もう三十一、二年前の事だ。
卒業前に就職が決まらなかった俺は
地元に戻って一年間就職浪人をしていた時に
晃の誘いでとあるボランティアの手伝いをする事になった。


そんな或る日、その日の仕事が終わって帰ろうとしていた時だった。

「山崎さん? 山崎さんって高梨さんの友達でしたよね?」

そう言って声を掛けてきたのが菅原美奈子だった。

「えっ? あぁ、そうだけど」

菅原美奈子の第一印象はセミロングの髪が似合う明るい子だった。
実際、笑うと目尻が下がってクシャクシャな笑顔になるんだけど
それが又、嘘なくらい可愛かった。
人伝に聞いた話だと歳は俺より二つ下で地元の信用金庫に勤めているらしい。
ボランティアでは同じ班になる事はなくて
あまり話した事も無かったけど俺はしっかりチェックだけはしていたのだ。

その美奈子から俺に話しかけてきたのだ。
俺はちょっとドキドキしながらも努めて平静さを装って聞き返した。

「何?」

聞き返す俺に美奈子は少しためらいながら口を開いた。
いつも遠くから見ていた笑顔ではなくむしろ神妙な面持ちだったが
そんな顔も又、素敵だと思った。

「すみません。いきなりな話なんですけど・・・
 あのぉ、私の友達の有希が高梨さんの事を好きらしくて。
 で、私『いつも傍にいるんだからチャンスはあるでしょ?
 思い切ってアタックしたら?』って言ってたんですけど。
 でも、いざとなるとなかなか高梨さんに言えなかったみたいで。
 で、私。なんとかしてあげたいなって・・・
 で、その・・・高梨さんに・・・訊いてもらえませんか?
 有希はシッカリ者だし、料理なんかも得意で・・・えーっと・・・
 そう! でも、他人の面倒見は良いくせに自分の事になるとからっきしで
 とにかく良い子なんです! だから、その・・・」

「晃?」

俺は内心ちょっとガッカリしたけど、まぁ現実はそういうもんだろう。

「有希さんって・・・あぁ、晃と同じ班のショートカットの子だっけ?」

「はい、傍で見ていても二人は良い感じに見えるんですけど
 でも、何だか高梨さんの方が、何て言うのか・・・
 あのぉ、高梨さんって彼女とかいるんですか?」

「んー、今はいないと思うけどね」

「ホントですか! じゃ、ぜひお願いします!
 高梨さんに有希の事をどう思っているのか訊いてもらえませんか?
 ダメならダメでも良いんです。
 でも、ハッキリしないと有希もケジメが付かないと思うし」

「オーケー。解った。訊いてみるよ」

「ありがとうございます!」

そう言うと美奈子はペコリと頭を下げた。

『さてさて、引き受けはしたものの、どうやって晃に話そうか?
 こりゃ、責任重大だぞ!』

俺の話し方ひとつで、もしかしたら上手くいくかもしれないし
もしかしたら全てがオジャンになるかもしれない。
上手くいけば美奈子に感謝をされるだろうけど
万が一、上手くいかなければ美奈子に頼りない男だと思われてしまうだろう。

『さて、どうやって・・・』

俺はしばし腕を組んであれやこれやと作戦を考えていた。


ところが実はこれは晃と有希が考えた計略だったのだ。

もちろん、これは後で解った事ではあるんだけど
その時には二人はもう既に付き合っていて
なんと晃と有希は俺と美奈子を近づけようとしていたのだ。

それを知らない俺はその夜、晃に電話をした。

『おぉ、どうした?』

考えあぐねた末に出した結論。
それは単刀直入だった。
なんとも我ながら情けない結論だと思った。
だが、下手な小細工はむしろ上手くいく事さえダメにするような気がしていた。

「いや、実は今日。菅原美奈子が来てさ」

『菅原? あぁ、お前が前に可愛いって言ってた子な? それで?』

「うん、それでね。有希さんってお前の班にいるだろ?
 その子がお前の事を好きだって言うんだ。
 で、今彼女がいないのなら付き合ってくれないか訊いてくれって言われてさ」

『有希? あぁ、有希ね・・・』

「どう?」

『どうって・・・まぁ、可愛い子だと思うよ』

「じゃ、付き合ってみたら?」

『そうだな、考えておくよ』

何だか、いつもの晃らしくなく妙に素っ気ない返事だった。

「何だよ? 気に入らないのか?」

『いや、そういう訳じゃ・・・
 そうだ! そしたらさ。今度の日曜日に四人で会わないか?
 いきなり二人でって言われても、何か照れくさいしさ。
 良いだろ? 付き合えよ。お前にも責任はあるんだからさ』

「責任? 責任って何だよ?」

『お前、菅原美奈子が可愛いって言ってたろ?』

「まぁ・・・」

『なら、ここで親しくなっておくのってお前にとってもチャンスじゃない?』


次の日曜日。祐二さんの喫茶店で四人で会った。
他愛もない話やお互いの小さかった頃の話とかで盛り上がって
気が付けば四時間以上が経って時間は夕方の六時を過ぎていた。

「おっ、もうこんな時間か? 有希、この後どうする?
 時間があるなら何処かで食事でもしてく?」

晃が有希に訊いた。

「はい、喜んで!」

有希は笑顔で答えた。

「お前らも行くだろ?」

晃が俺に訊いた。

「いや、これ以上お邪魔虫はしないよ。お二人で仲良くどうぞ」

「そっか。そしたら和也。お前、ちゃんと美奈子さんを送って行けよ」

「えっ? 俺?」

「何を言ってんだよ。当たり前だろ?」

「でも、美奈子さんだって都合とか・・・ねぇ?」

「いやでも、山崎さんに迷惑だし・・・」

俺と晃を見比べながら戸惑いの表情を見せる美奈子。

「そんな事はないよ。なぁ?」

晃が俺の背中を押した。

「もちろん」

「じゃ、美奈子さんを頼んだぞ」

そう言って晃は俺の肩をポンと叩くと有希と連れだって店を出て行った。


<美奈子さんを頼んだぞ>の意味がどういう意味だったのかはともかく
今、思うとしらじらしいくらいの晃と有希の小芝居に乗せられたかっこうで
店を出た後、俺は美奈子を送る事になった。


「あの二人、かなり良い感じでしたよね。きっと上手くいきますね」

歩きながら美奈子は本当に嬉しそうに言った。

「そうだね。上手くいくんじゃない?
 何だか、あの二人はもう何年も付き合ってるみたいに自然に話が合っていたしさ」

「ですね。良かったぁ」

まるで自分の事のように美奈子は心からの笑顔を見せた。
その笑顔は俺の心臓を射貫くには十分過ぎるくらいの威力があった。


キッカケはともかく。
その件があったお陰で俺達も自然に付き合うようになっていった。

幸せな時間だった。

愛し合うという事は決して時間の長さではなくて
その期間にどれだけお互いの想いを尽くせるのか?
その深さなのだと実感できた日々だった。


それから夏が来て秋になり年が明けて
やがて冬が盛りを過ぎた頃、ようやく俺の就職が決まった。


「ホント!? 良かったね。うん、良かった!」

祐二さんの店のいつものカウンターではなく
その日は窓際のボックスの席に美奈子を座らせて就職の報告をした。
先ずは誰よりも先に美奈子に聞いて欲しかったのだ。

「ありがとう。何だかね。ようやくスタートラインに立てた気分だよ」

「そうね。大変なのは働き始めてからだものね。
 何でも相談して。こう見えて私の方が社会人としては先輩だから」

「はいはい。お願いします! 頼りにしてます、先輩!」

「オッケー、任せといて! って、言いたいとこだけど。
 でも、和也の方がずっと大人だもんね。
 私なんか、頼りになるかしら?」

「あはは、頼りになるよ。さすがに信金勤めだけあってシッカリしてるしさ。
 美奈子になら結婚をしても安心して給料を全部預けられるよ」

「えっ?」

驚いた顔で美奈子が俺を見た。

「オホン!」

ひとつ咳払いをすると席に座り直して俺は美奈子の目を見て言葉を続けた。

「あのさ。実はもうひとつ報告があるんだ」

「・・・」

「実は勤務先なんだけどね。S市に配属される事になったんだ」

「S市? そっか、けっこう遠いね・・・」

俺の視線を外して窓の外を見ながら美奈子はポツンと言った。
S市はここからだとJRでも五時間はかかるし車だと六時間近くはかかる距離にある。

「それでさ。あの・・・そんなに頻繁には戻って来れないと思う。
 入社したら一ヶ月はビッシリ研修もあるし・・・
 だから、その・・・一緒に来て欲しいんだ。
 もちろん、美奈子も仕事の事だってあるだろうからすぐにとは言わないけど。
 でも、なるべく早く来て欲しい。 美奈子、結婚しよう!」

「・・・」

目の前には戸惑った顔の美奈子がいた。

取らぬ狸の皮算用とはまさにさっきまで自惚れていた俺だ。
結婚の時期はともかく、すぐに良い返事がもらえるものだとばかり思っていたし
その<答え>しか想定してはいなかったのだ。

取り繕うように俺は続けた。

「いや、だから・・・すぐじゃなくて良いんだ。
 美奈子の仕事が・・・」

そう言いかけた時に美奈子が呟いた。

「ありがとう。とても嬉しい・・・
 でも、すぐに返事は出来ない・・・ごめんね」

「いや、良いよ。そんな急に言われたってね」

自嘲気味に俺は言った。

「そんなんじゃないの。ただ・・・すぐには決められない・・・」

「うん、判った。良く考えてくれないか?
 俺は美奈子に一緒に行って欲しい。いや、美奈子と一緒に行きたいんだ」

「うん・・・ごめんね」


美奈子の結論が貰えないまま俺はS市に赴任した。

もちろん、それまでも変わらずに美奈子とは会っていたし
俺が赴任してからも二日に一度は電話をし他愛もない会話に笑い合っていた。
月に一度は極力帰って美奈子との時間を作っていた。

会っている時の美奈子は<何事>も無かったかのように
それまでと何ら変わらずに俺を愛してくれた。
俺も美奈子を愛した。


俺はいつも美奈子の結論・・・もちろん、良い意味での結論を待っていた。
でも、訊けなかった。訊くのが怖かったのだ。
俺が急げば急ぐほど出る結論は悪いものになるんじゃないか?
そんな思いがいつも俺の頭の中にあった。

そしてそれは現実になった。


美奈子の家庭は母子家庭でまだ高校生の妹と中学生の弟がいた。
母親が女手ひとつで美奈子達を育ててくれていたのだが
長年の無理がたたり、その頃母親は入退院を繰り返すようになっていた。
フルタイムで働けない母親の代わりに
高校を卒業すると就職をした美奈子は妹弟の学費を面倒見ていたのだ。


今にして思えば俺にも美奈子にも違った選択肢はいくつも有ったのだろう。
だが、あの時の二人は目の前の事しか考えられずにいたように思う。
<白か黒か?> <イエスかノーか?>
答えはどちらしかないと思っていたのだ。


別れて五年ほど経った時、晃から美奈子が結婚をしたと聞いた。
そして、それから三十年が経とうとしていた。


勤続三十年という事で
会社から一週間のリフレッシュ休暇をもらった事もあり
野暮用ついでに俺は久しぶりに故郷に戻った。

十年前に父親を、そして三年前には母親を亡くして
もう戻る事もないと思っていた故郷だったが
実家の土地を買いたいという人がいるという連絡が
仲介を頼んでいた不動産屋から入ったので
その手続き等もあったし
何より、お盆を二ヶ月後に控えて久しぶりの墓参りもしたいと思っていたのだ。


故郷に帰るに際して地元の友人には連絡をしていたので
その夜は友人達と繁華街の居酒屋に集まった。

高校の同級生で今でも一番親しい友人の晃とその奥さんの有希。
そして、高校時代に晃と通っていた喫茶店で親しくなり
それ以来付き合いの続いている智宏と奥さんの優子。
そして、早めに店じまいをして駆けつけてくれたその喫茶店のマスターの祐二さん。
何故か当時喫茶店でバイトをしていた真美ちゃんもいた。
何と今はマスター婦人なんだとか。
歳も確か十五歳はマスターより下だったはずだ。


「ところで、どうなんだよ?」

タバコに火を付けながら晃が訊いてきた。

「何が?」

その質問の意味を解っていながらトボけたフリをして俺は返した。

「何がじゃねぇよ。結婚だよ、結婚!」

「あぁ」

「あぁって。お前ねぇー、結婚する気はないのかよ?」

「いや、別に。縁があればいつだってするさ」

「確か、二十年前も同じ事を言ってたよな? 十年前もだけど」

「そうだっけ?」

「お前ねぇ-、他人事じゃないんだぜ。解ってる?」

「そうは言ってもなぁー。
 でも、いくら結婚をしたいって言っても一人じゃ出来ないしさ」

「理想が高過ぎるんじゃないですか? 和也さん、モテそうですもねぇー」

焼き鳥を頬張りながら真美ちゃんが口を挟んできた。

「そんな事はないよ」

「ダメですよぉー、適当なとこで手を打たないとぉ。
 私みたいに、ねぇ?」

真美ちゃんはそう言うと悪戯っぽく笑って祐二さんを見た。

「適当なとこで手を打ったのは俺だよ。
 誰だっけ? 酔ったフリをして俺に無理矢理キスをしてきたのは?」

お返しとばかりに祐二さんが真美ちゃんに言った。

「ひどーい! アレはマスターがしたそうにしてたからですよぉー」

「まぁまぁ。痴話ゲンカは帰ってからにしましょ!」

笑いながら有希が二人をなだめた。

「でもホント、不思議よね。うちの人と違って優しいしハンサムなのに」

晃の顔を見ながら有希が言った。

「おいおい、それはどういう意味だよ?」

「そういう意味よ」

「意味が解んないんだけど」

晃が口を尖らせた。

「いやぁーねぇー 自分を知らないって怖いわぁ」

「すまんね。それが解ってりゃお前とは結婚してないよ」

「あら、ねぇ? 聞きましたぁ、奥様?
 どの口が言ってるのかしらねぇ-?」

有希が隣の優子の膝をチョンと叩いて答えを促した。

「それ私が答えるの?」

優子が苦笑しながら有希に訊いた。

「えぇ、言って差し上げたら?
 『結婚前の浮気がバレた時に泣きながら土下座までして
  もうしません、もうしませんって謝った後で
  有希さんに結婚をせがんだのは晃、お前だろー?』ってね」

すまし顔で有希が答えた。

「おいおい、いったいいつまで俺は十字架を背負わされるんだよ?
 もう何十年経ってると思ってる? いい加減に時効にしてくれよぉー!」

「だって面白いんだもん」

「あのなぁー ・・・もう!」

どう言っても勝ち目のない晃はグイッと一息でビールを飲み干した。

「はい、これで私の387連勝ね、やったぁー!」

有希はわざと大袈裟に万歳をしてみせた。

「なんでいっつもこうなるんだよ?
 今日はみんなで和也を攻めるんじゃなかったのかよ?」

「なんで和也クンを? そんなひどい事、私ぃ出来なぁーい。
 私は和也クンの味方だしぃ」

「おいおい、お前こそ、どの口が言ってるんだよ?
 和也が来る前は『今度こそ絶対に和也クンを結婚する気にさせる』
 とか言ってたくせに」

「このク・チ。女の口はいっぱいあるのよ」

有希が笑いながら人差し指を自分の口に当ててみせた。

「お前なぁー」


相変わらず何を言っても漫才に聞こえるくらい息もピッタリの仲の良い夫婦だ。
結婚をしてもう三十年近く経つというのに昔と全く変わっていない。
今年のクリスマスの頃には息子さん夫婦に待望の赤ちゃんが産まれるんだとか。
きっと二人共、良いじーちゃんとばーちゃんになるに違いないと思った。


二人を見ながらそんな事を考えていると今度は優子が話をぶり返してきた。

「ねぇ。和也さんって、もしかしてこっち系だった?」

右手の甲を左の頬につけてオネエポーズで優子が言った。

「マジかよ?」

智宏が俺の顔をマジマジと見た。

「な、訳ないよ」

俺は思わずマジレスをしてしまった。

「じゃ、どうして? 別に童貞を守ってるって訳でもないだろ?」

智宏が言うと女性陣がザワついた。

「キャー! 和也クンって童貞なの?」

「あーん、もう少し早く知ってたら私が奪ってあげたのにぃ-」

「おいおい、お前ら酔っ払ってんじゃねぇーよ」

晃が笑いながら言った。
それに被せて更に智宏が言った。

「あっ、童貞はないか? 彼女いたもんな。じゃあ、なんで?」

俺は立て続けに振られる質問攻めに苦笑をするしかなかった。

「ねぇ、そう言えば・・・」

晃の顔を伺いながら急に真面目なトーンで有希が言った。

「今更、こんな話を言って良いのか判らないけど」

晃は黙って頷いた。
それを見て有希は言葉を続けた。

「美奈子ちゃんね。一昨年に離婚したのよ。
 ご主人のDVが理由だったみたい。
 今は信金時代の経歴を買われて商工会議所で働きながら
 娘の真奈ちゃんと二人で駅裏のマンションに住んでいるわ」

突然、出てきた美奈子の名前に俺は思いっきり動揺をした。


しんしんと雪が降るクリスマスの夜
街中のイルミネーションも降る雪に霞んでいた。

病院の駐車場に車を停めると
男は小走りに病院の玄関に向かって走り出した。

「おっと!」

二~三度転びそうになりながらも何とかこらえて
男は無事に玄関に駆け込んだ。

エレベーターの前でゆっくりと上がっていく
オレンジ色の点滅をもどかしげに見ていた男は
ふと見た先に階段を見つけると階段に向かって駆けだした。

そのまま一気に三階まで駆け上がると
丁度そこは妻の入院をしている病室のすぐ前だった。

男は病室のドアを開けるとすぐさま妻の元に駆け寄った。

「まぁ、司さん! 早かったのね」

「司君、お帰り」

「あー、お義父さん! あっ、お義母さんも」

ベッドの傍らには満面の笑みを浮かべた妻の両親が立っていた。
病室に駆け入って来た娘婿を義父がねぎらった。

「ご苦労さんだったね。この雪じゃ大変だったろ?」

「あっ、いえ」

「そうそう。司さん、ごめんなさいね。
 私達の方がパパより先に赤ちゃんに対面させてもらったのよ」

申し訳なさそうに義母が言った。

「いえ、全然」

司は笑顔で答えた。

「もう仕事は良いの?」

出産という大仕事をやってのけた充足感からか
いつも以上に清々しい笑顔で妻は尋ねた。

「クリスマスの夜に残業をさせるほど
 うちの会社はブラックじゃないよ。
 それより赤ちゃんは?」

妻のベッドの横には小さなベッドが並べて置いてあったがそこは空だった。

「今、看護師さんがオムツを替えてくれているの。
 もうすぐ戻って来るわ」

「そっか」

産まれたばかりの赤ちゃんとの感激の初対面を期待していた男は
あからさまにガッカリした風で
それでも寸でのところで妻に大事な事を言い忘れていた事に気が付いた。

「縁(ゆかり)。お疲れ様。そして、ありがとう!」

そう言って男は妻の手を握った。

「すっかり赤ちゃんに夢中で私の事なんか忘れているのかと思ったわ」

縁はそう言ってわざと大袈裟に口を尖らせた。

「いや、そんな事なんかあるもんか!」

「ふふ。どうだか」

そう言いながらも縁は嬉しそうだった。


「ねぇ? 名前はどうしようか?
 いくつか候補は考えてあったけど
 いざ、赤ちゃんの顔を見たらどれが良いのか迷ってしまうわ。
 だって、これから一生付き合っていく名前だもの。
 こんな子に育って欲しいとか、幸せになって欲しいとか
 つい、アレもコレもって欲張っちゃうわ」

「あはは。そんなもんだよ」

義父が笑顔で言った。

「私の時もそうだった?」

「そりゃもう大変だったわ」

義母が嬉しそうに笑った。
そして、ふと間を空けると思い出してでもいるように呟いた。

「あの子が亡くなって程なくしてあなたを身ごもったのが判ったの。
 嬉しかったわ。あの子が戻って来てくれたって。
 もちろん、あなたはあの子じゃないわ。
 あなたはあなたよ。
 でもね、あの時は心の支えを無くしていたから」

「うん」

神妙な顔で縁は話に頷いた。

「みゆきか・・・可哀想な事をしたよ」

義父がしんみりと言った。

司も幼くして亡くなった縁の姉の事は聞いていた。
司はそっと縁の手を握った。

「あなたが産まれるまでも大変だったのよ。
 お父さんったら、アレもするな、コレもするなって。
 ねぇ? どこかのお姫様じゃあるまいし
 妊娠したぐらいで家事も放っておけないじゃない?
 そうそう! 名前なんて、もう何十個考えたかしら。
 お父さんなんてね、いちいち半紙に書き出して
 画数がどうのとか、この字はダメだとか。
 そりゃもう大騒ぎだったわ」

「お父さんらしいね」

「オホン。だって、お前・・・仕方ないじゃないか。
 どうしても縁には幸せになって欲しかったんだよ。
 みゆきの分も、いやそれ以上にね。真剣にもなるさ」

「そうね」

「あぁ、そうさ」

「でね。人間って幸せになる為には
 たくさんの人に縁をもらって生きなきゃいけないの。
 お父さんとお母さんとの縁、みゆきとの縁もそう。
 そして、友達やら・・・今は司さんとの縁もそうよね。
 その縁を繋ぐ事で幸せになれるのよ。
 そんな縁をたくさんもらえますようにって願ったの」

「だから<縁(ゆかり)>なんだね。
 初めて聞いた」

縁は司の手を取ると腕に抱きついて幸せを感じていた。


「お待たせしました。あらっ、パパも到着ね?
 はい、お父さんですよー」

恰幅の良い、いかにも人の良さそうな看護師が
そう言うと、赤ちゃんを司の元に連れて来た。

看護師に抱っこされたままスヤスヤ眠っている娘を
初めて見た時、司は頷いた。

「うん、良い寝顔だね。この子は幸せになるよ。
 だって、みんなから素敵な縁をたくさんもらった縁が産んだ子だもの」

「そうだね」

縁も頷いた。

「よし、決めた!」

「えっ、何?」

「名前さ。この子の顔を見て決めた」

「何? 今まで考えてた名前?」

「いや、今思いついたんだけどね。
 でも、この子は絶対に気に入ってくれるよ」

「ねぇ、何?」

縁、義父、義母、
そして赤ちゃんをベッドに寝かせ付けていた看護師の視線が司に集まった。
司はみんなの視線に気が付いて少し赤面をした。

「やだなぁ-、そんなにじろじろ見ないでくださいよ」

「良いからもう、早く教えてよ!」

戸惑う司を縁がせき立てた。

「あの・・・クリスマスの雪の夜に産まれた子だからさ。
 聖夜の<聖>に降る<雪>と書いて<みゆき>と言うのはどうかな?」

思わぬ名前に義父と義母は顔を見合わせた。

「ダ・・メ・・・かな?」

司は恐る恐るみんなを見渡した。

「でも、司君・・・」

義父の言いかけた言葉を縁が遮った。

「うん。キレイな名前! 良い、絶対良いよ!」

そう言うと縁は半身を起こすと傍らのベッドを覗き込み
髪を優しく撫でながら赤ちゃんに語りかけた。

「聖雪ちゃん、良かったね。素敵な名前を付けてもらって」

「そういや、みゆきの産まれた時に似ているかな?」

「いいえ、お父さん。私が産まれた時の顔にソックリですよ」

「おいおい、それじゃ司君が嫌がるぞ」

「まぁ! そうなの、司さん?」

義父の言葉に憮然として義母が訊いた。

「あっ、いえ。そ、そんな」

「冗談よ」

そう言って義母は声を上げて笑った。
みんなもそれに釣られて声を上げて笑った。

「おや、賑やかそうだね」

そう言って病室に入って来たのは主治医の八代医師だった。
何年も着古しているようなヨレヨレの白衣姿は
パッと見は冴えない印象だが、この地域では名医として知られていた。

「縁さん、調子はどうだい?」

「はい、お陰様で幸せです」

「そうかい、そりゃ何よりだ」

その言葉に微笑むと八代医師は赤ちゃんの寝顔を覗き込み話しかけた。

「うん、良い寝顔だ。
 これだけ賑やかなのにスヤスヤ眠っているなんて
 この子は元気な子になるな。
 早く良い名前を付けてもらうんだぞ」

「あら、先生。名前ならもう付けてもらったんですよ。
 ねぇ-、素敵な名前よね?」

聖雪に話しかけながら看護師が楽しそうに答えた。

「ほう! で、何ちゃんかな?」

「はい。聖夜の<聖>に降る<雪>と書いて<みゆき>です」

「<みゆき>ちゃんか。まさに今夜は聖雪ちゃんの為の夜だね。
 そうそう!」

思い出したように言うと八代医師は小脇に抱えていた小さな箱を縁に手渡した。

「何ですか?」

「開けてごらん。サンタさんからのプレゼントだよ」

そう言って八代医師はニヤリと笑った。
縁が箱を開けると中には高さが15cm程のクリスマスツリーが入っていた。

「まぁ!」

「少しは病室も賑やかになるかと思って持って来たんだが
 その必要はなかったかな。もう十分に賑やかだしね」

「いえ、そんな。ありがとうございます。
 聖雪には何よりのプレゼントです」

「いや、一番のプレゼントは名前だよ」

「はい!」

縁は最高の笑顔で答えた。

「そうそう、加藤君?」

八代医師は看護師に話しかけた。

「そういえば、さっき婦長が探していたぞ」

「あっ、いけない! つい長居しちゃったわ。
 縁さん、何かあったらすぐにコールしてね。
 今夜は私が夜勤だから」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃね。又、後で様子を見に来るわ」

ドタドタと加藤看護師が病室を出たと思った途端
又、病室のドアがゆっくりと開いた。

「メリークリスマス!」

そう言って入って覗き込むように来たのは
縁が出産の時に立ち会った日勤の看護師の七瀬だった。

「あらっ、七瀬さん! 先ほどはありがとうございました」

縁はそう言うと笑顔で頭を下げた。

「あっ、とんでないですよ。
 どうですか? まだ間もないんだから無理はダメですよ」

「はい。大丈夫です。
 こうしてみんなでこの子を囲んでいると不思議なくらい元気をもらえます」

「ホント、赤ちゃんってすごいパワーを持っているんですよねー」

そう言いながら七瀬は聖雪の頭を二度、三度と優しく撫でた。
それから縁に向かって訊いた。

「そう言えば名前はもう決まりました?
 まだなら詰所に何故か名付けの本がたくさんあるんですけど
 何冊か持ってきましょうか?」

「決まったんですよ」

「あらっ、ホントですか? 何て名前なんですか?」

縁は名前を教えた。
司が説明をしたのと同じ言い方で。

「あら、素敵! 誰が考えたんですか? 縁さん?」

「いえ、パパが」

縁はそう言うと嬉しそうに司を見た。

「まぁ、パパさんてロマンチストなんですね」

「普段はそんな所は見せないんですけどね」

「おいおい、それは余計だろ?」

「そうだよ。縁を選んでくれた時点で良い婿さんだと思ったよ」

義父が司をかばった。

「もう! 冗談に決まってるでしょ!」

「あはは、もう良いよ」

司は苦笑した。

「そうだ! 忘れるところだったわ。ちょっと待ってて」

そう言うと七瀬は病室を出て行ったが、すぐに戻って来た。
後ろ手には何か箱のようなモノを隠していた。

「じゃーん! はい、聖雪ちゃんにプレゼント!」

そう言うと七瀬は縁に箱を手渡した。
駅前の有名なケーキ屋の箱だ。

「どうしたの?」

「クリスマスですからねー、ケーキです!
 部屋に帰って独りで食べるのも寂しかったんで一緒にどうかなって」

「嬉しいわ!」

「そうだ、肝心のクリスマスケーキを忘れてた」

司はそう言うと頭を掻いた。

「出産騒ぎでそれどころじゃなかったろうさ」

「騒ぎって?」

縁は父親をきっと睨んだ。
義父としては婿をフォローをしたつもりだったが
またしても少し的が外れたようだった。

「いや、それはその・・・」

「聖雪のバースデーケーキでもあるね」

今度は司が話題をそらそうと義父をフォローした。

「仲の良いお義父さんとお婿さんですね。
 私もそんなお婿さんが欲しいなぁ-」

「七瀬さんなら大丈夫よ」

苦笑しながら縁は言った。

「えー? ホントですか?
 じゃ、ダメだったら縁さんが責任を取ってくださいね」

「それじゃ、司さんの同僚でも紹介しようか?
 ねぇ、司さん?」

「えっ? あっ、あぁ・・・」

「おいおい、いったい何の話になってるんだい?
 ここは結婚相談所じゃなくて病室だったはずだが?」

八代医師がもっともな事を言ってみんなを笑わせた。


「じゃ、とりあえず私達はここで失礼するよ」

「明日又、来るからね。そうそう、何か必要な物はある?」

「ううん、とりあえずは大丈夫。
 お父さん、お母さん、ありがとうね」

「何を言ってるの。ありがとうはこっちの台詞よ。
 ねぇ、お父さん?」

「あぁ、その通りだ。良い子を産んでくれてありがとう」



みんなが帰って三人きりになった病室は静かだった。
初めて迎える家族三人の夜。
そして初めてのクリスマス。
司と縁は聖雪の寝顔を黙って見つめながら充実した幸せを感じていた。


「あー、まだ雪が降ってるんだね」

立ち上がって窓に向かい病室のカーテンを少し開けると司は言った。
縁は傍らの聖雪を黙って見ていた。
それから司に向かって頭を下げながら言った。

「司さん、ありがとう。
 みゆき姉さんもきっと喜んでくれているわ」

司は又、ベッドの傍らに歩み寄ると聖雪の寝顔を見ながら呟いた。

「これも君がくれた素敵な縁さ。
 お義父さんもお義母さんも八代先生も七瀬さんも加藤さんもみんな素敵な人だね」

「うん」

「みんなで幸せにならなきゃね」

「そうね」

縁も頷いた。
司はベッドの傍らに腰を下ろすと縁の肩を抱いて言った。

「縁と聖雪との初めての素敵な夜にメリークリスマス」

その言葉にベッドでスヤスヤ眠っていた聖雪が微かに微笑んだように見えた。



     ~おしまい~




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